01話 状況判断

「んー? あー? えー?」

 目が覚めて身体を起こして感じた違和感。茶色の学習机に、真っ白な本棚。身体が沈んでふかふか、座り心地のいい高級そうなシングルサイズベッド。

 昨夜寝る前に居た場所とは明らかに違う部屋の内装に混乱して、意味のない言葉が無意識に俺の口から漏れていた。

 酒の飲み過ぎで記憶が飛んだのか。しかし二日酔いの症状である頭痛は一切無いし、むしろ調子が良いぐらいな感じで健康そのものだ。

 しかし、今見えている視界の中にある家具には見覚えがないし見知らぬ部屋だった。どう見ても俺が住んでいるワンルームのアパートには見えない。そもそも敷布団ではなくベッドの上で寝ていたところから、いつもの状況が違っていたし。

 なぜこんな場所で眠りについていたのか。こうなった経緯である寝る前の記憶を辿ろうと、頭に右手を当てて思い出そうとして再び違和感。

「あれ? 知らないかと思ったけど、もしかして知ってる部屋?」

 記憶を呼び起こそうとして、じんわりと蘇ってきた遠い日の思い出。いや? それほど遠くない記憶のはずなのに、薄ぼんやりとした途切れ途切れの色あせているイメージに感じる思い出。年を取ったせいで記憶力が衰えているせいだろうか。

「と言うか実家だ!」

 徐々に蘇る記憶がハッキリとした時、ようやく今居る場所に思い至って愕然とする。そんな場所だと気づかなかったのかと。

 部屋の窓から見える外には、家が立ち並ぶ住宅街がある。そして、俺が今いる部屋は一戸建ての二階にある部屋。この部屋は小学生に入学した時に与えられた一人部屋。それから高校生になる今の年齢になるまでの数年間ずっと過ごしていた自分の部屋だった。

 しかしもう一つ矛盾した記憶が思い出された。実家である市営団地で生まれてから学生時代までを過ごし、就職する時に家を出て一人暮らしを始めたという社会人としての記憶。

 まるで、二人分の人生の記憶を持っていた俺はパニック状態に陥った。どちらの記憶も自分のものだという実感があり、俺にとっては両方が真実だった。しかしあり得ない事実だという事も認識している。どちらかの記憶が自分のモノではないという事。

 

 それから落ち着くのに30分程の時間を要した。

 

 落ち着いて記憶を辿れば、鮮明に思い出される高校生の私と社会人の俺としての人生の思い出。

 今俺がいる場所は、私が住んでいる実家の自室だ。高校二年生の17歳で女子学生であるはずだった自分の部屋。

 それなのに、そんな部屋にいるのは社会人である男の俺だった。しかも不可解なのが、自分の身体が若返っているかもしれないという事。体の節々の痛みが無くなって調子がいいと感じた原因はソレなのかもしれない。

「で、なんで俺はこんな格好を」

 落ち着いたことでやっと気がついた。自分は女性用らしいパジャマに、パンティという変態的な格好で居たという事に。今の俺の胸は女性特有の膨らみではなく筋肉が少し付いた胸板であり、下半身には男性のアレが付いている。身体は男性の物なのに着ている服は女性物だった。

 股下の部分が短い女性用の下着では収まりきらない自分のモノ。幸いとも言うべきなのか、パジャマのサイズは問題なく着れていた。だが、自覚してしまえば恥ずかしさしか感じない姿である。急いで着替えようと、ベッドから立ち上がり衣装ケースから服を取り出す。

「服のある場所は分かるのか」

 男の姿であっても、女の記憶は確かに覚えていた。その事に驚く。妄想では無く現実の記憶だという事の小さな証明だった。

 真っ赤な運動用に用意していたジャージに、毎月のものに備えて置いてあったトランクス。この格好ならば、まだ男としての威厳を保てるだろう。女子学生の自室から服を取り出して男である俺が履いているという事実から目を背ければ。

「身体は男なのに女の記憶もしっかり覚えている、そして今居るのは女としての記憶にある自分の部屋」

 着替えを終えて、あらためてベッドの上にあぐらになって座り直し腕を組んで悩む姿となり現状把握に務める。

 転生でも転移でもないだろうし、神様に出会ってもいない。二人分の記憶を持っている意味もわからないし、なぜ男性の身体で女性の部屋に居るのかも分からない。

「融合したとか?」

 野菜の名前などをもじった某有名漫画やアニメの登場キャラクターであった神様のように、男の俺と女の私が融合して一体の人間になったのだとしたら!?

「だとしたら、戻り方は分裂だろうか」

 ムムムと力を込めて2つの別れるイメージを思い浮かべてみたが、もちろん2つの人間になるわけは無かった。

 しばらく考えて出した結論、考えても無駄。

 という訳でこうなった原因も何も分からないが今考えるべきことは、コレからどうするべきか。そして俺はある問題に気がついていた。

 今いるこの世界は、女性として過ごしていたはずの世界。そこは人口の約90%が女性であるという、男の記憶する世界から見てみたら異常な社会に見えていた。(逆に女の記憶から男の居た世界を見てみたら異常だと感じてはいたが)

 そんな世界に男の身体で生活する危険性。男は数の少なさから貴重がられて、数がこれ以上減らないようにと過保護なまでに配慮される。だが悪い言い方をすれば、本人の意志に関係なく管理されて人生の面倒を見られる。そこに人間としての自由は少ない。

 一部を除けば、女性との接触を管理されて恋愛なんてもちろん出来ないし、望まない子作りも強要される。そして、外出は許可が下りないと出来ないし、決められた範囲の中で監禁されたような環境で一生を過ごす。

 俺が今居るらしい世界は、そんな状況であった。

 

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