05話 お夕飯

「夕飯どうしよう?」

 対応策は思いつかなかったものの話が一段落していたところ、そう問いかけてきたのは向かいでぐーたらと横たわり始めた七瀬だった。スカートなのも気にせずに足や腕をぐっと伸ばして、カーペットの上に身体を放り出している、美少女の無防備な姿に視線が囚われそうになるのを必死に抗い窓の外に目を向ける。

 視線の先にある窓から見える景色は既に暗くなっていて、話しているうちに時刻が夜の七時をいつの間にか過ぎていた事に気がつく。そう言えば朝は慌てて適当にパンを食って済まして、昼は食べずに居たのでお腹も減っている。今日はろくなものを食っていないから、今すぐに何かしっかりした物を食べたい気分であることを自覚した。

「お腹は空いてるけど……」
「その姿じゃ、外には買いに行けないか」

 横向きに寝転がりながら、改めて俺の全身を見回すように観察する視線を向けてくる七瀬。彼女の言う通りだった。
 顔の見た目があまり変わっていないから、少しぐらい大丈夫という七瀬の言葉を聞いたものの、やっぱり今の姿で外に出ていくのには少し勇気と心の準備が必要そうだった。

「じゃあ代わりに私がコンビニ行って買ってくるよ。弁当何が良い?」
「コンビニ弁当かぁ……」

 家族というか姉妹での関係がうまくいっていないらしい七瀬は、学校が終わり放課後の時間を岬家に入り浸って過ごすことが多かった。我が家も母親が仕事ばかりで、いつも家に一人で過ごしていたので誰か他の人が居るのがありがたかったのもあり、ありふれた風景になっていた。そして夕飯まで済ませていく事も日常的になっている事だった。

 そんな彼女と一緒に夕食を済ます岬アキラは、手軽だからという理由で一週間ぐらい続けて夕飯にコンビニ弁当を食べている、なんて記憶がある。

 確かに買ってチンするだけで準備できるコンビニ弁当は手軽で便利だろうけれど、そんなものばかり食べてたら栄養が偏ってしまうだろうに。若くて可愛い女性なのに、食生活を気にしないなんて美容的に危険だし健康を害したらもったいないと思い、俺はある提案した。

「カレーなら作れるけど、食べる?」
 別に料理が特別に得意というわけではないけれど、長年の一人暮らしを経験している俺は、ある程度ならば料理を作ることは出来るようになっていた。それを折角だから振る舞おうと考えての提案を七瀬に向ける。

「ホントに!? も、もちろん作ってくれるなら食べる、食べるよ!」
「お、おう……。じゃあお米は有るみたいだから、食材だけ買ってきて」

 手料理の提案に予想外に食いついてきた七瀬にたじろぎながら、手書きの食材メモを渡して買い出しをお願いする。

「それじゃあ悪いけど、そのメモ通りに買い出しだけお願い。こっちは料理の準備しておくから」
「うん、それじゃあ、えっと……、行ってきます」

 夜になって若い女の子、しかも見た目が美少女であると言える彼女を外に送り出す事を少し心配に思ったけれど、よくよく考えると女性を襲おうと夜道を歩く男なんて居ないみたいだから、それほど心配せずとも安全なのだろうかと思い直す。

 なんせ1対9という男女人口数の差で考えれば、逆に男の方が貴重で無防備に歩いていたら襲われるらしい世の中だから。
 だが常識が異なる世界でもどんな危険があるのか分からないので、注意だけ促して七瀬を玄関から送り出す。

「気をつけて、いってらっしゃい」
「う、うん」

 何故か緊張している風に見える七瀬を送り出した後、俺はキッチンへと向かい炊飯器を取り出してお米を先に炊いておこうと動き出した。

 

***

 

 それから1時間、お願いした通りに買い出しに行って帰ってきた七瀬から、買ってきた食材を受け取ってすぐさま調理を行い、カレーを作った。カレーのルーを使って豚肉に野菜をたっぷりと入れたトマトカレーが出来上がったので、二人でキッチンで向かい合って食べる。

「うまっ、これすごく美味しいよ」
「それは良かった。おかわりもあるから足りなかったら言って」
「う、うん!」

 そのままガツガツと豪快にスプーンを口に運んで食べる七瀬の姿は、高身長で大人っぽいビジュアルなのに食欲旺盛の子供らしく見えるというギャップがあって、眺めていると少し面白かった。

 

「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」

 手を止めること無くカレーを食べ続けて、なんと三杯もおかわりをして作り置きも残さず食べてしまった七瀬。多めに作っていたハズのカレーが、全て食べ尽くされるとは思わなかった。

「本当に美味しかったよ、アキラ」
「それは良かった、七瀬さん」

 予定通りに料理を準備できたことに安心したのと満足する気持ちを感じていたが、少し表情を曇られた七瀬の変化が気になり、どうしたのかと尋ねた。

「ちょっと気になってたんだけど、さっきから私のことを”七瀬さん”って名字で呼んでるけれど、名前で呼んでくれたほうが良い。と言うかいつもの呼ばれ慣れている方じゃないと落ち着かないというか……、だから名前で呼んで」
「あーうん、わかったよ。これから寧々って呼ばせてもらう」
「う、うん。ソレでお願い」

 お願いした彼女も、お願いされた俺も両方が恥ずかしそうな反応を見せていた。

 

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