第26話 中学校入学式

 入寮してから中学校の入学式が行われるまで、約二週間の期間が空いていた。その間に俺は、寮に住んでいる先輩達と知り合いとなって一緒になって食事をしたり遊んだりする友達になっていた。

 まだ入学の手続きを終えただけで入学式を済ませていない学生の俺だったが、堀出学園の運動場に立ち入って、春休み中で部活動の練習をしていた体育会系の学生達の横で場所を借りてサッカーをしたり野球をしたり。そして、一緒に遊んで過ごす事で仲を深めていった。

 寮生活という同じ建物で生活をしていて、芸能活動をしているという同じ環境で育ってきた俺たちは共感しやすく共通の話題も多くて受け入れやすいからなのか、友だちになりやすい傾向にあると思う。

 そうした生活を毎日過ごした事によって入学式の時には既に、俺は何十人もの上級生と知り合いとなっている状況だった。

「賢人、こっちや」

 入学式の当日。寮から出て堀出学園へと向かう道を歩いていると、背中から声を掛けられた。その声にはよく聞き覚えがあったので、俺は立ち止まって声の聞こえた方へと振り向いて応える。

「おはよう剛輝。君もやっと来たんだね」
「おう。昨日来たんや」

 青地剛輝も堀出学園に入学することになっていた。寮にも住む予定だと聞いていたけれど、この2週間で見ることはなかった。というのも、入学式の前日である昨日の夜まで家族と一緒に生活をしていたという。

 母子家庭であり兄弟も多い彼は家族の面倒は自分が見なければいけないという使命感を持って、堀出学園に入学するかどうか迷っていたらしい。堀出学園は基本的に全寮制で、そうなると家を出ないといけなくなるから。

 ただ、芸能活動を続けるのに堀出学園以外で普通の中学校に通いながらだと困難な可能性が大きい。どうするか天秤にかけた結果、堀出学園に入学することを決めたという。

 と言う訳で、寮に引っ越しするもののギリギリの日まで家族の面倒を見たり世話をしていたというから、入学前に寮内で見かけることが出来なかったのだ。

「お前はもう知り合い出来たんか?」
「うん。寮に住んでいる上級生の先輩と結構仲良くなったよ」

 剛輝と並んで歩きながら、堀出学園に到着するまでの世間話を始める。学園に向かう途中の道で、先に走っていく先輩。その何人かに俺が声を掛けられて居たので、疑問に思ったのだろう剛輝が尋ねてくる。

「はー、そうなんか。お前はそんなんメッチャ得意やもんな。羨ましいわ」
「普通の人と比べたら得意かもしれないね」

 まぁ、精神的には長く生きている俺は誰に対しても緊張しないで話しかける事が出来るから、という経験の差だろうと自分の事を分析していた。

 入学式が行われる体育館に並べられたパイプ椅子。その中で、自分が指定された席に座る。席順が名前のあいうえお順だったみたいで、青地と赤井で横に並んで座ることに。

 それから順々に入学生の座るべき席が埋まっていく。俺の周りに座っている人たちは、芸能界やスポーツ界で有名になっている人や有名になろうとしている人達だ。見てくれでハッキリとタラントコースだと分かってしまうぐらいに美男美女が集まっている。自分がこの中で戦えるかどうかを考えると、少し挫けそうだ……。容姿については、無理に張り合う必要もないかも知れないが。

 それから、大砲のように口径が大きい肩に担ぐカメラが何台か。いわゆる業務用ビデオカメラが、体育館の中で入学生に向けて構えられている。どうやら堀出学園の入学式には毎年のように決まって取材が入っているらしい、とのこと。将来活躍するであろうスターの記録をしておく為にだそうだ。

 それから、堀で学園の入学式の模様はニュースとしてテレビで放映されるらしくて業界関係者等の人達にとっては、春の風物詩として知られているぐらいだそうだ。

 ただ、堀出学園は一般人も在籍している普通の学校なので入学式のプログラムも粛々と行われた。奇抜な内容もなく普通に進行していく。

 新入生はあらかじめ体育館に入場して席についていたので、入学式の開式宣言、国歌斉唱が行われる。それから校長、学園長、PTA会長のお偉いさんのスピーチが行われて。祝電などが披露される。

 それから次に行われたのが、在校生の歓迎の言葉の挨拶だった。というか、寮に入って知り合った三年生の先輩だった。

 新入生の入学挨拶は、メガネを掛けた頭の良さそうな雰囲気を持つ学生が1人壇上に上がって行った。あの感じから察するに、学問において優秀な成績の生徒だけが入学できるという育英コースの特待生だろうと思う。

 それが終われば、担任の紹介が行われた。俺のクラスの担任は、家まで堀出学園についての説明をしに来てくれた北垣先生だった。

「あの先生に説得されて学園に来たんだよ」
「俺もや」

 横に座っている剛輝も、今日から担任となるらしい北垣先生が学園についての詳しい説明をしに来てくれて学園への入学が決まったと言う。もしかしたら、タラントコースの学生は全員あの北垣先生に学園に入学するようにと勧められて説き落とされたのかもしれない。

 それから無事に入学式は終了して、新入生の俺たちは一番最初に体育館から退場していく。式は半日で終わって、本日は授業もなく翌日以降の予定を簡単に説明されて解散となった。