3.10年ぶりの会話

 彼を家へと招き入れてダイニングにあるテーブルに座らせた。普段なら突然の来客だとしてもお茶を出して歓迎するけれど、彼に対しては必要ないだろうと考えて早速話に入るように私は彼の向かいの席に座った。

 だけど、彼を家に招き座らせて私も向かいに座って来訪の目的を聞く体制になったのに、彼は一向に話を始めない。しかも彼はしばらく話もしないで、部屋の内装を見回して観察するフリをして私の方をチラチラと見ていた。
 本当なら追い返してやりたいけれど、目的も聞かず玄関払いにしたら後から絶対に厄介事に巻き込まれる予感がして、事前に対策を講じるために仕方なく話だけでも聞こうと思って家に招き入れただけなのに。
 
 いい加減、話が始まらないので私の方から声を掛ける。

「あの、ここに来た用件は?」
「……君は昔と変わらず綺麗なままだね」
 話が通じず、頭が痛くなった。

「それで、ここに来た目的は?」
 先程よりも語勢を強めて、同じ言葉で質問する。

「……実は、君にフロギイ国に戻って来てもらいたいと思っているんだ」
「はぁ?」
 私をフロギイ国へ連れ戻すだなんて。内心ではあるかもしれないと思っていた事だったけれど、まさか本気で連れ戻せると思っているのだろうか。彼の目的を聞いてビックリしてしまった私は、さらに彼の続く言葉を聞いて絶句してしまった。

「10年前の事は、私が間違っていた。本当に済まなかったと思っている。あの日のことを、君を私が信じなかった事を、そして今まで待たせてしまったことを、全て謝罪したい」
「……」
 テーブルに両手を付いて頭を下げている彼。私は彼が頭を下げる様を無言で見つめるしか出来なかった。
 今更になって何故謝罪? 私はあんな昔の事なんて忘れていて気にしていなかったし、今になって謝ってもらっても困るだけだ。しかも、”今まで待たせてしまった”と言うのはどのような意味なのだろうか。
 困惑していた私だったが、とりあえず彼の目的は知ることが出来た。それならば、次の行動は決まっている。

「申し訳ないのですが、私はフロギイ国に戻るつもりはありません。そもそも、”私”は10年前に処刑されて死んでしまった人間です。だから、あの国に戻る事はありえませんよ」
「え?」
 私の言葉に、何故か呆気にとられる彼。彼は10秒ほど硬直した後に気を取り直して、言葉を重ねる。

「10年前のことを、私は本当に悔い改めている。もう二度と私は過ちを犯さないように君に謝罪し、反省している。もちろん、私が君に謝るだけでは君の気持ちは晴れないだろう。だから国へ帰れば、貴方の失った時間と幸せを取り戻すための準備が出来ている。君を傷つけてしまった贖罪として、君が幸せになる手助けをさせてくれないだろうか?」

 あれだけの仕打ちをしたくせに、謝るから帰ってきてくれ、とだけ言われて私があっさり帰ってくると思っていたのだろうか。と言うか、私を幸せにすると言うのなら私に構わないで二度と目の前に現れないで欲しい。それが貴方が出来る私にとって一番の幸せに繋がる行動だ! と、内心で思いつつも、事を問題化させないように穏便に済ませられるよう心がけて私は対応する。

「申し訳ないのですが私はあの日に死んで生まれ変わることが出来て、新しい幸せを見つけました。私の幸せのためにわざわざ準備までして頂いて、それが無駄になってしまう事は大変申し訳ないのですが、私のことは気にせずに、今後はアウレリオ様ご自身の幸せ、そして国王としての役割を果たすために国民の幸せを考えて下さい」
「……君は優しい女性だったんだな」
 遠回しに、もう私に関わらないでさっさと国に帰ってくださいと伝えたつもりだが、どうやら彼には少しも伝わっていないみたいだ。それに、見当違いな感想をつぶやいている。
 本当に、今すぐ、早々と帰ってくれないだろうか。

「どうしても、国に戻ってくるつもりは無いのか?」
「えぇ、私は」
 しつこい質問に、私は絶対に戻るつもりは無いとハッキリと答えようとした時だった。突然、部屋の扉が開かれて若い男性がダイニングへと入ってきた。

「イザベラ、ご飯は出来たか? って、あれ? 誰か来ているのかい?」
「えぇ、ごめんなさいフィリップ。お客様が来ていて夕飯はまだ出来ていないの」
 私は椅子から立ち上がると、部屋に入ってきたフィリップの側へと近づいて、今まで話し合いをしていたアウレリオの方へと向き直る。すると、憎々しげな視線をフィリップに向けるアウレリオ。急いで私がフィリップについて説明しようと声を出す前に、元婚約者のアウレリオが鋭く問いかけてきた。

「その男は誰だい、イザベラ?」
 アウレリオの言葉を聞いて、困惑したような顔を浮かべるフィリップ。そして、説明を求めて私の方へ顔を向ける。

(以前、話したことのある元婚約者だった人よ)
 私が魔力による念話でフィリップに来訪者について説明すると、フィリップは納得してアウレリオの方へ視線を戻し言い放つ。

「僕はイザベラの夫、名前はフィリップだ。よろしく頼む」
「君は結婚していたのか……?」
 アウレリオの驚く顔。私の事を調べて知っていただろうに、私に夫が居る事を何故知らなかったのだろうか。

 しかし、思っていた以上にアウレリオ様がしつこくて、居座られてかなりの時間が過ぎてしまっていたようだ。夫には全然関係のない私関連の問題だったので、彼を巻き込まないようにと思っていたけれど、夫のフィリップが部屋から出てきてしまった。本当は、話し合いは速やかに終わらせて、なるべく早く帰ってもらい夕食の準備の続きをするつもりだったのに間に合わなかった。

「えぇ、アウレリオ様。私とフィリップは8年前に夫婦になる誓いを立てました」


***


 私がアウレリオ様に夫を紹介した後、残りは夫がアウレリオ様の対応をすると言ってくれて、私は夕食の準備に戻ることになった。

 ダイニングのテーブルに向い合って座り話し合いをしている夫と元婚約者だった人。最初は彼らの話を気にしつつ料理をしていたけれど、途中から夕食の準備に集中していった為に、気がづけばダイニングには夫のフィリップだけが残ってテーブルに座って夕食の完成を待っていた。

「あれ、アウレリオ様は帰ったの?」
「彼はもう帰ったよ。それよりも夕食はできたのかい?」

 どうやら、フィリップが話をつけてくれて元婚約者を帰してくれたようだ。夕食が出来上がっても居座り続けるかも知れないと心配していたが、帰ってくれたようでホッと安心した。

 元々は私の問題だったのに、彼に解決を任せてしまいちょっとだけ心苦しいと思いつつ、素早く問題を解決してくれてやっぱり頼りになる夫だなと惚れ直す。
 その後、夫との楽しい夕食時間を過ごした私。夕食前に起こった少し厄介な出来事は私の記憶から何時の間にか消えていた。

 

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