04話 事情説明

 驚き顔のまま固まった七瀬寧々を自室へと招き強引に座らせると、待っててと言って飲み物を用意するために一人で階下のキッチンへと向かう。

「冷静に考えると男が女子高生を自宅に招くなんて、倫理的にアウトだなぁ……」

 直前まで事情を話すのに緊張していたはずだが、七瀬の驚いた様子を見て逆に冷静になれた自分がいた。そしてお茶とお菓子を用意している間、今の状況を改めて考えてみると別の心配事が頭に浮かび上がってきていた。

 七瀬寧々は学校帰りに直接家へとやって来たのか、学生服姿だった。5月という時期だったので、まだ夏服の薄着では無かったけれど右胸にエンブレムの付いたグレーのブレザーを上に着て、下はネイビーのスカートを履いていた。しかも七瀬は巨乳と言える女性だったので、前のボタンを開けてシャツが盛り上がっているのが見えていた。

 顔も美人と言えるぐらいに整っている。セミロングのきれいな黒髪に、シュッとした輪郭で小顔。けれどパッチリとした特徴的な大きな目。

 そんな女子高生が家族の誰もいない自宅に来ているんだと、独り言を呟きながら応接用の茶菓子を用意して持って自室へと戻ってくる。

「ぶっ!?」
「……」

 扉を開いて七瀬の姿を見た俺は、おもわず吹き出してしまった。自室の中央に敷いてあるカーペットの上であぐらを組んで座っている彼女。スカートから見えそうで見えない下着のチラリズム。そして高身長である彼女の、すらっと細長い組まれた足は魅力的だった。

 予想していなかった彼女の油断している格好に急いで視線を外す。その間、七瀬は無言のまま俺の姿を先ほどと同じように凝視していた。

「今から説明するから、とりあえずお茶をどうぞ。お菓子も」
「……ありがとう」

 背の低い折りたたみテーブルを取り出してきて部屋の中央に置くと、その上に用意したお茶とお菓子を並べていく。そして二人は向かい合って座り、ようやく事情の説明を始めた。

 目が覚めたら今の姿になっていた事。男として送った人生の記憶があり、女として過ごした記憶もあり二人の記憶が混在してる事。男の記憶では、今居るこの世界の常識とは大きく異なった所であった事。

 事情を詳しく語っていく俺の言葉を真剣に聞いて、説明の途中にも口を挟まずに黙っていてくれた七瀬寧々。そして彼女を自宅へと呼んだ理由まで全てを話していく。

「という訳で、こんなこと誰に相談していいのか……。とりあえず一番信頼できる七瀬さんに話そうって思って連絡して家に来てもらったんだけど。どうしたら良いと思う?」
「どうしたら、って言われても……」

 こんな空想的で非現実的な話を打ち明けられて解決方法を求められても、すぐさま思い付く訳はないだろう事は明らかだ。そもそも話を聞いて、落ち着き理解するまで今しばらく時間が必要だろう。しかし頼れる人は多くない、とにかく協力してもらえるようにしないと。

 何を考えているのか呆れた表情を浮かべて見返してくる七瀬さんの視線に気まずくなり、知らず知らずのうちに正座になる。

「と言うか本当に男、なのか? 騙しているわけではなく?」

 七瀬さんの見た感想では、今の男姿と女姿とに変化は無いらしい。けれど胸の部分だけは明らかに違っている。そんな訳で性転換手術という可能性を考えているらしい彼女の疑念を晴らすために、話が本当だと証明してみせようとジャージのチャックに手をかける。

「ほら、手術の傷跡なんて無いよ」
「え!? な、何をして、って服を脱ぐな!」

 手術なんてしていない事を証明しようと、ジャージを脱いで上半身裸となって見せつけようとしたが、七瀬がテーブルの向かいから身を乗り出して慌ててチャックを下ろすのを阻止してきた。

「分かった! わかったから、信じるから、服を脱ぐな!」
「え? あーそうか。うん、服は脱がない」

 男の上半身裸でそんなに慌てるなんてと一瞬思ったけれど、男はむやみに肌を見せないのが当たり前の世界なんだと思い返してジャージを脱ごうとした手を止める。

 そしてやっぱり別世界で生活していた頃の記憶や意識が強いようで、分かってはいるけれどコチラでは常識外であるらしい行動を起こしてしまう。今後注意しないと大変そうだと感じていた。

「ふぅ、っと、とにかく、アキラが男の身体になったという事は百歩譲って信じよう。だけど別世界の記憶? については信じられないなぁ。男女の比率が半々の世界なんて……」

 七瀬の知っている現実世界とは大きく異なる想像もつかないような世界の話。本当に有るという証拠もないし、実際に生きてきた記憶が無いと信じられないだろうなと、七瀬の意見に反論する言葉はなかった。

「まぁ別世界についての話はともかく、これからどうしよう」
「人類管理局に連絡してみるのは?」

 七瀬の挙げた人類管理局とは、名称の通り人類という枠組みに関連する行政事務を担当する国の機関であり、主に男性に関する問題を取り扱っているらしい。本来なら、ココに相談しに行くのが真っ先に思い浮かぶであろう解決策。

「連絡してどうなるかを想像すると、ちょっと怖いんだよ。荒唐無稽な話だし信じてもらえるかどうか。男の姿で居る今の自分が岬アキラであるって証明もできそうにないし」
「まぁ、そうか」

 可能な限り問題にならないよう平穏無事に暮らしたいと考えている俺は、知らない誰かに助けを求めて自分が男であることを明かすのは、よくないだろうと感じていた。

「ならやっぱり、信頼できる人だけに片っ端から話をして協力者を増やし助けてもらうしかしょうがないと思う。家の人とか学校の先生、とか?」

 結局は事実を打ち明けて相談できる人を増やしていくしか方法は思い浮かばない、という結論に達するのだった。

 

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