2.あれから10年後

 夕食の準備をしていた私は、玄関から戸を叩く音が聞こえたので料理をする手を止めた。

「こんな時間に一体誰かしら?」
 時刻は夕方を過ぎて、オレンジ色の夕日から夕日が沈んで真っ暗になっている途中。しかも私の住んでいる家は、村から少し離れた場所にあって、しかも人が寄り付かないような森の中に立っている。だから、夜に私の家に訪ねようとするとよほど慣れていないと、来る途中で森の中で道に迷ってしまう。だから、夜になったら家を訪ねてくる者は居ない。

 しかし今は夜。訪ねてくる人物に心あたりがなかったし、訪問の予定も無かったはず。私は不審に思いつつ玄関へと向かった。

 私が玄関へ向かっている途中にも何度か扉を打つ音が聞こえてきていた。だが、来訪者は声を出して住人に呼びかける事をしないために、私は来訪者の正体をつかめないでいた。ただ、訪ねてきた誰かはかなり急いでいるようだ。

 玄関までたどり着くと、私は念の為に玄関脇に立てかけてあった魔法杖を右手にとって警戒しつつ扉を開けた。

「どちら様でしょうか?」
 声を掛けながら扉を開けたそこには、村では見たことのない40代ぐらいの草臥れた中年男性が1人で立っていた。彼が戸を叩いていたようだけれど、見覚えがない。彼は一体誰だろうと考えていると来訪者が口を開いた。

「久し振りだねイザベラ」
 疲れた様な笑顔を見せられながら、私の名前を口にする中年男性。来訪者は私の”イザベラ”という名前をしっかりと知っていて呼びかけてきたが、私は彼が誰なのか分からなかった。
 顔をもう一度しっかりと見てみたが、村の人間でないことは確かだけれど、それ以外はわからない。私の記憶に無い男の顔。
 服装を見てみると、貴族の着るような立派な服装だった。だが、生地や作りは立派だけれど染料が劣化して薄汚れた色になっていて、粗末な印象を抱かせる。
 私は、疲れた顔と薄汚れた格好から長旅にでも出ていたのだろうかと想像しながら、彼が誰なのかを聞いてみた。

「あの、大変申し訳ないのですが、どちら様でしょうか? 貴方は私の名前を知っているようですが、私の知っている方でしょうか?」
 もしかしたら私が思い出せないのは、彼が一方的に知っているだけの関係だったり、一度だけ出会った事のある人なのかもしれない。
 だから、訪ねてきた本人に直接聞いてみた。私の反応を見た彼は、大きく目を見開いた後、今度は目をつぶって落ち着いてから溜息を一度ついた。どうやら、残念がっているみたいだった。

「コレを見てくれ」
 私に向かって何かを差し向ける来訪者。その手のひらには、フロギイ国と呼ばれる王国、私のかつての故郷だった国の国章が刻まれたペンダントが置かれていた。
「私は、フロギイ国の王。アウレリオだ」

「……あぁ、お久しぶりですね!」
 私が10年前に破棄させられた元婚約者の名前を名乗られて、顔をもう一度見たが記憶にある人物と全然一致しなかった。
 私の目の前に居る男性は、40代ぐらいの年齢だろうと思わせるぐらいに老けて見えた。しかし、私の元婚約者は私の2歳年上だったはず。つまり、記憶通りなら27歳のはずだろう。だから、30代の年齢を超えて40代に見えるぐらいに老けた彼が、アウレリオ本人だとは思えなかった。

 ただ、彼の手のひらの上に置かれて差し出された国章が刻まれたペンダントは、王族しか持つことを許されていない物だった筈の物なので、彼がフロギイ国の王族であることは間違いないだろうと思う。王様という大きな権力を持つ彼、面倒事にならないように一応は話を合わせて訪ねて来た用件を聞くことを優先する。

「お久しぶりですが、一体何故この場所に? 私は10年前に処刑されて死んだ事になっている人間です。そんな死人に対して、どのような用件で来たのですか?」
 彼が家を訪ねて来て、私が扉を開けて出てきた事に驚くこともなく第一声で私の名前を声に出した。ということは、私が10年前の処刑された日には死んでいなくて、今も生きて続けて生活していることは調べがついて知っていたのだろう。そして、彼は私が生きているという事を知った上で、今日は私の住処に訪ねて来た。

 彼の話を聞いたらかなり厄介な事になりそうだと予感しつつも、追い返すわけにはいかないので事情を知るために話を促す。

「ここに来た用件を伝えるには話が長くなりそうだから、座って話し合いをさせてくれないか?」
 私は目的を早く話せと促す。しかし、話し合いをするから家に入れれという彼の言葉。

 元婚約者だけれど家に入れるなんて、かなり嫌な気分だった。すごく拒否したいと私は考えたが、彼は家に招いて座らせるまで用件を話さないつもりなのか、私が家に招き入れる言葉を黙って玄関前で立って待っているようだった。
 しかも、王様の立つ後ろに何人かの人間が隠れていることに、私は気づいていた。流石に一国の王を1人で勝手に出歩かせる訳にはいかないのだろうし、隠れている連中は王様を影から守護する存在なんだろうと考える。

 私は隠れて監視と守護をしている連中に気づいてしまったので、このまま玄関前で話を続けることは気まずいだろうと思ってしまった。だから、王子を家に招き入れて素早く話を終わらせられるように頑張ろうと決意しながら、元婚約者を家に招き入れた。

 

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