第50話 辞める考えに至る経緯

 緑間拓海による衝撃の記者会見が終わってすぐ、彼と話が出来ないか連絡を取ってみた。けれど記者会見をしてすぐ、というタイミングだったので当然今すぐに会って話をするのは難しそうだった。

 結局、拓海と顔を合わせた話し合いで確認することが出来たのは、その日の夜に拓海が寮へ帰って来てからだった。

 彼の寮の部屋の前には俺と同じように、今日の発表について事実かどうかを確認しようと押しかけて来ていた生徒たちが数人ほど扉の前に集まっていた。

「すまないが、僕は今日疲れていて話し合いできる状態じゃない。詳しいことは明日以降に説明をするから、今日は帰ってくれないか」

 拓海にそう言われてしまえば、追及はできない。他の皆も渋々とだけれど、自分の部屋へと戻って行った。拓海が俳優を辞めると決意するのに至った経緯が気になっていたけれど仕方がないと話を聞くのは諦めて、彼の言う通り明日以降になってから事情を聞こうと思い自室に帰る、その直前。

「賢人、実は君には話しておきたいんだ。部屋に入っくれ」

 拓海は疲れているはずなのに話し合いをしようと言って、帰した生徒たちの中で俺だけを指名して自分の部屋に招き入れてくれた。

「ごめん、拓海。今日は疲れているだろうから、しっかり休んで。明日また改めて話を聞くよ」

 部屋に招き入れてくれた拓海だったが、やっぱり疲れているだろうからと思って話し合いを遠慮しようと俺は言う。しかし、拓海は問題ないと言う。

「大丈夫だよ、今日の内に話しておきたいんだ。それに賢人とも関係のある話だからね」

 その言葉にピンときた。どうやら、やはり。事務所を移籍すると語っていた拓海の言葉、移籍先は詳しく語っては居なかったが予想はつく。

「そうか、それじゃあ聞くけれど……。どうして急に今の事務所を辞めて移籍することに決めたんだ?」

 記者会見でもう質問されていた内容だろうけれど、改めて拓海に直接確認しておきたかったこと。

「賢人には、この前相談した事だけれど、やっぱり俳優という仕事があまり好きになれなくって、これから先ずっと続けていくのは無理だなと思ったから今の事務所を辞める決心をしたんだ」

 記者会見で拓海が語っていた”限界を感じた”という言葉。それが本心だったのだろう、事務所を辞める理由は理解した。しかし……。

「俺は、文化祭の劇で拓海が楽しく演じられていると、俳優としての役割を楽しんでいると思ってたんだけれど違ったのかな」

 拓海は文化祭の劇を楽しんでいた、という事が俺の勘違いならば無理矢理に文化祭の劇に出るようにと煽って苦しめていたのではないか、余計なお節介だったかもしれないと心配になる。

「いや、違うんだ。僕も文化祭の劇は凄く楽しかった、演じられてよかった、出演できてよかったって思っている」

 俺を気遣ってくれているのではなく、本心から文化祭の劇は楽しかったと言ってくれている拓海に一安心する。ならば、なぜ俳優を辞めるという結論に至ったのか。

「文化祭は本当に楽しかった。けれど僕一人だけだったなら、いつものように苦しいだけの役者の仕事になっていた。賢人達が一緒に居たから楽しめたんだ」

 皆でワイワイと楽しく騒ぎ協力しあって、劇本番を迎えると一致団結して演じられていた事が楽しかったと語る拓海。

「なるほど、そういう事か」

 文化祭の劇を楽しめたという理由を聞いて、納得する俺。そして、次の質問を拓海に投げかける。

「それで、移籍するって言っていた予定している事務所は? まだ言えない?」
「その話は賢人と関係有るんだ」

 一応まだ交渉中だという事だったので、契約前には秘密を保護する必要があるかもしれないと気遣い詳しく聞くのに躊躇ったけれど、拓海はアッサリと明らかにした。

「僕の移籍する予定先は、アイオニス事務所。賢人が所属している所と同じだよ。三喜田社長から、新しいアイドルグループのメンバーとして前からオファーされていたんだよ」
「やっぱり!」

 三喜田社長が言っていた、少し厄介で時間が掛るかもしれないと語っていた人物とは彼のことだったのだろう。まさか、他事務所から引っ張ってきてアイドルグループのメンバーに加えるなんて。

「大丈夫なの? 今もテレビや映画で大活躍しているのに移籍するなんて事をして」
「うん、話はしっかり付けてあるから」

 そう言って、拓海は今の事務所からアイオニス事務所へと移籍しても大丈夫な理由を教えてくれた。

「僕の所属している劇団パステルっていう芸能事務所は、子役専門の事務所なんだ。それで、そろそろ年齢も重ねて大きくなってきた僕は別の俳優事務所に移籍する必要が出てきた」

 なるほど、所属しているというパステル事務所は子役専門だから拓海はいつかは別の事務所に移籍する予定が前々からあったのか。

「でも、僕は俳優の仕事を続けるつもりは無いと劇団パステルの社長に話してみたら色々と相談に乗ってくれて、自分のしたいようにするのが一番だってアドバイスをくれたんだ」
「それで、オファーされていたアイオニス事務所に移ることに決めたと」

 俺の言葉に拓海が頷いて、事実だと肯定する。

 文化祭が終わったと落ち着いた所で、飛び込んできた緑間拓海の引退というニュース。詳しい話を聞いてみると、どうやら移籍先は俺と同じアイオニス事務所だと判明し、更にはChroma-Keyの4人目のメンバーとなるらしい事実を聞かされて驚く。

 まだ色々と拓海とは確認しておきたいこと、話し合っておきたいことも多々あったけれど時間がだいぶ過ぎていて寝ないと翌日に響く。という訳で一旦今日は中断して、また次の日以降に持ち越しとして今日は解散することにした。