4.最初の間違い -王子視点-

 一体どこで間違えてしまったのだろうか。俺は、何故あの時に彼女を信じることが出来なかったのか。何故、彼女を手放してしまったのだろうか。
 今更、どんなに悔やんでもあの頃には戻れない。失ったものは、取り戻せない。

***

 部下から信じられない報告が上がってきた。まさか彼女がそんな事をしているとは、と信じられない思いだった。

「大変申し上げにくいのですが、今報告させて頂いたイザベラ様の学園での行いは事実のようです」
 報告された内容は、俺の婚約者であるイザベラが学園である女子下級生を虐めているらしいという噂。部下の報告の内容が本当ならば、イザベラは学園内での調和を乱していることになるし、将来の王妃としての振る舞いには相応しくない。

「彼女が何故、そんな事を?」
 いつもは周囲にあまり関心を持たない彼女が、なぜ他人を虐めるなんて事をしているのか。事実よりも理由が知りたかった。

「動機などはまだ掴めていません。いま判明しているのは、イザベラ様がそのような行いをしていて、学園内でイザベラ様に関する悪い噂が流れているらしいという事だけです。不明瞭な段階で報告してしまい、申し訳ありません」
「いや、いい。早い段階で現状を知れただけでありがたい。イザベラについては引き続き、調査を進めてくれ」
 突然もたらされた部下の報告を聞き終えて、俺は動揺しながらも報告してくれた部下を労い下がらせる。強い疲労感を覚えた。

 イザベラが他人を虐めているなんて……。いや、もしかしたら何か理由があっての行いなのかもしれない。今の情報だけで判断するのは愚行だ。引き続き調べさせることで明らかになることがあるはず。そう考えるようにするが、疑念が晴れることはなかった。

 最近は俺の父親である王様が体調を崩し気味で、王国内部の動きが鈍くなっていた。そのために継承権第一位である俺が先導し、王様に代わって王国に所属する部下達を動かしてなんとか国が保っている状態だった。
 王様の代わりとなって行わなければならない仕事は多く、忙しい日々を過ごしていた。もちろん在籍している学園に通うことは叶わず、さらに婚約者であるイザベラと顔合わせをする機会も月に1度あれば良い方となっていた。だから、最近の彼女が何を考えて、何を思って、そして何をしているのかを知る機会は全く無かった。


***


 2度目となるイザベラに関する報告は、先日聞かされた内容よりも衝撃的だった。
「ここに書かれている事は、本当に彼女が行った事なのか?」
「えぇ、イザベラ様について調べていくと辿り着いてしまった真実です」
 ずらずらと書かれた罪状の数々、悪行が行われたという状況説明や証拠を見て、思わず呻いてしまう。大小の罪の数を合わせれば、百を超える程の数。普通の貴族であれば、すぐに爵位を取り上げて処刑する必要があるほどの内容だった。

 何故こんなことを行ったのか、ただひたすらに理由を知りたかった。イザベラは俺の婚約者である女性だ。何故こんなことをしたのか理由を知れば、許すべき余地があるかもしれない。

 俺は彼女に真実を問いただすために仕事を中断して学園へと向かった。学園へ到着した時刻は昼過ぎ、イザベラは昼食をとっていると学園に居た人に聞いて、彼女が居ると思われる中庭へと一直線へと向かって行った。そこに到着するなり目に飛び込んできた衝撃の光景。

「イザベラっ!」
 俺はその状況を見て叫ばずには居られなかった。俺は叫び、中庭で歩いていたイザベラの側へと走り近寄る。
「あら、アウレリオ様。お仕事は宜しいのですか?」
 イザベラは俺の声により気づいて、振り向くと何事もないような様子で俺に目を向けて声をかけてくる。彼女の顔は、いつもの様にボーッと何事にも関心を寄せないような心ここにあらずと言った表情だった。

「そんな事など、どうでもいい! それよりも、その芝生に倒れている女性について説明してもらおう」
「……はぁ?」
 イザベラの何を言っているのか分からないという顔。イザベラの傍らには、俺が報告を聞いて、そして学園で噂になっていると言われていると思われる女子下級生が中庭の地面に手をついて倒れていた。
 イザベラは俺の言葉によって、地面に手をついて尻もちをついて倒れている女性に目を向けるが、表情も変えずボーッといつもの興味もないという目で見つめるだけで、何をしようともしない。

 俺はイザベラの何もしない様子にイライラと怒りを募らせながら見ていられなくなって、地面に倒れている女性が立ち上がれるように手助けする。
「大丈夫ですか、お嬢さん」
「い、いえ、あの、大丈夫です」
 震えた声で返事をする倒れていた少女を立ち上がらせて、イザベラの方に目線を向けるが未だに関心のないという、いつもの様子だった。

「彼女に何をした?」
「は? 私は何もしていませんが?」
 イザベラが歩いていた近くに、彼女が地面に手を付いて倒れていた。イザベラと地面に倒れていた少女以外に誰もいない中庭。明らかに、イザベラが彼女を地面へと押し倒して現場を離れようとしていたとしか思えない状況だった。しかも、俺が手を取り立ち上がった少女は恐怖で震えている。
 俺が問いただしても彼女は答える気がないのか、何もしていないと犯行を否定していた。

「イザベラを捕まえろ。数々の罪で彼女を裁く必要がある」
 先ほどのイザベラが犯した罪の報告、そして今も犯行を行う現場に居合わせてしまった。イザベラは将来の王妃として、そして貴族としての振る舞いに相応しくない行動をしていたのは確定的であるのに、犯行をしたことすらを否定している。
 俺は引き連れて来ていた部下に、婚約者であるイザベラを捕まえるように指示を出す以外にとり得る行動が思いつかなかった。

「なんで、こんな事に……」
 部下によって引き連れられていくイザベラを見つめながら、俺は何故こんな事になってしまったのかを考えるが、答えは出なかった。

 

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