第10話 切磋琢磨

 青地剛輝と一緒になって、覚えた踊りの動きを確認したり互いに見せ合いをして時間を過ごししていると、離れて集まり話し合いをしていたインストラクター達が意見がまとまったのか、話し合いを終えてコチラに近づいて来た。

「彼に話を聞いたが、課題にしていたステップをもう習得したんだって?」
「あ、はい」

 最初に俺を紹介してくれた男性のインストラクターが、少し興奮したような様子で高橋さん、と呼ばれていた人を指して問うてくる。確かに彼に教えてもらった事を覚えたのは間違いないので頷いて、そうだと答えた。

「覚えたものを見せてもらえるか?」
「わかりました」

 またか、と先日行われたオーディション会場での出来事を思い出し顔をしかめそうになるのを感じて、慌てて動き出し表情を誤魔化すように先ほど覚えたばかりのステップを踊ってみせる。

 注目されるなか、少しの緊張は感じるが特に焦ることもなく覚えた通りにステップを踏んでみせた。身につけた技術を人に見せつけて、彼らが驚くさまを見てちょっとだけテンションが上がる。

「なるほどな、まさかココまでとは。これからこの子は私がレクチャーするから、向こうの子供たちはお願いする。予定していたスケジュールを、八割まで消化できればいい」
「はい、わかりました」

 高橋さんと、その他のインストラクターの人たちに指示を出していく。何やら予定を変更して、コッチをメインにして教えてくれるつもりらしい。

「俺もコイツと一緒に!」
「ん?」

 今まで黙って状況を見ていた青地が、声を上げて間に割って入ってきた。突然のことに、何のことやら分かっていない様子のインストラクターに俺が説明する。

「僕たち仲良くなったんで、できれば練習を一緒に受けたいんです」
「なるほど」

 説明を聞いて何が言いたいのか把握したのか、俺と青地の顔を交互に眺めて頷きながらなるほど、とつぶやいた。その頷きは一緒に練習を受けても問題ないという事だろうか。

「青地くん、だったか。君なら何とか付いてこれそうだな。丁度いいから一緒に教えよう」
「はい!」

 一応インストラクターには礼儀正しく返事をするんだ、と青地を横目で眺めつつ思った。それから、本当に一緒になって教えてもらうことになった。

 その日は、夕方の日が暮れる直前までじっくりとレッスンを受けた。たぶん普通の人では覚えきれない、素人の域を遥かに超えた難易度と思われる動きのパターンを覚えるようにと教えられていた。

 だけど難易度が上がって動きが複雑になってくると、流石に一度で覚えきるのに苦労するようになってきた。だけれど俺よりも、一緒にレッスンを受けている青地剛輝が必死に喰らいついこうとしているのを見て、その熱気にあてられて俺も普段に比べてやる気を十分に高めてレッスンを受けることが出来ていたのか、なんとか課題をこなすことが出来た。

「赤井、まさかココまで出来るとは思わなかった。才能とやる気は十分だな。青地は、赤井に付いていくならまだまだ鍛える必要がありそうだ」
「ありがとうございます」
「ふぅ、ふぅっ、ふぅ」

 レッスンが終わる頃、限界だと分かるぐらいに呼吸を乱して青地は頑張っていた。今はインストラクターの手によって、疲れを残さないようにストレッチを受けている。

 レッスンの初日から、まさか続けるのは大変そうだと思わされるとは予想していなかった。それに、結構スパルタな感じで教え込まれた。まぁ、楽しくもあったので今後のレッスンは不安に思いつつ期待できそうだとも感じていた。


***

 アイドル訓練生として、レッスンをどのように受けるのかというスケジュールは自分で決めることが出来た。

 基本的に週二日間、三時間以上のダンスレッスンかボイストレーニングを受けるようにという規定だけ守れば、それ以上はレッスンを受ける必要はない。後はレッスンを受けたい人だけ自主的に、まるで大学の講義を選択するかのように自分で受けたいレッスンを選択することが出来て、それでスケジュールを立てるのは自分で出来るという仕組みになっていた。

 まぁでも殆どのアイドル訓練生は、練習を積み重ねて能力を高めて見出してもらわないとアイドルデビューが出来ないだろうからと、毎日のようにレッスンを繰り返し受けて鍛えているのが現状だった。

 俺も暇な時はなるべく、レッスンを受けられるように申請をしてトレーニングに通っている。ダンスレッスンの他に、この前はボイストレーニングを初めて受けた。

 声量はとんでもなく素晴らしいものを持っていると褒められたが、音程を取るのは特に上手くはなく一般人レベルだとの評価。感覚で音程を取るのではなく、耳で正しい音程、音階を聴いて、声にだして脳に記憶させる必要があるとのこと。コレは地道な練習と経験を積むしか無いと教えられたので、いまは鍛えられている途中だった。

 それから青地剛輝とはだいぶ仲良くなっていた。と言っても、向こうはライバル心むき出しという関係だと思っているかもしれないが。

 ほとんどのレッスンを同じ時間に受けて、競い合うように一緒になって練習に明け暮れていた。

 ピア効果と呼ばれるものがある。意識や能力の高いような集団、同じ目標に向かって進んでいく仲間の中に身を置くことで、切磋琢磨しお互いを高め合う効果のことをそう言うそうだ。

 一人きりで何かをやろうとするよりも、誰か競い合う相手や仲間がいるからこそモチベーションが上がってやる気も持続する。純粋に努力して、張り合おうと気持ちも熱くなり、何事にも真剣に取り組む事ができる。たぶん青地剛輝にとっての俺は、そんな存在になっていた。

「今日は負けねぇ」
「よろしく」

 今日も青地と一緒にレッスンを受ける。