06話 先生

 夕食にカレーを作り七瀬寧々と一緒に食べた後、その日のうちに彼女は実家へと帰っていった。時々は泊まって過ごす事もあった七瀬寧々だったが、岬アキラという存在が男性の身体となった今、さすがに年頃の女性を家に泊めて男女二人で一夜を過ごすのはよくない事だろうからと考えた俺は、彼女を家に帰るように勧めたからだった。

 男性である俺を一人で家に残すことを危険に思ったのか、寧々は家に泊まっていこうとしていたようだったけれど。

 七瀬寧々を家に帰らせた後、すぐに就寝することに。

 想定もしていない驚きの出来事と、調べごとを一日中して過ごし頭を使って疲れていたので、布団に入ればすぐさま眠りにつけるだろう。それに、もしかしたら一回寝て次に目を覚ました時には今のおかしな状況が元に戻っているかもしれない、等という自分でもなかなか信じられない淡い期待を思い浮かべながら眠ってみた。

 けれど、翌朝何事もなく状況も変わらないまま俺は普通に起床していた。相変わらず、記憶のおかしくなったまま、姿は男性のものだし意識も自覚も男性のままであった。

”先生に話をつけたから、今日の放課後連れて行くよ”

 今日も学校を仮病で休んで家で情報収集に勤しんでいた昼頃、寧々からチャットアプリによる連絡が来ていたのを俺は確認した。

「この先生……って、どの先生だろうか?」

 俺と七瀬寧々はクラスが別である。だから、先生というのが担任だとしたらどちらを指して言っているのか、それとも別の違う誰かの事を指しているのか。

 送られてきた一文からは分からなかった。それに話をつけたとは、一体どこまで話したのだろうか。いきなり家に連れてくるなんて、いろいろな疑問や困惑する事が頭に思い浮かんでいたけれど、質問しだしたらキリがないと思ってとりあえず早々に返信だけしておく。

”わかった、今日の放課後も家で待ってる”

 何か気になることがアレば、放課後の話し合いで聞いて確認すれば良いやと半ば投げやりな気持ちで、七瀬寧々と連れてこられるという先生を待つことにした。

 

***

 

「アキラー! 来たよ」

 昨日と同じぐらいの時間帯である夕方、玄関を開いていつものように家に来たことを大声で伝え聞かせてくれる七瀬寧々。

「勝手に入っていっては駄目よ、七瀬さん」

 そして今日は昨日と違って別のもう一人の声、子供のように甲高いけれど口調は丁寧な女性の声が聞こえてきた。その女性こそが寧々が昼に連絡をよこした、連れてくると言っていた人なのだろう。そして特徴的な声から察するに、岬アキラのクラスを担任する女性教師だと分かった。

「いつもこんな感じで勝手に入っていきますから大丈夫ですよ。家に入るときは、泥棒に間違えられないように、あらかじめ声を掛けるようにはしてますけど」
「なるほど、そうなの。でも岬さんは今病気で倒れてるんでしょう、負担をかけないように静かにいかないと」
「あ、それなんですけど……。まぁ、見てもらったほうが分かりやすいか」

 階段を登って会話をしながら近づいてくる二人の声が聞こえてきていた。どうやら寧々は今の俺の状況については詳しく説明しないまま、先生を家へと連れてきているらしい。そんな二人を迎えるために、俺も立ち上がって自室の扉を開いた。

「おかえり、ネネ。それといらっしゃい、先生」
「えっと、ただいま? アキラ」
「岬さん! 病気なんでしょう、安静にしてないと、……って、え」

 担任の先生である門馬なお。声と同じように見た目も女子としては珍しいとされる子供のように小さい。と言っても俺と少ししか違わない150センチメートルぐらいだ。

 けれど、大きく違っているのは胸にある大きな膨らみ。ロリ巨乳と言える大きな胸が特徴的な彼女。そんな彼女の視線が俺の胸へと集中しているのが分かった、そして傍から見て分かるぐらいに混乱している様子だった。

 やっぱり男だと判断される基準は胸の大きさなのだろうか。寧々も先生も手にあふれるぐらいの巨乳だったので、それがこの世界での女らしさなのだと俺は認識する。

「か、風邪で休んでいたんじゃないのだすか!? というか、その姿は一体……」

 一分以上フリーズしていた門馬先生は、ようやく事実を少しだけ受け止めたのか動き出して、俺に向けて色々と質問攻めを始めた。

「この姿は昨日の朝、目が覚めたらいつの間にかこうなっていました。それで、今の姿のまま学校に行くわけにもいかず、とりあえず昨日と今日は仮病で学校を休んでしまいました」
「……」

 事情を説明をしたら、今度は絶句して黙ってしまった先生。家へと連れてきた七瀬寧々にどうするのかと問うような視線を向けるが、彼女も困った表情を浮かべて戸惑っている。

 

「あー、えっと……。これからどうすればいいでしょうか? 先生」
「え!? どうすればって……。どうしましょう?」

 異常な事態である今、頼れる人を増やすためにと事情を説明したのは失敗だっただろうか。そう判断しそうになった俺だったが、門馬先生は今の状況を打開するためのある提案を俺にしてきた。

 

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