第53話 浅黄龍二の実力

 俺と緑間拓海、舞黒優人そして浅黄龍二の4人で貸しスタジオにやって来た。新たなメンバーとなる龍二くんの能力を見極めるためにだ。

 三喜田社長の話を聞いてみれば、どうやらスポンサーに配慮したような感じで龍二くんを5人目のメンバーとして採用したように思える。そして、それが剛輝を怒らせた。

 けれど、龍二くんにはアイドルとしての素質も十分にあると三喜田社長は語っていた。俺も、三喜田社長に見いだされた身なので、三喜田社長の審美眼が正しいと信じたかった。

 そんな訳で、龍二くんの能力については自分の目で見て確かめてから判断すれば良いと考えて、スタジオへやって来たのだった。

 4人全員が動きやすいジャージの格好に着替えた後、すぐさま龍二くんの能力がどの程度なのか確認する

「それじゃあ早速、どれぐらい出来るのか見せてもらえるかな」
「はい、分かりました」

 音楽を流して、簡単なステップから始める。龍二くんは軽快な動作で動きにブレはなく、しっかりと動けている。そして何よりも、笑顔を浮かべて踊れていることが良い。

「じゃあ、次はこんな感じで」

 次は俺も入って音楽に合わせて踊りながら動きを見せて、龍二くんに新たなステップを教えてすぐさま実践してもらう。

 見よう見まねで覚える、ぎこちない動きではあるものの試行錯誤を繰り返す龍二くん。そして彼はすぐに自分なりに動いてみせた。そしてある程度がモノに出来たら、笑顔で報告してくる。

「こうですか?」
「うん、そう! 後は、手の動きをもっと軽やかに、こんな感じで」

 短い時間だけで判断すると、今のところ龍二くんには踊りのセンスが十分にあると思う。すぐに新しい事も学習して自分なりに吸収し、踊って見せてくれた。

 その次には、優人と拓海も一緒になって4人でトレーニングに励む。

「はい、お疲れ様」
「はぁ、はぁっ、ふう……。ありがとうございます」

 結局、1時間ぐらいのレッスンを続けて行ってみたけれど、龍二くんは途中に休憩を挟むこと無くレッスンに付いてきた。彼は、体力も十分に有ることが確認出来た。

 水分補給の為に俺が飲み物を手渡すと、息を切らしながらもしっかりお礼を言ってから受け取る。まだお礼を言える程度には、体力に少し余裕があるようだった。

「疲れたなぁ。龍二くんは、初めてなのに賢人のレッスンによく付いてこれたね」

 一緒になって急遽のレッスンを受けていた拓海は、リノリウム床に寝転がりながら龍二くんの頑張りを称えた。

「僕も最近ようやく1時間はもつようになったけれど、龍二くんは最初から出来ましたね」
 
 優人は継続して鍛えたことによって今ではかなり体力がついて、長時間でも動けるようになっていた。それでも最初はやはり、優人は体力も少なく1時間もたなかった。その体力の少なかった頃を思い出して、龍二を称賛する。

「ありがとうございます」

 2人から褒められて、龍二くんはニコニコと笑顔を浮かべながらも恥ずかしさを感じているのか顔を赤らめつつ、お礼を言った。

「ところで、龍二くんはいつから三喜田社長に声を掛けられてたの?」

 俺は、少し気になっていた事を解明するために龍二くんに質問する。

 以前に三喜田社長が語っていた、メンバーとなる1人が既に確定していて、すぐに合流すると言っていた人物というのが、浅黄龍二くんの事で間違いないだろう。

 そうすると、あの時、優人がメンバーとなるのが決まってChroma-Keyというグループ名が明らかになった時には既に、龍二くんはメンバーとして決まっていたと言うことだから、いつから声を掛けられていたのかが気になっていた。

「実は、もう半年以上も前にはグループのお話は聞いていて、メンバーになるのは決まっていました。それに、赤井さんや青地さんの事についても教えてもらってました」
「そんなに前から?」

「えぇ、そうです。ウチの親が三喜田社長と以前から交友関係にあって、新しい事務所を立ち上げると言っていたスポンサーを申し出て、その話し合いの時にアイドルデビューについての話があって決まっていました」

 そう言えば、三喜田社長は新しい芸能事務所であるアイオニス事務所を立ち上げる時に、妙に自信満々に大丈夫だと語っていたが、浅黄財閥という大きなスポンサーが居たからだったのかと納得する。

「それじゃあ、何故いままで龍二くんの事を知らせてくれなかったんだろう? 三喜田社長は」
「三喜田社長が赤井さん達に僕の存在を知らせなかったのは、僕が口止めしていたからです」
「ん? どういう事?」

 合流することは確定していて、なのに存在を知らせてもらえなかったのは龍二くんが存在を隠すように三喜田社長を口止めしていたから。でも、それは何故? 理由が思いつかずに、本人に問いかける。すると、こんな答えが返ってきた。

「赤井さんと青地さんの二人のことは、話を聞いて以前から知ってました。それで、踊りが上手なのも知ってました。そんな2人に少しでも追いついてからグループに加えてもらおうと、失望されないように別の所でレッスンを受けていました」
「なるほど、そういう事か」

 龍二くんも多分、コネでメンバーに選ばれたという事を承知しながら、あらかじめ努力を重ねて能力をしっかり高めてから俺たちのグループに合流してくれたようだった。

 龍二くんは親が資金を援助してくれたからメンバーに選ばれたのではなく、能力で選んでもらったと言えるようにしっかりと精進している、というのが分かった。

 ということは剛輝の言った、金で選ばれメンバーになった、という考えは正しくはない。どうにか彼にその事を認識させて、龍二くんと和解してもらわないと。