第52話 青地剛輝の拒否反応

「なぁ、社長。なんで、このボンボンをメンバーに選んだんや? 他の奴じゃ駄目なんか?」

 5人目として選ばれた財閥の御曹司であるという浅黄龍二に対して、青地剛輝は頑なに5人目のメンバーとして加わる事に声を上げて反対していた。そして三喜田社長がなぜ彼を選んだのか、その理由を聞き出そうとしている。

 剛輝にメンバーとして選んだ理由を問いかけられた三喜田社長は、少し答えにくそうにしながらも浅黄龍二という人物を選んだ事情についてを語った。

「……実は、彼が新しいアイドルグループに加入することを条件にしてアイオニス事務所のスポンサーになってもらい資金を援助してもらう、という取引があった」
「それってつまりは、金でコイツをメンバーに入れるって事を決めたってワケかいな」

 三喜田社長が語った理由を聞いてみれば、財閥の御曹司としての力を存分に使った結果浅黄龍二を5人目のメンバーに選んだという風にしか聞こえなかった。金を出してメンバーにするという、ストレートだが分かりやすい言い方で剛輝は批判するように言い捨てる。

「それも確かにメンバーとして選んだ理由の1つだが、私は浅黄龍二くんにも確かにアイドルとしての才能があると見いだした。だから、Chroma-Keyのメンバーとして選んだんだ」

 三喜田社長は後から付け足したかのようにそう語ったので、あまり素質を見いだして選んだという理由に真実味を感じない。

 浅黄龍二が財閥の御曹司という人物であるからなのだろう、アイドルとしての才能があると言われてもスポンサーに媚びているようにしか聞こえなかった。

「そんなん、信じられへんわ」

 浅黄龍二がグループ内に入ってくる事に対して、剛輝は更に強く拒否反応を示しているようだった。だがしかし、剛輝の発した反論の声は段々と小さくなって気力を失っているようにも聞こえる。

 そして剛輝は一転して、何かを決意したかのような鋭い目つきで三喜田社長を睨みつける表情でじっと見つめると、宣言した。

「そのボンボンがChroma-Keyのメンバーに入るって言うんやったら、俺はChroma-Keyを辞めさせてもらいますわ」

 社長に対しての物の言い方に流石に失礼だと俺は剛輝を止めようとしたが、彼は三喜田社長にそう言い放った後は、もう話は終わったと示すように座っていた椅子から勢いよく立ち上がっていた。

「ちょっと、おい、待てって剛輝!」

 剛輝は怒りを体中から吹き出しているかのように憤って、俺の呼び止める声も無視して会議室を出ていってしまった。

 剛輝と三喜田社長の2人が話し合っていた会議室、剛輝が部屋から出ていって居なくなったことで一瞬にして静かになる。

 白熱していた剛輝の様子に口を挟めず、途中黙ったまま状況を見守っていた俺は、もっと早くに止めるべきだったと後悔する。

 俺と同じように様子を見ていたのだろう、拓海と優人の2人も微妙な表情でどうしたらいいのか困っているようだった。

「すまない、まさかあれ程に剛輝くんが怒ってしまうとは想定していなかった」
「いや、想定していなかったって」

 三喜田社長の情けない言い方に、少し幻滅してしまう。剛輝の境遇を考えれば意識が及ぶ事だと思うんだけれど。

 片や財閥の御曹司、ということは金持ちの子供として楽な人生を歩んできたのではないかと思う浅黄龍二という人物に対して、片や貧乏で生活するのも苦しい人生を送ってきた青地剛輝。

 今まで色々と剛輝は頑張ってきて、ようやくアイドルデビューという日を迎えようとしていた目前。まさか、お金の力を見せつけられて財閥というコネでグループの5人目のメンバーが決まった事。

 楽をしているだけにしか見えない人物が、自分達のグループに加わることが剛輝には許せなかったのだろう。

 そう言えば、当事者でもある浅黄龍二くんはどう思っているのかと視線を向けてみると、彼は苦笑に近い困ったような笑顔を浮かべていた。

「申し訳ありません、僕のせいで」

 笑顔を浮かべているものの、そう言って素直に謝ってきた浅黄龍二くん。財閥の御曹司ということは、態度が偉そうで傲慢さがあるかもと思っていたけれど、彼はそういう性格ではないらしいと分かる。

「こちらこそ、すまない。剛輝も少し言い過ぎたかもしれないが」
「いえ、僕がお金とコネを駆使して、あなた達のアイドルグループのメンバーとして選ばれたのも事実ですから」

 浅黄龍二くんは自分も関係ある事なのだと、事実をしっかりと受け止めて反省している様子だった。

 しかし、せっかく5人組として揃った俺たちだったが対面してすぐ、メンバー同士で大きな衝突が起こってしまった。

 問題を早々に解決しなければ、デビューも危うい。グループのリーダーとして、どう解決するべきかを悩む。

 剛輝の後を今からでも追うべきなのかもしれないけれど、今は怒って誰の話も聞いてくれなさそうな感じでもあった。

 彼の怒りの感情が落ち着くまで、しばらく時間を置いてから剛輝との話し合いに向かうべきだろうと俺は判断する。

 ならばとりあえず、三喜田社長が浅黄龍二くんから見いだしたというアイドルとしての素質を自分の目でしっかりと確認してみるべきだと考えて、俺たちは龍二くんを連れてレッスン場に向かうことにした。

 彼の実力について、この目で確認するために。