第06話 試験結果

「だから、僕は貴族なんかじゃないって」
「フッ!」

 どうやら女戦士ルチアがレオンに敵対心を抱いている原因が、貴族という身分に有るらしい事が分かった。

 なのでレオンは、それは違うんだと弁明しようと声を掛けるが、彼女は聞く耳を持たず返答の代わりだというように、連続攻撃を繰り返した。

「話を聞いてくれって」

 いくらルチアがレイピアによる猛スピードでの攻撃を繰り返しても、危なげ無くひらりと避けてしまうレオン。そして攻撃を受けているレオンは、一切反撃する素振りを見せていない。

 それが彼女の怒りに火を注いで更に強い反発心を生み出した結果、より聞く耳を持たない状況になっている事に、レオンは残念ながら気が付かず戦闘は続いていく。

 こうしてレイピアの攻撃を何度も何度も避けられてしまうが、決してルチアの能力が低いという訳ではなく、レオンの見切りと回避能力が異常なだけだった。

 意地でも話を聞こうとしないルチアに、説得を諦めたレオンは彼女にまいったと言わせる事を目的にして、攻撃の回避に専念する事にした。彼女程度の力であれば、当たるつもりは無かったから。

 しばらく黙々と、ルチアが攻撃してレオンが避けるという時間が続いた。息の上がってきたルチアに対して、全く疲れた様子はないレオン。ココでも体力という差が顕著に現れ始めた。

「ハァハァ、っ……。なぜ、反撃してこない。馬鹿にしているのか!」
「だから、僕は貴族じゃないから。戦う理由も無いって」
「嘘を言うなっ!」

 思い込み激しくルチアは、レオンの事を貴族だと強く信じ込んでいた。だからレオン本人が何を言っても、もう耳を貸さない。

 何を言っても聞かず、思い込みの解けない頑固な彼女に対して若干イラついたレオンは、強硬手段に出ることにした。

「えっ!?」

 驚く声を上げたルチア。レオンの姿を見失って、辺りを探すように目線を動かしていた。対峙していた彼女の視線から一瞬にして逃れ、認識を超えるスピードで視界から消えた本気のレオンによる動き。

 その速さで、レオンがルチアの背後に移動する。

「ガッ」

 そして背後に回り込んだ者の気配に気がつく前にルチアは、レオンの一撃によって気絶してしまう。首の横、鎧と兜の隙間を狙って打ち抜かれた彼の手刀は意識外からの思いもよらない攻撃であり、ルチアはあっさりと意識を失う。

「よっと」

 レオンは彼女が気絶して地面に倒れ込もうとしている体の下に手を添えて、衝撃を与えないように腕に抱きかかえた。

「終わりました。彼女は気を失ったんで、これで戦闘不能という判定により僕の勝ちですね」
「あ、あぁ。うん、そうだな。試合は終わり。彼女が負けということで、次の実地試験を受けてもらう事になる」

 傍から戦いを見ていたクリスの目にも、レオンが瞬間移動したような感じにしか見えずに視界から消えて、気が付いた時にはルチアの背後に居たと思ったら彼女は気絶していた。信じられないような早業であった。

 パワーもスピードも体力もあり、そして戦いに対して慌てること無く冷静さを少しも失わずに攻撃を避け続ける精神力も有るという、今日から冒険者の新人となった彼の能力の高さに衝撃を受けていたクリス。

 時々やってくる、冒険者ギルドの試験を受けるとんでもない新人を何度か見たことの有る。だがしかし、その中でもレオンは飛び抜けているという感想をクリスは抱くのだった。

「彼女、どうしましょうか?」

 腕に抱いている気絶したルチアを指差して、どうするべきかと試験官のクリスに尋ねるレオン。

「建物の中に医務室があるから、そこへ連れて行ってくれるか?」
「了解しました」

 そして、クリスに指示された通りに医務室へと運び込むために横にして抱き上げる。鎧を身に着けている彼女の重さは中々のものだったが、レオンは物ともせずに持ち上げると、そのまま建物内を目指して歩き始める。


***


 気絶してしまったルチアを医務室へと運び、ギルドのスタッフに後を託すと、特に何もなく運動場に戻ってきたレオン。

 そして、どうやらレオンが戻ってくるまでに全身外套にしている謎の人物の試験も終わったようで、6人全員の試験は無事に終了していたようだった。そして試験が終わった彼らは、レオンが戻ってくるのを待ち構えていた。

「彼女を医務室に運んできました」
「そうか、ありがとう」

 無事にルチアを医務室へと運び終えた報告を終えたレオンは、立っている受験者達の並びに加わって話を聞く態勢となる。

「ということで今日の冒険者試験の結果だが、冒険者試験を合格したのは3人。その中でも特別合格を認めて、今日から冒険者となったのはレオン、君だけだ。後で受付に行って冒険者証を発行するので、受け取るように」
「わかりました」

「後の2名は今日の試験は合格判定を出したが、次の実地試験を受けるように。試験日は3日後に、外に行ってモンスターと戦ってもらうから準備をしておくように」
「……」

 コクリとうなずいて聞いている、という素振りを見せる外套の人物。最後まで、レオン達はその人物の声を聞くことはなかった。

 徹底的に正体を隠しているらしいが、あんな謎の人物でも冒険者ギルドに所属できるのだろうかと疑問に思うレオンだったが、それ以上は特に突っ込まずにクリスの話を聞くのに集中した。

「今回、不合格となった3人。まだ冒険者を目指すつもりがあるならば、鍛え直してこい。手っ取り早く合格したいと思うなら、ギルドで実施している戦闘訓練に加わって鍛えればいいだろう。冒険者じゃなくとも、誰でも訓練を受けるのは歓迎するから気軽に参加してくれ」

「おい、どうする」「行ってみようぜ」「鍛えてからもう一度、試験を受けよう」

 3人組は、クリスからのアドバイスを聞いてどうしようか話し合っていた。冒険者ギルドでは、冒険者じゃない者たちにも手厚くサポートしてくれるサービスを提供しているという、優良な組織だった。

「では、本日は解散」

 クリスの言葉で試験が終了する。そしてレオンは、冒険者になくための試験を受けて無事に合格し、その日から冒険者となった。