第05話 追加試験

「とういう判断で、彼は試験を合格したんですか?」

 女戦士のルチアが、試験官を務めているクリスに詰め寄って問いかける。たった一度、剣を交えただけでレオンを合格にした基準は一体なんなのか、説明を要求した。

「彼は冒険者としてやっていける、十分な実力者だと私は判断した。だから、合格にしたんだ」
「あんな戦いに向かない服装に、体つきもそんなに強そうには見えない。年齢だって、若そうに見えるから経験が豊富って訳でもない、と思う。なら私と、一体何が違うって言うんですか?」

 ルチアの言う通り、レオンが着ている服装は戦闘には向かない商人や農民が普段から着るような質素な服装。この場には、他にそんな格好をしている人間は居ない。誰もが防御を高めるために鎧を着たりしている。

 そしてレオンは、一見すると筋肉が有るようには見えないし、戦いには向いていないと思うようなスリムな体つき。

 年齢だって自分と同じぐらいの、16歳辺りだろうとルチアは見た目からレオンの年に見当を付けた。そして、それぐらいの年齢ならば戦いの経験が豊富という訳でもない、と予想する。

 だから、何故レオンが合格したのかを理解できなかった。彼の力を感じとることは出来なかった。

 ルチアは言葉にしてハッキリと示してはいないけれど、自分は次に実地試験を受けるように言われたのに、レオンは一発で合格。

 そして、レオンだけ今日から冒険者を名乗れるという結果に対して不満がある、と言っているようなものだった。

「彼の合格は、決定だ。変更は無い」
「でしたら、私をもう一度試験して下さい。彼に出来たのなら、私にだって出来ます!」

「二度目の試験は無い。君は、今回の試験を無事に合格して次の実地試験を受けることになった。それが不合格となった場合には、もう一度最初から受けることになる。先ずは、実地試験を受けなさい」
「納得出来ません!」

 普段はこんなにも自分勝手な主張をするルチアでは無かったが、レオンという人物に対して勝手に強い対抗心を燃やしていた彼女は、負けを認める事ができずに無理を言って試験のやり直しを要求していた。

 もちろん、そんな事を言われても再試験なんて出来ないという判断は変わらないクリス。彼女の対処に困ってしまう。

 いくら言っても納得しそうにないルチアの強情な態度を見て、仕方なくクリスはギルドマスターの権限によって例外を認めることにした。

「わかった、わかった! なら、彼に戦闘で勝てたのなら合格を認めよう」
「本当ですか!」

 レオンと対決して勝て。クリスが思い悩んだ末に出した提案に、顔を明るくして喜ぶルチア。そして、レオンにはキッと鋭い目線を向けて勝つ気を満々にさせる。

「勝手に決めてしまって申し訳ないが、彼女の相手を受けてくれるか?」

 様子を見守っていたレオンに、そう問いかけるクリス。様子を見ていたレオンは、活躍の場に出来そうなイベントだったので、嬉しく思いながら飛びついた。それに、ギルド職員のお願い事を聞いておけば心証も良くなるだろうという計算があって、快く引き受けることにした。

「もちろん、良いですよ」
「そうか、ありがたい。万が一、君が負けたりしても今回の合格は取り消さないから好きにやってくれ」
「はい、わかりました」

 そう言ってレオンに任せたクリスだったが、少し手合わせして自分でも敵わない実力者だとレオンを測っていた。その彼が、ルチアという女剣士に負ける事は万が一にも無いだろうと予想している。

 最終的には、彼女の合格という結果は訪れはしないだろうという予想をしたからこそレオンに託してる。ルチアが今日のうちに試験を合格にして冒険者になるという未来は無く、結局は次の実地試験を受ける事になると、クリスは考えていた。

「じゃあ、よろしくおねがいします」
「ふん」

 位置を移動して、レオンとルチアが向かい合う。ニッコリと笑って言うレオンに、不機嫌な様子を少しも変えず早く始めてくれと黙ったままのルチア。

 そして、試験官をしていたクリスも少し下がって2人の様子を観察する。他の受験者である3人組の男や、外套の人物も黙って状況を見守っていた。

 ルチアはレオンに勝てはしないだろうけれど、どの程度の能力が有るのか、両者の力を改めて観察できる良い機会だと考えながら、試験官のクリスは戦いを見つめていた。

「両者、準備はいいか? どちらかが参ったと言って負けを認めるか、もしくは戦闘が完全に不能になったら負け。そして、ルチアが負けたら合格は無し。実地試験を受けるように」
「わかりました」
「はい」

 試験官から審判に移って、戦いを仕切り始めるクリス。そして、緊張した面持ちで勝つ気で挑むルチア。有名になるためには、どんな決着を付けるべきか考えているレオン。

「それじゃあ始めッ!」

 クリスの号令によって戦いが始まり、ルチアがレイピアを前に差し出してレオンに突っ込んでいく。先程の試験官との戦いで見せたのと同じく、姿勢を低くしてスピーディーに見せる動きは本気だった。

「フッ!」

 猛スピードでレオンに近づき腕を真っ直ぐ伸ばして、必殺の攻撃。しかし、レオンはひらりと体を横にズラして彼女の攻撃を巧みに避ける。

 試験を受けた運動場は広く開けた場所だったので、左右を自由に動けるレオンは比較的簡単に、ルチアのレイピアによる突き攻撃は避けられた。これが狭い場所ならば、避け方も難儀しただろうが。

 だがしかし避けられる事を予想していたルチアは、レイピアの軽さを最大限に生かした連続攻撃をレオンに浴びせかける。

 ルチア素早いの連続攻撃によってシュシュシュ、とレイピアが空気を斬り裂く音が聞こえる。だが、残念ながら今の所レオンには一撃も当たっていない。

「なんて、素早い反応ッ」

 今出せる全力でレイピアを振っているのに、紙一重で、でも確実に避けてしまうレオンの動きに付いて行けず、歯噛みするルチア。

「なぜ、そんなに僕を敵視するんだ?」
「なんですって?」

 試験の始まる前からずっと気になっていた、敵対心についてを尋ねるレオン。何故、自分を敵視するのかという理由が、未だに分からなかった。しかし、問いかけるとそれに関する答えが返ってきた。

「貴族なんかが冒険者になろうだなんて、気に食わない!」
「へ? 貴族? いや、僕は貴族なんかじゃないけれど……?」

 なんだか彼女から、とんでもない勘違いをされていると気が付いたレオン。何故か、レオンが貴族の子息だと思い込んでいるらしい。