第15話 トラブル対応

 担架に乗せられて運ばれていく青年。転けた時に捻挫したのか立ち上がれないほどに足を怪我してしまって、これから1時間後に行われるライブに出演することは出来そうになかった。

 そして困っていたのが、ライブの責任者であり総合演出でもある寺嶋さんだった。怪我をしてしまった青年の代わりにポジションを埋めるためどうするか、スタッフ達が緊急の会議を舞台上で始めたが、良い対応策は浮かびそうになかった。

「予備の代役は、……そうか。予算の都合で今日は用意してないな」
「今日の規模程度のライブでは、代役を用意して置けないですから」
「どうしましょう、彼の担当する曲は結構多いですけれど……」
「今から代わりを呼び出すにも、時間がありません。そもそも振り付けの準備ができない」
「立ち位置を調整して、緊急対応で見栄えを整えるしか方法は……」

 困っている寺嶋さんと、その周りでアタフタしているスタッフ。青年が怪我をしたことで彼が受け持っていたポジションに穴が空いてしまった。その空いた穴をどう埋めようか話し合って困っている。

 そんな困っている彼らに、手助けを入れるのに躊躇いは無かった。

「あの、俺今日のライブの踊りなら全曲分の振り付け覚えてます」
「なんだって?」

 オーディションでの出来事があって、今回は頂いた資料映像の振り付けは完璧に覚えていた。折角ならライブで出る予定のあった曲も全部一応は頭に入れておこうと範囲大きく広げて、覚えておいたのだ。

 そもそも出番は2曲だけと言われていたけれど、Beyond Boysの曲の個性や踊りの特徴などを捉えるためにも、全体を捉えようという理由もあって本来の2曲を完璧に近づけようと他の曲も覚えていた。

 まさか今日のようなトラブルが起こるとは予想してはいなかったけれど、俺に出来ることが有るなら手助けしたい。そういう思いで、寺嶋さんに振り付けは覚えていると穴埋めが可能なことを告げた。

「怪我をした人の分、俺なら穴を埋められます」
「……本当か?」

 寺嶋さんは、鋭い目線をコチラに向けてくる。もしかしたら、新人が出しゃばっていると思われているのかもしれない。

 青年が手出しをしてきて、俺があっさりと避けて怪我をしてしまった。向こうの自業自得とも思えるが、本来なら俺が今日出演しなかったら余計なトラブルが起こることも無かったかもしれない。
 トラブルの起こったひとつの原因であるかもしれないと考えると、しゃしゃり出ると思われるかもしれないが埋め合わせをしないと、と思って言い出さずにはいられなかった。

 それから、しばらく寺嶋さんの視線が真っ直ぐ俺に向けられるが、本気を示すために俺も逸らさず真っ直ぐ見据える。

「出来るというのなら、君に任せよう」
「しかし、寺嶋さん!」

 寺嶋さんの下した判断に、スタッフが異を唱える。新人で、まだ小学生なんて幼い俺に任せるのには不安を感じるのも仕方ないと思う。しかし、寺嶋さんが擁護してくれた。

「本人が出来ると言うんだ。今の所、他に手の打ちようが無いんだから彼に任せよう」
「……わかりました」

 渋々だがスタッフ達は寺嶋さんの判断を理解した。だが、問題はまだある。

「赤井くんが本来出るはずだった2曲、怪我したあの子のポジションは別の穴埋めが必要だ。それをどうするか」

 他の曲の出番はカバーできるが、元から俺も出演することになっている2曲分のポジションは俺の出番が既に決まっていて、穴埋めが出来そうにない。

「誰か、代わりを出来るものは居ないか?」

 俺と同じ様に、立候補で怪我をした青年の穴埋めが出来ると名乗り出る者は居ないか寺嶋さんが尋ねるが、口がきけなくなったように黙りこくるバックダンサーの皆。

 本来なら無かったはずの出番、ライブが始まる1時間前に任せると言われて受けようとするのは無謀なのかもしれない。そう考えると、口を閉じて名乗りを上げようとしないのはやむを得ないことなのかもしれない。

「誰も居ないか。仕方ない、本来なら必要な部分だが無しにしよう」

 寺嶋さんは、諦めて別の手段で対応しようとする。だが俺は、もう一つの方法を考えていた。

「山北さんは、どうですか?」

 8年もキャリアのあるベテランの山北さん。彼なら、もしかしたら対応できる能力が有るのではないかと考える。無茶振りだと思いつつも、彼の名前を挙げて話を振ってみた。

「なるほど、山北か。あいつは中々真面目で能力も十分にある。おい、山北どうだ? 出来ないか?」
「えっ!? ぼ、僕ですか?」

 本来なら出番と違うので舞台下に居た山北さんが突然話を振られて、驚いている。どうやら、寺嶋さんは山北さんの能力を評価してくれているようだ。

「ふ、振り付けは一応覚えています。けど、急に出番なんて……」

 弱気になっている山北さんに急ぎ近づいていって、耳打ちをする。

「山北さん、これはチャンスですよ。これが成功できれば、寺嶋さんや他のスタッフの評価がうなぎのぼり。デビューも近づくかもしれません」
「デビューが……近づく?」

 俺のつぶやきに反応する山北さん。やっぱり彼は、今に十分満足していると言いつつもデビューを完全に諦めているという訳ではなかった。コレは脈アリだと思われる。

「何かあれば、俺が可能な限りサポートします。だからどうでしょう、挑戦してみませんか?」
「……わかった、やってみるよ」

 本当なら山北さんをこんな風に巻き込むべきではないかもしれない、けれど俺の勘が山北さんなら出来そうだと確信してしまっていた。だからこそ、俺は山北さんに無理矢理にでもチャレンジしてもらおうと、促すように言ってみた。

 すると少しの間悩んでいたけれど、やる気を出した山北さんは寺嶋さんにやってみると言い切ってみせた。


 そして、直前にトラブルが起こったもののライブは定刻どおりに始まる。