第55話 アイドルデビュー

 Chroma-Keyは5人のメンバーがようやく揃って、それから約半年ちょっとの月日が経っていた。

 緑間拓海が無事に前事務所からアイオニス事務所に移籍が完了して、三喜田社長が当初から予定していた5人組となってChroma-Keyというグループはデビューにこぎ着けた。

 そして、デビュー発表と共に初のライブイベントを早速開催するという告知も行って、そのために初ライブが目前に迫っているという状況。

 だがしかし、ココに来てアビリティズ事務所の社長である金森が再び邪魔立てをして、俺たちのライブを妨害しようとしていた。彼はメディア各所にお得意の根回しをして、Chroma-Keyのデビューとなる初ライブが開催という情報を一切流さないようにと要請していたのだ。

 これでは、世間の人たちに初ライブを行う事を知らせられないのでライブにはお客さんが来ない、会場を埋められないから初ライブは失敗に終わってしまうかも、と俺たちは危惧していた。

 けれども、結果は何の問題もなくChroma-Keyデビューのライブチケットは即日完売していた。それは何故かと言えば。

 実は、今までの下積み時代で密かにファンを増やしていたらしい、俺と剛輝。そして、俳優としての活躍で元々からファンが居る拓海。そんな人達からチケットを買ってもらって、特に事前の宣伝も必要ないくらいには支障がなかった。

 その他にも、テレビや雑誌などのメディアとは関係の薄いインターネットを駆使して独自に動いて宣伝活動をしてみた、と言ってお客さんを集めてみせた舞黒。

 そして龍二も、財閥の御曹司として持っている独自の関係から広めていった情報によって、それを聞いた彼の家に関係する企業グループや取引先の関係者というような、社会人のお客さんも沢山やって来ていた。

 デビューして初ライブだというのに既に多くの人達が俺たちの事を知ってくれていて、テレビや雑誌などで情報を流さなかったというのに、チケットは完売。

 わざわざ事前に宣伝をする必要がなく、むしろアイドルの初ライブとしては前例がない程にチケットが売れてしまうという結果になっていた。


***


 そして今日がようやく、初ライブ本番の日。ステージ裏で待機中の俺たち5人。既に衣装に着替えて、開始の時間が来ればステージに出ていくという直前である。

 今まではバックダンサーとしてライブを盛り上げる役として頑張っていたけれども、今日はステージの中央に立って主役として活躍する。久々に勇み立つと言うべきか、気持ちが高ぶる場所で働けると俺は気合い充分だった。

 しかし他の4人、剛輝たちは緊張した面持ちで立っているのもやっとだというような感じであり、大丈夫だろうかと心配になってくる。

「大丈夫?」
 思わずそのまま、ストレートにそう剛輝へ問いかけてしまう。それほど心配になるぐらい、彼は顔を青くさせて、焦点の合わない視線に不安げな表情を浮かべている。

「あ、ああ。うん、だ、大丈夫や」
 珍しいことに剛輝が緊張していて、危なっかしかった。今まで一緒に何度もステージには出ているし、経験も有るから大丈夫だと思っていたけれどコレは心配だ。

 何故、剛輝はそんなに緊張しているのかを自分で分析していて、その理由を説明してくれた。

「やっぱ、自分がメインになるって考えると緊張してまうわ。先輩らは、よくこんな中で出来てたなって思うねん。今更やけど」

 そんな弱音まで吐いて、いよいよ危なそうだ。しかし、剛輝以外にも緊張の表情を浮かべているのは優人と龍二の2人。

「賢人くん。今までいっぱい練習したけど、やっぱり駄目かもしれないです」

 この半年間で死ぬほどに練習を繰り替えして能力を高めてきた優人は、しかし直前になって気弱になっている。

「僕も、失敗してしまいそうで怖い」

 龍二も優人に影響されてしまったかのように、失敗したらどうしよう、と強いプレッシャーを感じているみたいだった。

「拓海は、大丈夫?」
「僕も、ちょっと危ないかなぁ。舞台でたくさん経験しているはずなのに、デビューするって考えたら震えてきたよ」

 舞台役者とアイドルは、やはり別物なのだろう。それとも、アイドルとしてのデビューで、初めての事だから彼は緊張しているのか。

 確かに拓海本人の申告どおり、本番前の緊張のせいで身体がわずかに震えている。表情は平気そうにして不安を隠せているが、身体は反応してしまっているということだろう。

 そんな中で、俺だけ1人平気に立てていた。初ライブで緊張している皆が普通で、平気な俺のほうがオカシイんだろうけれど、Chroma-Keyのリーダーとしては好都合だった。

 もうすぐライブが始まる直前になって、Chroma-Keyのリーダーである俺は皆を集めて、やる気を鼓舞する事に。

「ちょっと皆、こっちに来て。肩を組んで」

 5人が集まって、輪をつくり肩組み円陣を行う。これから始まるライブを一緒に頑張ろうと、彼らの緊張を少しでもほぐそうと声出しをする為に。

「両足をしっかり地面につけて、皆で一緒に声を出すよ」

 俺の言葉に彼らはしっかりと頷いて、聞いてくれていることが分かる。肩を組んで間近になった彼らの表情を、じっくりと観察して確認していく。

 肩を組み合って身近にお互いを感じた結果だろうか、ココに来て覚悟を決めたのか剛輝たちの表情から不安が薄れているように見える。そうだ、俺達は5人組だから全員が一丸となって頑張れば大丈夫だ。

「日本中から注目されるようなアイドルとなれるよう、今日のライブに皆で一緒に臨もう。さあいこう!」
「「「「おう!」」」

 ライブが開催される直前、会場のステージ裏に俺たち5人の声が響き渡った。

 こうして、ようやく俺は4人の仲間たちと一緒にChroma-Keyというグループとなって、アイドルデビューを果たしたのだった。

【第一部完】