07話 提案

 先生が提案した方法とは、ズバリ女装をして今までの生活を続けるという方法だった。俺が今置かれている状況を知っているのは、この部屋にいる七瀬寧々と門馬先生の二人だけだ。そして二人は他人に絶対に俺の状況を知らせないと約束してくれた。

 今後は知らせるとしても、あらかじめ俺に許可を取るか事前に相談するようにと言ってくれた。今回の寧々が、先生をうちに連れてきてくれたように。

「見た目は胸以外に特に変わったところは見られないから、女装しておけば違和感なく過ごせるはず。と言うか、誰も男になったって話なんか信じないだろうから」

 騒動や混乱を少なくするのならば、何事もなかったように事実を隠して過ごす事が一番だと門馬先生は語った。万が一にも元の女性の状態に戻った時には、混乱なくすぐ戻れるはずだからと。

 ある朝に目覚めたら男の姿になった、そのキッカケが分からないので一体いつ元に戻るかも分からない。本当に戻れるのか、どれだけ男の姿のままで居るのか。そして、俺は元の世界に戻れるのかどうか。わからない事だらけ。

「……わかりました。とりあえず、しばらくは事実を知られないように変装して過ごすことにします」

 女装して隠れて生活するのは最初に考えついた方法だったけれど、隠し通せるかどうか自信がない手段だった。けれど、今は二人の協力してくれる人が付いており、他にいい方法も思いつかないから暫くの間は女装して過ごすという門馬先生の提案を了承した。

「うん。じゃあ早速、着替えの方を見てみよう」
「へ?」

 そう言った門馬先生は、いつの間にか手に女子制服を持って俺に向けて掲げていた。これを着ろということだろうか。今?

「2日も仮病で休んだんた。明日はしっかりと学校に来れるように女装する準備だけしておこう」
「い、いきなりですね先生。って、自分で着替えられますから!?」

 掲げられた制服を受け取ろうと門馬先生に近づいた瞬間、腕を取られて着ているジャージを強引に脱がされそうになる。というか、それはセクハラになるんじゃなかろうか。昨日のジャージのファスナーを下ろしただけなのに、寧々の慌てた様子を思い出していた。

 ジャージのファスナーを降ろされないように腕で防御しつつ、なんとか逃れようとした俺の様子を見て、慌てて寧々が先生を止めに入ってくれた。

「ちょ、先生駄目ですって。男の人にそんな、強引ですよ!」
「止めるな七瀬、こんな機会今後は二度と無いかもしれないんだ」
「き、着替えてきますっ!」

 寧々のほうが先生よりも身長が高い分、力でねじ伏せて動きを止めることが出来ていた。そのスキを突いて俺は制服を手に取り、急いで部屋から出ていく。

 

***

 

 それから5分後。制服を来て部屋に戻ってきた俺に、先程の正気を失った門馬先生は落ち着きを取り戻して、それから土下座で謝罪してきた。

「さっきは本当にごめんなさい。あんな強引に、訴えられたら犯罪になる事をしてしまって」
「そ、そこまで謝らなくても。とにかく俺は大丈夫です」

 服を脱がされようとはしたけれど上に着ているジャージだけだし、それほど謝るようにな事でもないのに土下座されたほうが罪悪感がある。更に頭を下げて謝ろうとする先生を強引に腕を引いて座らせる。

 しょんぼりと座り直した先生の側には、俺が許したことを納得していないという感じで先生を睨みつけている七瀬寧々が立っている。

「と、ところで制服、着てみましたけどどうですか?」

 事態が更に悪くなりそうな雰囲気に、俺は慌てて別の話題を振る。というか、今回のメインは残念ながら俺が女装を正しく出来ているのか判断すること。元の話題に戻したと言える。

「それなら見た感じ、大丈夫でしょう」
「私も大丈夫だと思うよ」

 二人は俺の今の姿を上から下までじっくりと観察してから、納得したというように腕を前に組み、首を縦に振って頷いていた。合格ということだろうか。

 靴下を丸めたものをいくつか作って、それを胸の部分に詰めてブラジャーを上から装着してガッチリ固定し、胸もあるように見せている。その部分が彼女二人の、俺が男であるか女であるかの判断基準になっているようだし。

 制服の着方もブレザーだから特には迷うこともなく着こなすことが出来た。というよりも、そもそも女性として生活していた記憶はあるので着るのに問題は無かった。少し女物の服を着るのに抵抗が有っただけだ。

「こんな感じで有るものでなんとか対応してみましたが、意外とうまく行きました」
「これなら怪しまれることも少ないでしょう」

 うーん、言われたとおり女装はしてみたものの、自己評価としてはどう見ても女物の服を着た自分にしか見えないけれど、これで本当にダイジョブなのだろうか。

「大丈夫、大丈夫。先生も言ってたように誰も、そこに男が居るなんて考えないよ」
「ほんとうに?」
「ホントホント。だから、明日はちゃんと学校に来なさいよ」

 二人の励ましに、不安は抱きつつも納得する。後は、明日の学校に行ってみての周りの反応から判断するしか方法は無かったから。

 

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