第08話 獣人奴隷

「どの娘も皆、綺麗ですね」

 愛想笑いを浮かべながら心のこもっていない、ありきたりな言葉でレオンが答えているのがヨハンには分かった。

 店主であるヨハン自らが厳選して集め、オススメとして出している奴隷たち。成人した女性から若く美しい娘達を目の前にしているのに、興味をそそられていない。手応えがないレオンの反応。

 だからヨハンは、その中でも特におすすめの娘を紹介してみることにした。

 ちなみにヨハンの経営しているこの奴隷商は、王国からも認可されている王族や貴族とも取引を行う御用達のお店であった。

 そして、そんな人達と取引をしている訳なので取り扱う奴隷達の質も当然高く、今応接室に揃えられているのは他の奴隷商では類を見ないぐらいに優れた容姿をしている女性たちだった。

「この娘なんて、どうでしょう? 店の中でも一番の美人です」
「うーん」

 だがしかし今ひとつ反応の悪いレオンに、一押しの奴隷を紹介したヨハンは少し焦る。この奴隷商に訪れて、この美人の奴隷を目の前にしてコレほどまでに反応しなかった人物は今までに居なかったから。

 誰もが目の色を変えてこの奴隷の娘を見て、あまりに高額に設定された値段を聞いて諦めるという流れがお決まりだった。

 コレはやはり無理におすすめを紹介するのではなく、早いところ彼の要望に答えた”生活の世話が出来る”という人物を紹介したほうが良い、と判断してヨハンはアッサリと営業を取り止めた。

 そして、美しい奴隷たちは皆すぐに部屋から出されていくと、代わりに応接室へ入ってくる家事という特技を身に付けた奴隷たち。

「お待たせしました。こちらに居る娘達は全員、生活に関する家事スキルを習得した役立つ娘達です。レオン様の要望に応えられる人材かと存じます」

 急ぎ部屋の中に連れて来られた少女達は、応接室の中で並べられてじっと立ったまま待機している。

 先程並べられていた容姿の優れた奴隷達と比べると、少しだけ見劣りする。だが彼女たちはヨハンの言う通り、今すぐにでも貴族の屋敷でメイドとして働いて問題ないくらいに教育された、家事スキルを習得している娘たちだった。

 どの娘も買い取るのに必要な金額は高く、それ相応の美しさを兼ね備えていた。そんな中でレオンが目を止めた、一人の少女が居た。

「彼女は?」
「あぁ、えーっと。獣人のルーですね。彼女は、この中でも一番に器用な娘です」

 ルーという名前の少女。彼女の頭頂に人間には付いていない、大きな耳が垂れて頭部を覆っていた。ひと目見て、獣人だということが分かる容姿。年はレオンと同じ16歳だった。しかし身長は低く、ルーは見上げるようにして、レオンは見下ろす形で見つめ合う。

 レオンは、何故か彼女を目にした時に妙に引き寄せられるようにな感覚があって気になっていた。

 師匠が言っていた事を思い出す。この世界には、運命というものが存在しいるという事を。

 そして今レオンの感じ取っている妙な感覚を説明するのならば、もしかしたらコレが師匠の言っていた運命という事なのかもしれない、とレオンは根拠もなく思っていた。

 師匠は、生きている間に時たまある原因も分からず感じるような、そんな感覚を大事にして、ある時には身を任せる事が必要だと教えてくれていた。

「それじゃあ、その娘を買おう」
「よろしいのですか?」

 即決したレオンに、本当に大丈夫なのかと心配になってヨハンが忠告する。獣人を奴隷にする場合には、少し注意が必要だったから。

「獣人は、この王国での扱いは比較的に良い方ですが他国では連れ歩くのにも非難されてしまいます」
「うん、忠告ありがとう。でも、知っている。それでも彼女で構わない」

「そうですか、教国では特に獣人狩り等で彼女たちは酷く扱われていて、他人の奴隷であっても傷つけるような輩が居ます。ご注意を」

 レオンが獣人である少女の奴隷を買うという意志が変わらないのを確認して、ヨハンは取引を進める。

「値段は、コチラです。支払いをお願いします」
「うん、これで払えるかな」

 ヨハンの出した奴隷を引き取るための金額は、中々に高額だった。王国金貨で支払おうと思えば、金貨の小さな丘が出来るぐらい。

 だがしかし、レオンは金貨ではなく宝石を懐から無造作に取り出して、応接室の中にあるテーブルの上に置いてヨハンに見せると、コレで支払えるかどうかを確認した。

「美しい宝石ですね。念の為、価値を鑑定しますので、もうしばらくお待ちいただけますか?」

 高額の取引を行う場合に金貨ではなく、価値の有る宝石で支払いを済ませるというのは、よくある光景だった。

 そして、ヨハンの目利きでレオンの取り出した宝石は十分に価値有りだと分かっていた。むしろ、払い過ぎを避けて等価値の交換にするため宝石の鑑定をしっかりする必要があった。その鑑定を行うのにまたしばらく時間が掛かりそうで、客であるレオンを待たせることを謝る店主ヨハン。

「大丈夫だ。その間に、他の奴隷も見せてもらっても良いかな」
「えぇ、もちろんです」

 獣人ルーという少女を奴隷として引き取る事は確定したが、他にも目を引くような誰かが居ないかと、奴隷を探してみる事にしたレオン。