1.私が処刑された日

 私は、城下町の広場に集まっている民に混じり、ある貴族のご令嬢の死刑が行われるのを眺めていた。その令嬢は私と姿形がそっくりで、名前も一緒だった。……まぁ、私が作った身代わりの人形なんですけどね。

 広場の中央では、”私”という罪人が断頭台に手首を固定されて膝をつき民に見世物にされていた。その横で死刑執行人が、”私”の犯した罪をスラスラと読み上げている。
 その罪の多くは、民衆を不用意に虐げられるようなものだったり、民が犠牲になるような罪ばかり。死刑執行人が罪を読み上げる度に広場に集まった民から怨嗟の声が上がる。
 しかし断頭台に居る”私”は、怒り回るわけでもなく、泣いて懇願するわけでもなく、ひたすら無表情で民を見返していた。民の憎悪を一身に受け止めながら。

 傍らで死刑の進行を眺めている私の元婚約者だった王子。彼の表情は青白く、酷く追いつめられたような表情をしながら断頭台に固定されている”私”を見つめていた。
 そして、その右腕に寄り添うように立っている見知らぬ令嬢。どうやら、彼女が新しい王子の婚約者にして未来の王妃になる女性なのだろう。

 罪を犯したということで拘束されている間に私は婚約を破棄させられて、その後すぐに代わりの婚約者を発表したらしいという話は聞いていた。その代わりの婚約者が彼女なのだろう。王子は新たな婚約者を手に入れて、私は元婚約者という立場よりも罪人として印象付けられ処刑されようとしている。

 王子のそばにいる令嬢は心配そうに王子を見つめながら何かをつぶやいてる。多分、王子が落ち着くような言葉を囁いているのだろうと予想する。

 しかし、彼があんなに追い詰められた様な顔をしている所を見ると、私を罪人に追いやったのは彼の想定するところではなかったのだろうか。婚約者だった頃の王子は優しかった事を思い出して、彼なら罪人だとしても殺すことには反対しそうだと思った。けれど、今の私は死刑を執行されようとしている。
 そんなに追いつめられたような顔をするならば、王子としての権力を使って死刑を止めてくれればいいのにと内心では不満に思う私。

 連々と多くの罪が読み上げられて、そのたびに民の熱気が上がっていく。どうやら、私という悪役にできうる限りの罪を着せて巨大な悪にしていき、そんな悪を処刑することで民の鬱憤を晴らすという考えなのだろう。今まで清廉潔白をモットーに生きてきた私が、あんな数の罪を犯すなんて未来とは予測の出来無い物だとつくづく思う。

「何か申し開きはあるか?」
 処刑執行人の罪状読み上げが終わり、遂に死刑が執行される時が来た頃。その時になって、王子が”私”に近づいて問いかけてきた。王子の声で、民衆はピタリと声を止めた。

「執行人の方が読み上げたモノは、全て私のやった事ではありませんが?」
 その問いかけに、私は魔法を使って遠くから”私”を操作して思ったことを王子に目線を向けて答える。無表情から、ニコリと笑顔を付けて。
 興奮状態だった民が声を止める中だったので”私”の放った声は小さいながら広場の遠くまで響いて聞こえるようだった。

 ”私”は手や首を押さえつけられて、しかも首のすぐ上にはむき出しの刃が構えているのに、身体を震えさせることもなく、泣きわめくこともなく、すぐ側にある死に対しても鈍感になって笑っている。そんな”私”は傍から見れば非常に不気味に見えただろう。操作していた私も、他者目線として内心では”私”の笑顔を怖ッと思ったり。

「嘘を申すな。コチラにはお前がやったという証拠が有るし、目撃者も居る。貴様が、何かそうせざるを得ない理由があって、素直に話してくれれば情状酌量の余地が有っただろうに。しかし、お前は罪を否定をしている。やっていない何て言い訳をするお前に、失望した。……死刑を執行しろ」
 王子は青白い表情のままに、私に語りかけて最後に死刑執行人に指示を出して断頭台から離れて行った。指示を受けた死刑執行人は即座に断頭台の仕掛けを作動させた。その結果、上に固定されていた刃が落下し”私”の首を切り落とした。
 切り落とされた”私”の首はクルリと一回転すると、頭の下に置かれた籠にガサリと音を立てて見えなくなった。その瞬間、民が一斉に声を張り上げて喜ぶ。

 ”私”の死刑を見届けた私は、処刑が行われた広場から足早になって離れた。
 
 転生してから15年。この世界について、前世で人気だったとあるゲームのシナリオに似ていると確信した私は、私の名前が登場人物と一致することを思い出し、その登場人物としての立場を思い出して絶望した。
 私の知っているゲームの通りなら、私は主人公の人生を、そしてシナリオを盛り上げるための悪役として登場する事になる。
 私が生き残るためには、ヒロインが私の婚約者である王子と結ばれないようにするか、もしくは主人公の逆ハーレムルートを阻止する必要がある。

 私は生き残りたい一心で15年間、色々と生き残る方法を考えて計画を立てて進めていた。が、結局はヒロイン役だと思われる女性に王子を奪われて、処刑されるルートに一直線で突き進んでしまった。

 まぁ、処刑されるかもしれないと想定していた私は身代わりとして作った人形を用意してあったので、その人形を身代わりい使って生き残ることが出来た。
 処刑も執行されて、15年間の時間を掛けた私の人生の多くは無駄になってしまった。だけど、生きているだけで儲けものだと思い直し、今日からの私は三度目の新しい人生に突入したのだろうと考えて、国を出ることにした。

 少しだけ両親の事を想ったけれど、私は死んでしまったし今戻ると彼らに迷惑を掛けるだけだろう。それに、公爵家は弟がしっかりと跡継ぎとして居るので安心だった。私は冤罪を着せられて処刑されたが、優秀な父や弟ならば事実確認を行って私が無実だったという真実にたどり着いてくれるだろう。そして1人の公爵令嬢を無実の罪で殺したという事実を王族に対しての武器として活用してくれるだろう。

 私は、もうこの国には戻ってくることもないだろうと思いながら国を出て行った。

 それから10年後。

 

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