6.王子の10年 -王子視点-

 かつて婚約者であったイザベラを処刑した日から、暫くの間は穏やかで幸せな日々を過ごすことが出来た。しかし、その幸せはイザベラを処刑したという事実から目を逸らして受け止めないように考えないようにしながらであり、幸せだと感じたのは新しい婚約者となったマリアと暮らしたからだった。

 精神的に疲れてしまっていた俺の側にマリアはただ寄り添い、支えてくれていた。そんな幸せだと感じてた日々も長くは続かなかった。

 マリアもまた俺を裏切った。
 結婚してから2年後、マリアがある男と浮気をしている現場にバッタリと居合わせてしまったのだ。あろうことか、マリアは自室に男を連れ込んでいた。

 彼女の言い訳では、2年間で俺との間に子供が出来なくて周りから跡継ぎ問題に関してプレッシャーを感じていたから間男から子種を貰うために仕方なくと言っていた。だが、詳しく調べてみるとマリアと間男の関係は結婚前から続いているモノらしくて、知らないのは俺だけだったようだ。

 間男の素性は現在も城で働いている大臣の一人息子であり、間男も将来は国を支えてくれる人材になるはずだったが、この様な事件を起こされてしまい大臣は辞職させて息子共々国外追放を言い渡すしか方法はなかった。

 そしてマリアの方は、病気を理由に幽閉させることになった。

「あの女の時みたいに私を処刑するんでしょ?」
「そんな事はしない」
 マリアを幽閉する前の最後の面会。2年前に行ったマリアとの結婚時に王位継承が行われて、現在の国王は俺となっていた。それなのに、王妃であるマリアを今処刑なんてしてしまうと国王としての器を疑問視されかねない。ただでさえ今は国内が不安定になっているのに、不用意に刺激するような事はしたくはなかった。

「あっ、そう。……それにしても折角手に入れた王妃の地位が勿体無いわ」
「何?」
「あの女は黙っていてくれて助かったけれど、まさか処刑するなんて思わなかった。あれだけの罪を彼女が起こせるはず無いじゃない」
「……連れて行け」
 
 今更彼女の事を考えても仕方のないことだ。俺は自ら命令し処刑したのだ。
 俺はマリアの語る最後の言葉を聞かないふりをして、兵士にマリアを連れて行くように命令をした。

 王妃との幸せな日々を失った後、俺は国を良くしようと更に尽力した。
 それから8年の月日が経った。国内は混乱を極め、結局は内乱が勃発してしまった。内乱を起こした者達の主張では、王族による国の舵取りが上手く行っておらず国民が貧窮している。今の王に国を任せておけないとのこと。

 内乱を起こした者達には賛同者が多く一大勢力と化していた。中には、イザベラの一族も居た。

 そんな頃になって、イザベラが生きているという情報を偶然手に入れた。
 何故生きているのか、あの処刑からどうやって生き残ったのか、別人ではないのか、色々と考えたがイザベラが生きているのならば、俺は彼女に国へ戻って来て欲しかった。
 
 思えば、イザベラを処刑してしまったあの時から少しずつ狂い始めていたんだ。彼女を取り戻しさえすれば、元の婚約者という位置に戻して、その後に本来の通りイザベラに王妃になってもらえれば国の混乱も元に戻るのではないか。

 絶望していた内乱についての問題を解決するための僅かな望み。速やかにイザベラを取り戻すために、俺は今では少なくなった信頼できる部下だけを引き連れてイザベラが処刑の後に逃げこんだと言われている隣国へやって来た。

 イザベラの居場所はすぐに突き止められた。なぜなら、彼女はイザベラという名前を変えずそのまま使って今も過ごしているらしく、しかも色々な場所で活躍しているとのことで、イザベラの住んでいる国では有名人らしい。そんな彼女のことについては、聞きこみをしたらすぐに現在住んでいる場所を聞き出すことが出来た。

 時間は夕方。本当なら翌日を待って訪問するべきだろうけれど、一刻も早くイザベラを我が国に連れ戻すために、俺はイザベラの現在住んでいるという家のドアをノックしていた。

「どちら様でしょうか?」
 10年ぶりに聞いたイザベラの声。彼女は10年の月日が経ったというのに何も変わらず、むしろ美しさを磨いたような

「久し振りだねイザベラ」
 ドアが開かれて出てきたイザベラはあの頃から変わることなく、美しいままだった。

 

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