第46話 文化祭準備

 拓海の相談を受けてから翌日、彼と出会った時には出した結論を聞かせてもらった。どうやら拓海は劇の出演依頼を受ける、という答えを出したようだった。

「本当に、その選択で良いの?」
「うん、もちろん」

 俺がそう問いかけると、何かを決意したかのように迷いのない表情で頷いて肯定した。どうやら、拓海は気の迷いが晴れたような決断ができたようだった。

「それじゃあ、俺も拓海が演劇を楽しめるように何か手伝うよ」
「うん、おねがい」

 拓海は文化祭実行委員の人に出演を受けると話に行く事に。そして、俺もスタッフとして何か手伝えることは無いかを、一緒に聞きに行った。

「え? 出演してくれるって、本当かい!? うわー、良かった!」
「はい、よろしくお願いします」

 実行委員の代表委員らしい男子学生が、拓海の出演を受けるという話に泣いて喜んでいた。

「まさか、緑間くんが学園の劇に出てくれるなんて。実は、ダメ元でお願いしたんだけれど実現するとは夢にも思って無くて。去年は断られてしまったから今年も駄目なんじゃないかと。いや、去年断られたって事を当てつけで言っているんじゃなくて、仕事が忙しそうだから出演してくれるのが信じられなくて、本当に嬉しいんだ」

 早口でまくしたてる彼の様子から、心の底から喜んでいる様子が分かる。やはり、文化祭実行委員の彼らも拓海の出演は断られるかもしれないと、半ばあきらめ気味のオファーだったらしい。

「えっと、それで緑間くんと一緒に居る君は誰だい?」
「俺は1年の赤井賢人と言います。緑間くんの友達で、彼が演劇に出るのなら何かお手伝いできることは無いかと思って来ました」

 あらかた喜んだ後、拓海の近くに立っていた俺に視線が向けられて、そう聞かれたので名乗る。

 自己紹介をして、文化祭実行委員主催である劇の手伝いを申し出た。大道具の準備から、本番での照明、音響など色々と手伝えることがある。そんな提案をしてみれば、代表委員の男子学生はまたもや嬉しそうな声を上げた。

「うわぁ、ソレは嬉しい。実はスタッフの数が、いま少ないから手伝ってくれる人が居るのは大歓迎なんだ。いやー、緑間くんが出演依頼を受けてくれて、スタッフも増えるなんて最高だ」

 そんな訳で俺も拓海が出演するという文化祭の劇を創るスタッフとして、手伝いをすることになった。


***


 文化祭が行われるまでの一ヶ月間、クラスで行う出し物の準備よりも劇の準備のほうが割く時間の比重が大きくなりそうだった。というのも、文化祭実行委員のスタッフが少ないという原因があったから。

 ということで、俺はまず手伝ってくれる人を集めることから始めた。文化祭をより盛り上げるために、劇の成功を目指して。そんな事をしていると、剛輝や優人の2人の耳にも入ったらしい。そして、コチラが尋ねる前に2人は手伝いを申し出てくれた。

「また、賢人は面白そうなことしとるな。俺も手伝ったろう」
「賢人くん、僕にも何か手伝えることがあると思います」
「ありがとう、二人共。ぜひ、手伝いをお願いするよ」

 更には自分の身近な人達以外にも、学年が違う先輩にお願いして回ると、かなりの数が文化祭の劇を準備するスタッフとして参加してくれる事になった。

「本当にありがとう、赤井くん。今年の劇は絶望的だったんだけれど、君が来てくれたおかげて大成功しそうだよ」

 毎年、文化祭の劇の準備が大変らしくて周りからの期待や評判のプレッシャーで失敗できない、という気負いが凄かったらしい。そんな話が流れて文化祭実行委員をやりたがる人が少なくて、今年は特にスタッフの数は少なくて危なかったと語る代表委員の彼。

「あー、でも赤井くんには出演者としても活躍してもらえれば良かったんだけど……」
「もう役を決めた後でしたから。それに、スタッフとして働いていますからね」

 どうやら俺がアイドル訓練生として活動している事を知らなくて、申し出た通り普通にスタッフとして手伝うことになった。

 けれど後に俺が芸能活動をしている事を知った代表委員の彼は、出演者として俺に役を割り当てようと考えたけれど、配役は既に決定していて容易には変更できない。

 ということで、俺は大道具方として製作・運用などを担当していた。後から連れてきた剛輝たちも一緒に劇の準備を楽しく進めている。

 出演者の拓海は、役の練習を熱心にしていた。劇の台本は、有名な映画作品のストーリーを参考にしたモノが用意されていた。

 そして、拓海は主役として抜擢されている。覚えるセリフも多くて大変そうだったが、本人に聞いてみると意外と楽しそうだった。

「今まで、こんな気持で役の準備をしたことは無いかも。皆で楽しんで、もっと上手に演りたいって心の底から思えてる」

 今までは仕事として演劇をやらされていた事が嫌う原因になっていたけれど、いま俺たちがやっているように準備に全力で取り掛かり、ワイワイと騒ぎながら演劇をやることで今までとは違う、本気で楽しめていると拓海は語った。

 そう拓海に思われたことで、相談を受けて彼に演劇を楽しんでもらえるようにと、参加を促したことは成功だったと思う。

 こうして、文化祭が行われる前日までに多くの人たちの力によって劇の準備は無事に整った。後は、本番での出来栄えがどうなるのか。皆の期待を背負って、堀出祭本番を迎える。