閑話14 貢献する為に

  僕――浅黄龍二(あさぎりゅうじ)は、日本でも屈指と言われている浅黄財閥の御曹司である。

 16世紀末に清酒の製造を始めたことが、今の浅黄財閥の発祥だと言い伝えられている。その後は大阪に進出して、両替商に転じて一時期は江戸最大の財閥に発展していったという。そして現在では、金融商品の企業グループを複数経営している。

 僕の上には2人の兄姉、優秀な兄と姉がいる。その2人は日本一と言われる大学に入学して無事に学業を修めて、今では幾つかの会社を経営して働いている。

 兄たちとは少し年の離れて生まれた僕は、多分甘やかされているのだろう、こんなに凄い家に生まれながら自由に生きさせてもらい、勉強もそこそこにしか頑張らなかった結果、兄たちには絶対に勝てないと思えるような平凡な人間になってしまっていた。

 それを自覚した時は、もう来年になれば中学生になるという年齢だった。それじゃあ駄目だと考え直す。家のために何か自分の力で貢献できる事はないだろうかと考えた。

 兄たちと同じように会社を経営できるような、頭の良さは自分にあるだろうか? 僕は数字の計算など算数が苦手で、予習している数学についても既に自分で才能はないと判断できるぐらいの能力。だから、多分駄目だろう。

 会社のトップとして働けるような人望があるだろうか? 甘やかされて生きてきた自分に人を惹きつけるようなカリスマがあるとは思えない。やっぱり駄目だろう。

 他にも色々と考えてみたけれど、僕に出来るという事が何も思い浮かばない。これじゃあ、世間で知られる横柄でわがまま、しかも世間知らずで役立たずでもあるという御曹司の定番イメージと僕は同じだと思われてしまう。

 そんな最悪なイメージの御曹司だと思われているなんて嫌だ。自分で考えつかないから、誰かに相談するべきだ。

 そう考えて、僕は一番の頼りになる父親に相談することにした。

「どうした、龍二?」
「僕にも何か出来る仕事は無い?」

 仕事の忙しい父親だったが、夕食は時間を確保して家族皆で団らんを過ごしてくれる人だった。最近は忙しくしている兄と姉の2人は食卓に集まることも少なくなってしまったけれど、僕は小学生で暇なので父と母とで一緒に過ごす事が出来ていた。

 そんな時間を利用して、僕は父さんと話をする。

「仕事? まだ龍二には早いだろう?」
「でも、兄さん達はもう働いているよ」

「光一郎と瑞月はもう大人だが、龍二はまだ子供だろう。心配しなくても大丈夫。大人になったら、ぜひ助けてもらおうかな」
「それじゃあ遅いんだ。僕は、ボンクラな御曹司になんて成りたくないんだよ!」

 気がつくと僕は、大きな声で父さんに向かって主張していた。心の底から湧き出てきた強い気持ちによって。

「……」

 すると父さんは、黙ったままスッと僕を鋭い視線を向けて見つめてきた。僕は何かテストをされていると思い、視線をそらさずに見つめ返した。

「ふぅ、わかった。何か考えておく」
「本当!? お願い」

 父さんは僕のお願いを聞き入れてくれて、何か仕事をさせてくれるようだった。まだ何をするのか分からないけれど、これで浅黄財閥の役に立てるような事ができるんだと思った。


***


 それから数日後、父さんは僕のお願いをしっかりと覚えていてくれて、僕に出来るというシゴトを持ってきてくれた。

「アイドル?」
「そう、龍二はこのアイオニス事務所という芸能事務所に所属してアイドルとなってもらう。そこで浅黄財閥の看板を背負うという、新しいアイドルとして活躍してもらいたい」

 父さんの持って来た話は、僕が想像もしていなかった驚きのアイデアだった。けれど、コレなら僕にも出来るかもしれないと思えた。

「うん、分かった! 頑張ってみるよ」

 こうして僕はアイオニス事務所の社長である三喜田さんという人と会って話をし、そこでChroma-Keyという新しいアイドルグループが立ち上がる話を聞いて、そのメンバーの1人になるようオファーされた。

 三喜田さんの話しによれば、アイオニス事務所で一押しのアイドルグループとして、トップアイドルとなれるような人材を探していたと教えられていた。

 そんなグループのメンバーとして活躍ができれば、浅黄財閥の役にも立てる早道になるだろうと思えて、オファーを受けることにした。

 しかし、心配だったのは僕はアイドルというモノになる為のトレーニングを一切していない。

 Chroma-Keyのメンバーは5人組であり、僕自身を抜いたら4人のメンバーを集めるんだと三喜田さんは語っていた。そして既にメンバーとして決まっているらしい赤井さんと青地さん、という2人はずっと昔から活躍している凄腕らしい。

 そんな人達と一緒にやれるのか。いや、シゴトとして受けたからには全力で頑張らないといけない。

 まずは、アイドルとして少しでも早く活躍できるように、Chroma-Keyのメンバーとなる人達にも負けないように能力を高めるトレーニングを受けないといけない!

 そう考えた僕は少しだけChroma-Keyのメンバー達とは合流するのを待ってもらって、個別に特別メニューのトレーニングを用意してもらって鍛えることにした。