5.愚かな選択 -王子視点-

 イザベラの所業を知って学園へと向かった俺は、そこで彼女の犯行をこの目で見てしまい、引き連れていた兵士に指示をして城の一室に一時的にイザベラを拘禁することになった。

 学園で一体何が起こっていたのか、イザベラが何をしていたのか改めて詳細に調べてから俺はこの先イザベラをどう裁くべきか考える必要があった。

 イザベラを拘禁してから3ヶ月。依然彼女は一切の犯行を否定していた。しかし、彼女の無実であるという言葉とは逆に調査によってイザベラが犯行を行ったという証拠が揃い、被害者が揃い、目撃者が揃っていった。

 俺の知っているイザベラは小さい頃から妙に落ち着いていて、何事に対しても平然としているマイペースな女性だった。しかし今ではそれがまやかしであったという事、俺以外の人物に対しては嫌がらせによって苦しめるなんて事を平然とやってのける酷い女性だったらしい。
 その他にも、貴族という権力を笠に着ては平民を虐げるような行動も取っていたという報告があった。

 俺はイザベラの事を何も知らずに今まで過ごしてきたことを後悔していた。もしも、イザベラと一緒に過ごす時間を取っていれば、イザベラについての事をもっとを知っていれば、今のような状況になる前に事態を回避できていたかもしれない。過去のことを今更に悔やんでも仕方ないとは承知の上だが、それでも過去について思案せずには居られなかった。

 彼女の罪を全て調べ終わった時には、そのあまりの非道さに頭を抱えるしか無かった。それでも、イザベラは俺の婚約者である女性だ。彼女を助けたいと考えて三ヶ月もの期間を罪を償うように説得したが彼女は一切自分の行ったことを認めなかった。

 そして、イザベラの振る舞いを知った王国内ではイザベラが俺の婚約者で相応しくないという意見が上がり、俺とイザベラは婚約を破棄せざるを得ない状況となっていた。

 結局は俺とイザベラとの婚約は破棄される事になったが、現王様の体調が悪いことや王国内の情勢も悪く、早急に代わりの王妃を決める必要があった。
 イザベラとの婚約破棄が確定したという王族の内情を知った貴族たちは、こぞって身内の令嬢をイザベラの代わりにと差し出して権力闘争が巻き起こり事態は更に深刻となっていった。

 現王が病に伏せており、王国の運営も滞りがちになり、貴族間の関係も悪化している状況。三重苦が積み重なり、俺はどの問題から手を付けるべきか優先順位が付けられなかった。

 現王の代わりとして王国の運営を担っていた俺は、連日連夜様々な話し合いが行われ疲労困憊していた。そんな時に支えてくれたのが、イザベラに虐められていたマリアだった。
 マリアはイザベラ問題の重要参考人として城に滞在してもらっていて、俺はマリアと城の中で顔を交わす機会を多く持っていた。最初は顔を合わせた時に軽く挨拶をする程度だったけれど、俺が疲れているのを見つけては休むように助言をしてくれたり、食事を用意してくれたり、文句も言わずに愚痴を聞いてくれたり、ただ寄り添って一緒に休んでくれたりした。

 騒動発覚のキッカケとなったイザベラに虐められていたマリアは新たな王妃候補として適任だと俺が判断し、マリアとも相談すると快く引き受けてくれたので少々強引に事を進めて俺とマリアは婚約関係となった。
 マリアは、イザベラという加害者に毅然と立ち向かった勇敢な女性として貴族や市民に喧伝しやすかったし、子爵という比較的低い爵位だったので他の対立している大貴族たちにも話をつけやすかった。

 政略的な結婚だったけれど、イザベラの凶行を知って落ち込んでいた時に慰めてくれたり、現王の代わりとして仕事をした時の疲れをマリアは癒やしてくれて自然と惹かれていった。
 俺はイザベラの起こした騒動の中でマリアと出会えた事は唯一良かったと思える点だった。

***

 遂にイザベラが処刑される日となった。

 広場に集められた民の前でイザベラは手首を固定されて、その上に刃が設置されていた。そんな状況であっても、イザベラはいつもの様に何事にも関心を寄せないという顔で、民からの視線を受けていた。

 イザベラは何故、あんなに落ち着いていられるのだろうか。俺が一言指示を出せば、イザベラは首を切り落とされて生涯を終えるという状況なのに。もしかして、彼女は俺が本気で実行する気はないと踏んでいるのだろうか。だから、慌てず騒がす平常心でいられるのだろうか。

 確かに俺は最期まで、彼女に助かって欲しいと願って説得を続けていた。だけど、それにも限界があった。限界はとうに過ぎていて、俺は躊躇なく処刑を実行することが出来るだろう。
 しかし、俺は自分の意志と反して少しの未練を持って彼女に近づいて最後の言葉を聞いていた。

「何か申し開きはあるか?」
 イザベラは俺の言葉を聞くと、今までは何も感情がないような無表情をしていたのに、一転してニッコリと俺に向かって笑いかけてきた。その笑顔は、見るものをゾッとさせるような、しかし俺が今までイザベラと一緒に過ごしてきた中で一番美しいと思わせるような表情をした顔だった。

「執行人の方が読み上げたモノは、全て私のやった事ではありませんが?」
 こんな状況になっても、彼女は罪を認めず償う気持ちは一切無かった。
 
 イザベラの言葉、聞かなければよかったと後悔した。そして今まで見たことのないようなイザベラの笑顔が、彼女を助けようという俺の思いが最期まで否定されて腹立たしくなった。
 処刑人に、怒りのままにギロチンを作動させるよう指示をして俺はイザベラから離れた。

「さようなら、イザベラ……」
 俺の口からは、別れの挨拶が自然と漏れていた。

 

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