閑話01 冒険者試験

 レオンが女戦士ルチアを医務室へと運んでいた頃、残っていたもう1人の受験者である外套の人物が試験を受けていた。
 
 全身を覆う外套を着込んで、顔も身体も全て晒さないように覆っている謎の人物。そこまでして隠したい何かが有るのかと、試験官のクリスは疑う。
 
 だがしかし、外套の人物は試験を受けるのに問題なしと判断されたから、いまココの試験場に立って試験を受けられている。
 
 実は、外套の人物が冒険者ギルドに試験を受けに来た時に色々と情報を集めてから、受験可能か不可か判断しようとギルドマスターであるクリストフは、試験が始める前に彼独自の情報網を使って、謎の人物について調べていた。
 
 試験を受けるために提出された書類には、名前の欄にニルと書かれていた。外套の人物の名前らしき物。その名が本当かどうか分からないけれど、一応クリストフは調べてみてその結果、特に不審だと思われるような情報は得られなかった。
 
 それから、ニルが今している格好について。外套を被った人物が、何処かで何かをしていたかという、事件や目撃情報も洗ってみたけれど何も出てこず。
 
 そして何よりも、冒険者ギルドには過去に犯罪を犯したかかどうか分かる秘密のシステムがあった。それによれば、ニルはシロ。つまりは過去に犯罪を犯したという記録は無い。
 
 それは、本当に犯罪を犯したことのないという証明なのか、一度も犯行が明るみに出てこなかったからなのか、その判断が出来ない。
 
 ともかく、クリストフは疑わしい見た目をしている外套の人物が、本当に危険な人物なのか安全な人物であるのか見極めるために、とりあえず受験させて、手合わせしてみようと考えた。そしてギルドマスターであるクリストフが自ら、今日の受験者を判断しに来たのだった。
 
「準備はいいか?」
「……」
 
 ギルドマスターであるクリストフと、外套の人物であるニルが向かい合って立つ。相変わらず、声は出さずに首を振って意思表示をする。今は、首を縦に振って良しという意志を示していた。
 
 クリスは、先程ルチアやレオンを見極める時に使ったのと同じ長剣を構える。そして、外套の人物ニルは、スッと立ったまま手だけを外套の外に出してくる。その手には、何も持っていない。
 
 外套から出された華奢な手を目したクリスは、ニルが女だと予想する。いや、もしかしたら子供の手かもしれないし、男の手を偽装して女の手かのように見せている可能性も。判断は早計か、とニルが男性か女性かはひとまず置く。
 
「いくぞっ」
 
 クリスは勢いを上げて長剣も振り上げて、ニルに斬りかかる。すると、スッと自然な動きでニルは横にずれて、容易にクリスの斬りかかった攻撃を避ける。その動作だけで、クリスは、ニルが只者でないことを悟る。
 
 だが、すかさずクリスは長剣を横薙ぎでニルに標的を合わせて、息もつかせぬ間で二撃目を繰り出す。
 
「っ!」
 
 外套の人物が、息を呑む声が聞こえたクリス。男とも女とも、どっちつかずな中性的という声。短い音では判断できない。
 
 だがしかし、ニルは攻撃は避けられなかったか。外套に当たるスレスレで攻撃を止めたクリス。
 
「うん、君も合格だけれど実地試験を受けるように。わかったか?」
「……」
 
 コクリと首を縦に振る。了解ということだろう。思ったよりも、素直に反応するニルの様子を見て、クリスは問題ない人物なんじゃないだろうかと判断する。姿は少し特殊だが、言うことは聞く。
 
 能力的には、女戦士ルチアよりも上。しかし、大型新人であったレオンには遠く及ばない。外套の人物ニルは、ギルドマスターであるクリスが何とか対処できる程度の人物らしい。
 
「(それすらも俺たちを欺く為に、能力を偽装したなんて事は勘弁してくれよ)」
 
 先程のニルの動きから、不自然さをクリスは感じ取らなかった。と言ってもクリスは、外套の人物が見抜けぬ程の偽装能力の持ち主なら、もう手の打ちようがない、と考えていた。
 
 そして、そこまで疑ってもしょうがないと疑うのを止めてニルを冒険者ギルドに歓迎することにしたのだった。
 
「(万が一の場合は、大型新人のレオンという人物が新しくギルドに加入してくれたことだし、彼に期待しよう)」
 
 クリスは、先程のチカラを見せつけられたレオンがすぐに頭角を現すだろうと、期待を含めた予想をしていた。
 
 そして、そんな人物が冒険者ギルドに増えるのだから、何かあったら頼れる人物がいるという安心感から気持ちにも余裕を持って、ニルも受け入れて大丈夫だろうと判断した。
 
 外套の人物ニルの試験が終わってしばらくの間待っていると、医務室から帰ってきたレオン。
 
「彼女を医務室に運んできました」
「そうか、ありがとう」
 
 レオンが戻ってきたことで、ようやく合格者に向けての話ができる。1人は医務室で安んているので、彼女には後で説明しに行かないといけないと考えながら、いまこの場に居る合格者と不合格者に向けて今後についての話をするクリフ。
 
 レオンには、無事に今日から冒険者ギルドに加入という事を話す。彼は、冒険者ギルドに在籍して問題ない能力を身に着けていることがしっかりと判明したので、彼1人だけ試験を特別合格という結果とした。
 
 そして、外套の人物ニルにも合格を言い渡し、次の実地試験に参加するように言うクリス。
 

 その日の冒険者試験の受験者は6名。そのうち、1人が特別合格。2人が合格で、次の実地試験を受ける事に。そして残りの3人は残念ながら不合格という結果を言い渡して、冒険者試験は終わった。