第37話 思わぬ再会

 俺たちの前に立ちふさがったのは、裾の短い上着に下は逆に裾の広がったズボンを履いた、いかにも不良という感じの学ランを着た男達だった。集団をざっと見た感じから、高校生ぐらいだろうと思うけれど彼らの顔に誰一人として見覚えはない。

 無視して行こうにも、彼らは道のど真ん中を塞いでいて邪魔なので退かさないと通れそうにない。仕方がないので、俺は面倒だと思いつつ返事をした。

「何のよう?」
「赤井って奴はテメェか、って聞いてんだよ!」

 不良達の中心に立っている老け顔で背の小さい男が、キャンキャンと小型犬が吠えるような感じの甲高い声で威嚇してくる。身長差から俺が見下ろすような感じになっているから、より一層に彼らか小型犬っぽい印象を受ける。

「そうだけど、一体何の用かってコッチが聞いてんだけど?」
「ッウ、……いいから! お前だけ付いてこい」

 向こうに奇襲されたから主導権は握ろうと思って威圧して問いかけてみたら、以外とあっさり怯む不良。

 けれど、俺の名前を知られていたし待ち伏せして1人だけ呼び出そうとしている、という事は金目的のカツアゲとかでは無いようだけれど。一体、彼らの目的は何だろうか。

「はぁ? 付いてくわけ無ぇやろ。誰やねんお前ら」

 一緒に居た剛輝がヒートアップして、不良に突っかかって行こうとする。そして、拓海は携帯電話を片手に構えて、警察に通報しようとしていた。

 流石にコチラから手を出すのはマズイし、警察を呼べば名を売って活動している俺たちは正当であっても後々問題や面倒事になりそうだったので、二人の行動を抑える。

「不良なんかと関わると厄介だから、面倒だけど別の道から帰ろう」

 来た道を戻って、少し遠回りになるけれど別の道から学生寮へ帰ろうと提案する。彼らと関わるほうが後で面倒事になりそうだから、避けるのが吉だと。

「まぁ、そうやな」
「うん、それがいい」

 俺たち三人はくるっと不良達に背を向けて道を引き返そうとしたら、不良の慌てた声が聞こえて呼び止められる。

「おい、こっちには人質が居るんだぜ。付いてこないと、どうなるか判ってるんだろうな」
「人質?」

 俺が足を止めて振り返ると、目の前に男物の上着が投げ落とされた。それは、堀出学園の制服だった。人質が居るという証明だろう。先程から一転して彼らは自信有り気なニヤニヤと嫌らしい表情を浮かべている。

 その顔を見てみると判る、どうやら出まかせの嘘では無いようだと。面倒なことになってきた。

「チッ」

 人質まで取っているとは、ここまで計画的な犯行を仕掛けてくる奴らに思わず舌打ちをする。誰の制服なのかが分からないので、俺の知り合いだと限らない。けれど、同じ学園に通う生徒として助けないわけにはいかない。

 そもそも、こんな奴らに捕まっているのなら誰であろうとまずは助ける必要がある。そう考えて、付いていくことを決めた。

「俺も一緒に行くぞ」
「いや、一旦学園に戻って助けを呼んだほうが」

 剛輝は同行を申し出る。そして、拓海は危険を避けるために助けに行くのは止したほうが良いと判断している。拓海の表情は臆病風に吹かれている、という感じではなく冷静に考えた結果の作戦を提案している様子だった。

 普通なら不良なんかの言うことを聞かないで付いては行かずに、拓海の考える一旦引いてから対策を講じるのが正しいんだろうなと思う。

 ただ、俺は荒事も普通の人に比べて経験していて慣れている。だから、大丈夫だろうと判断する。不良程度なら、なんとでもなる。

「二人は先に学園に戻っておいて。お呼びなのは、俺だけのようだから」

 一緒に行ってくれると申し出てくれたのは有り難いが、むしろ1人の方が対処しやすくなるから今回は二人には戻ってもらう。

「それは……、大丈夫なんか?」
「問題ないよ」
「すぐ誰か助けを連れてくるよ」

 剛輝はなにか言いたそうに、でも何も言わずに俺に任せてくれるようだった。そして、拓海も戻ってすぐに方策を練るつもりのようだ。それまでに解決をしないとイケないかも。

 剛輝と拓海の二人を先に行かせると、俺は黙って不良の後に付いていった。


***


 不良に連れて行かれた先は廃工場だった。長年放置された結果だろう、不細工なでこぼことひび割れがあちこちに広がっているコンクリートの地面。所々の土が剥き出しになり、ひびからは草が生えて高く茂っていた。

 建物の中には錆びついた機械がつくつか置かれているが、放置された後に描かれたのだろう落書きによって、くたびれたその姿からは何の作業をする物だったのか伺い知る事は出来ない。

 まさか学園の近くにこんな場所があったとは、と思い驚きながら周りを観察していると建物の奥には多くの不良達が屯していた。合計すると何十人だろうか、タバコを吸ったり漫画を読んだり何か食べていたりしている。

「赤井を連れてきました」

 老け顔の不良が、待ち受けていたホスト風のイケメン不良に報告していた。アイツが首謀者だろうか。ようやく目的を聞けるのだろうが、まずは。

「人質は何処だ?」
「……オイ」

 俺が問いかけると、イケメン不良が呼びかけると廃工場の奥から誰かを連れ出してくる。そして、向こうから出てきたのは人質らしい堀出学園の学生が見える。

 確か彼は……、顔に見覚えが有った。

 堀出学園の一年生で一番に優秀な舞黒優斗(まいくろゆうと)と言う名の生徒だったはず。彼と直接の面識はないけれど、話を聞いて情報は知っていた。それに入学式でも、新入生代表で挨拶していたのを覚えている。

 シャツやズボンが土で少し汚れているが、顔や身体に大きな怪我をしている様子は見えない。表情にも恐怖を感じているようには見えなかったから、ひとまずは安心する。けれども、関係ない彼を巻き込んでしまった事を申し訳なく思った。

「それで、俺に一体何の用なんだ?」
「忘れた、とは言わせねぇぞ」

 そう言われてイケメン不良の顔をよく確認してみるが、見覚えは無い。こんな事をして得をするのは、と考えて思い当たったのは金盛という人物だった。

 新しいアイドルグループの契約を断ったら、事務所を退所させられる程の恨みを買った。まさか恨みによって、こんな手の混んだ事までするのかとまで考えた。だが、イケメン不良の口から出た言葉は全然別の事に関してだった。

「3年前の、あのライブの日。お前の所為で俺の人生は滅茶苦茶になった!」

 その言葉で思い出した。俺が初めてバックダンサーとしてライブに出演した時の、あの日の事を。