第19話 事情説明

 魔物に追いかけられていた少女サナは、少し前に彼女の身に起こったという出来事から話し始めた。

「実は、私にもパーティーを組んで一緒に旅をする仲間がいました」

 仲間がいた、という過去形で語るサナ。

 レオンが先程、仲間はどうしたのかと聞いた時に、彼女は仲間は居ない、と答えていた。その事を思い出して、疑問に思いつつも途中で口を挟まずにサナの話を黙って聞き続けた。これから、彼女が語る話の中で何か理由がある事が分かるのだとレオンは考えて。

 そして、サナの口から語られた話から驚愕の事実を知ることになった。

「私はそのパーティーで、回復役としてサポートを務めていました。けれど突然、回復役は要らないって言われてパーティーから追い出されしてまったんです。それで、森のなかに置き去りにされて」
「え? ちょ、ちょっと待って。森のなかに置き去り?」

 レオンが彼女の話を聞いて、驚きの声を上げた。サナが魔物に追われて逃げてくる前には、一緒にパーティーを組んでいた仲間が居た。けれども、そのパーティーから追放という形で突然、仲間から用無しと告げられた挙げ句に森のなかに放り出されたという。しかも、一人きりにされて。

「はい、パーティーの追放を告げられてビックリしている間に、彼らは姿を消していました。そして私は森のなか、1人になっていました」

 魔物が生息しているような場所で、わざわざ放置して行くなんて。それは冒険者のパーティーとしてはありえない、人としてもやってはいけないような所業である。かつては仲間だったはずなのに。

「それは、なんて酷い」

 レオンの横で話を聞いていたルーも、サナの元パーティーメンバーが行った置き去りという行為の酷さにそう呟いていた。しかも、彼女はパーティー回復役というサポートメンバーを務めていたはず、ということは1人で戦い生き残れるかどうか分からない。

 ケイも顔をしかめて、不愉快そうな感情を表情に浮かべていた。サラの話を聞いていた3人ともが、サラが受けたという仕打ちに対して信じられないという感情を抱いていた。

「でもそれは、仕方がないんです。回復役として役目が少なくなっていた事は本当ですから」

 必要が無くなったと告げられパーティーから追放されたサナは、自分の実力不足によってパーティーの足を引っ張っていたから追い出されたのだと納得して、仕方がなかったとネガティブに考えていた。

「いや、それでも酷すぎるでしょう」
「そもそも、森の中で1人にして放置するなんて、別の目的があったとしか思えない」

 ケイは、足を引っ張っていたからと言って突然パーティーから外すなんて信じられないと訴える。そしてレオンは、森のなかでサナを放置したのには目的があっての事だろうと考えていた。単純に考えてサナを始末するために、レオンには他の理由には考えが至らなかった。

 けれども、彼女が逃げ切った時の場合にどうするのか、事実が発覚した時にどう言い訳するのか。話を聞いただけで、サナの元パーティーメンバーの悪事は確定的であると思うのだけれど、一体どうするのかレオンには理解できなかった。

 サナは続けて、パーティーの追放された後の話についても語ってくれた。そしてその話が、アサシンウルフから逃げ出していた理由についてだった。

「それで、私は街に戻ろうと思って森から抜けようと歩いていたところ、アサシンウルフと出会ってしまって」

 魔物が生息している森の中を1人で歩くなんていう経験を、今までにしたことも無かった彼女。

 しかもそんな時に魔物と運悪くも遭遇してしまったサナは、恐怖でどうにかなりそうだった。その時の感情を今も思い出して、彼女の体は震えていた。一人になってしまったという不安と、対抗手段を持たないまま魔物と遭遇してしまった死の恐怖によって。

「最初の攻撃は何とか先に気が付いて、間一髪の所で避けることができました。それから必死で逃げ出して、けれど、いくら必死に走って逃げてもどんどんと後ろをついてきて振り切れませんでした」

 レオンはサナの服装が、ところどころ破れて泥や植物の葉がついて汚れてボロボロになっている事に気が付いていた。彼女の今の姿は必死になって森の中を逃げ回れっていた、という証のようだった。

「アサシンウルフを振り切ることが出来ず、時間が経つにつれてドンドンと集まってきて、数は5匹に増えていました」

 その5匹というのはサナを助けに入って倒した、あのアサシンウルフだったんだと気が付くレオン。

 潜んでいるアサシンウルフの気配に気づいて、攻撃をなんとか避けて逃げてきたというサラの言葉に、よく今まで生き残ってこれたとレオンは驚くばかりだった。

「応戦しようと思っても、元々居たパーティーでは回復役を務めていて、なるべくパーティーの皆の役に立てるように、回復役として集中していたから攻撃手段も用意していなかったんです。それで、アサシンウルフに反撃できず逃げるしか無くって」

 必死に森の中を後ろから追いかけてくる魔物の気配を背中に感じつつ、逃げ回って走ったサラは、何とか森から抜けることが出来たという。

「そこまで逃げ出せたら、もしかしたら後ろを追ってくるアサシンウルフも諦めて森の中に戻っていくんじゃないか、って思って必死でした」

 サナが抱いていた淡い希望は残念ながら叶わず、森を抜けても当然のように追いかけてくるアサシンウルフ。何処まで逃げても付いてくるアサシンウルフの姿を見て、彼女は絶望した。

 森の中を走り抜けた時には体力も尽きかけて、逃げ回るのにも限界を感じていたサナ。そのずっと先には街が有るけれど、とてもソコまで走って逃げて到着するまで体力が持つとは思えなかった。

 サナが逃げることを諦めかけていた、そんな時に現れたのがレオンという訳だった。本当にギリギリのタイミングでレオンは彼女の助けに入ることができた、という事だった。

「本当に、本当に助かりました。レオンさん」
「なるほど、そんな事情があったのか。助けられてよかったよ、サナ」

 レオンと出会った時までの経緯について語り終えたサナは、助けてくれたレオンに向かってもう一度、心の底から湧き出たような感謝の言葉を口にして、お礼を伝える。

 そんなサナの話を聞いて、レオンは思い出していた事があった。サナが今置かれているような状況と、とても似通った話を師匠から聞いていた事を。

 レオンが師匠と一緒に過ごしていた頃、色々なお話を聞かせてもらっていた記憶の中の1つ。

 レオンが、今のサナの置かれている状況と似ていると思ったお話というのは、次のような物だった。

 ある日パーティーメンバーから突然、追放を言い渡された人物。それから1人になって冒険を始める、というお話だった。まさに、サナが今置かれている状況と似たような話である。

 前触れもなく追放を言い渡されたサナ、そして師匠から聞いたお話でも同じようにパーティーメンバーからは理由も聞かされず突然、追放されるという場面があった。

 その後の師匠の話では、追放された人物の方が後々の出来事が上手くいくようになって、追放した側の元パーティーメンバーの方は落ちぶれていくという結末だった。師匠はよく”ざまぁ展開物”と言っていたお話。

 ということは追放されたサナこそが、その後に幸せが訪れる人物であり追放した方の理不尽な行いをしたパーティーメンバーが、後々に報いを受ける、というような展開になるのではないかと、師匠から聞いていた話とサナの今の状況を照らし合わせてみて考えたレオンは、そう予想していた。