第03話 残念ながら

 まず案内されたのは、施設の中にある更衣室だった。その中にはズラッと並ぶロッカー、扉には番号が割り振られていて、受験者番号と対応して一人一つずつロッカーが割り当てられているようだった。

 更衣室に入っていくと中で待機していた中年男性係員に指示されて、ダンスの審査を受けるための格好に着替えるよう言い付けられた。

 しまった、持ち物に体操着を持っていくるように書かれていなかったけれど着替えを持ってこなければならなかったか、と思ったもののロッカーの中にはジャージとシューズに他にも着替えのシャツ等が用意されていた。

 用意されていた服のサイズもピッタリだし、どうやら服やら何やらは向こうが用意してくれているようだった。

 オーディションには多数の受験者が居るみたいだし、まだ採用すると決まった訳でもないのにわざわざ一人ひとりに衣装を用意してくれるなんて、思っていた以上にアビリティズ事務所というのは大手企業なのだろう。という感想を抱きつつ、すばやく着替えを終える。

「着替え終わった人から、審査会場に向かって下さい! 貴重品をロッカーにしまった人は鍵を忘れないように掛けて下さい」

 全身青色のジャージに黒のシューズへと着替えて、同じような格好をした子供がゾロゾロと移動を開始する。

 移動中は皆、子供なのに大声を上げたり動き回ったりすることはせず自制して、終始無言で指示されるままに動いている。高校生、中学生の子供たちはもちろん、小学生という小さな子どもまでもがそうしている。

 どうやら、かなり気合を入れてオーディションに挑んでいるのだろうと伺える。俺のように昨日突然聞かされて、今日いきなり審査を受けるなんて人は居ないんだろうなぁ。

 うちの小学校にある体育館の茶色い木目よりも色がピンクっぽい木床。明るい色のフローリングだ。それにシューズのおかげもあるのか、グリップがしっかりしていて滑らなく動きやすい。多分ダンスをしやすいように床にシューズと調整してあるんだろう。

 係員の指示に従って、前後左右に広く並んでいく。両腕を伸ばしても相手に当たらない距離を開いて、十分に動けるよう。

 右隣には可愛らしい顔の整った同学年か少し下ぐらいの年齢の男子小学生が、左隣には同じく整った顔で凛々しさもある男子中学生ぐらいと思われる子供。

 どちらも二次審査を突破出来るだろうと思えるような、やっぱりアイドルを目指して来るぐらいなのだと思える容姿をしている。

「それじゃあ、ダンスのオーディションを開始します。曲を流しますので事前にお伝えしてある振付を行って下さい。その習得度を確認していきます。では始めましょう」

 やばい。事前になんて聞いていないんだけれど。そんなモノがあったのか。覚えてくるようにと課題に出されていたらしい踊りについて、俺は一切知らない。

 仕方ないから、周りの人達が踊っている様子を盗み見てどうにかするか。幸い、日頃のトレーニングのおかげで体を動かすことは大得意だ。それに観察眼にも自信はあるから、動きを真似するのは何とか出来そうだと思う。

 フロア全体にテンポの早い曲が流れ始めて、みんなが踊り始める。さすが皆、出された課題をしっかり覚えてきているようだった。横目で観察しながら動きをトレースして必死についていく。身体の軸、バランス、足の動き、手の位置など細かい所も注視して。

 はじけるような元気な動きで跳ねて、その場で走っているように足を動かしリズムを取ったり、つま先、かかとの体重移動で曲に合わして動いていく。

 付け焼き刃とも言えない、完全にその場しのぎのダンスで周囲と合わせるだけの動き。しかし、思いの外に上手くついて行けてる気がする。けれどこれは、ダンスとは全く別の能力だけど大丈夫だろうか。踊れる踊れないの問題ではないけれど……。

 でも、一人だけ踊れず立ちっぱなしになっていては注目されるだろうし、嫌だから模倣を続ける。

 そうやって踊っている間、何人かの大人たちが子供の周りを回って眼の前で立ち止まっては一人ひとりと審査している様子。手元に持っているクリップボードになにか書き込んだり、踊っている子供に声を掛けたりしている。

「13番、お帰り下さい」「41番、お帰り下さい」「102番、お帰り下さい」

 お帰り下さいと言われた子は、フロアから出されていく。どうやら、あの言葉が不合格という合図らしい。

 次々と無慈悲に伝えられていき、フロアで踊っている子供たちは時間が過ぎると共に脱落していく。

 お帰り下さい、と告げられた者の中には泣いてフロアから出るのを嫌がり、床に崩れ倒れている子も居るが係員に引っ張られて無理矢理にも出されている。それでも曲は止められず、続けて踊りを続けさせられる。

 踊り続けて10分も経ち、元から居た子供の半分以上が既にフロアから出されていた頃。受験者の数を順調に減らしていく中で、とうとう俺の眼の前にも一人の審査員が立ち止まり言った。

「61番、お帰り下さい」