第18話 昼食を一緒に

 レオンが魔物から追われていた少女を助けた後、しばらく彼女が落ち着きを取り戻すのを待っている間の時間を利用して、倒したアサシンウルフ5匹の死体を回収していった。

 実はアサシンウルフというのは中々にランクの高い、一体狩ることが出来れば冒険者として一人前という評価を得られる程の魔物であった。ましてや、試験を合格したばかりの新人が倒したと言えば、かなり驚かれるぐらいに評価される程。

 しかもレオンは、群れとして襲ってきていた5匹を1人で一匹も逃すことなく倒していたので新人冒険者としての活躍で言えば、破格の評価を得られるような結果だった。

 ただ、アサシンウルフの特徴である姿を隠してから攻撃するという襲撃を体験した訳ではなく、助けに入って姿が丸見えだったアサシンウルフを倒したという所は、評価の分かれる点ではあるが。

 ともかく、レオンが倒したアサシンウルフ5匹の死体をせっせとアイテムボックスにしまっていると、回収作業を終えた頃になって後から追いかけてやって来たルーとケイの奴隷2人も、レオン達の下に到着して合流した。

「逃げていた女性は、無事でしたか?」
「見たところ、ケガはしてないっぽいね」

 先に飛んでいったレオンに追いついたルーは、魔物に追われていた少女を心配している様子を見せた。そしてケイは、地面に座り込んでいるサナの姿を見て大丈夫そうだと冷静に判断した。

 サナが今着ている僧侶のような服装は、必死になって逃げている内にボロボロになったのか、破れたり汚れたりしている。だが、服装がボロボロになっているだけで大きな傷を負っているようには見えなかったので、ひとまずは安心という感想を抱くケイとルー。

 レオンに続いて後から現れた2人の人物に驚いて、無意識の内に身を守ろうとレオンを盾にするようにして、彼の背中へと隠れてしまったサナ。

 彼女が森からずっと追いかけ噛み付こうと襲いかかってくるアサシンウルフの群れから、必死ギ逃げてそれでも逃げ切れずに死を覚悟するまでになった時、突然現れて危機から救ってくれたレオン。

 そうしてから、助けてくれた後も特に何も言わずに心が落ち着くのまで待ってくれた彼の優しさに、サナは安心感を得ていた。

 そして、現れた2人の人間に思わず危機を感じて咄嗟に体が動き、レオンの背中に隠れてしまっていた。僅かの間にレオンという見知らぬ人を助けてくれた人として信頼するようになって、思わず条件反射的に頼りにしてしまうほどだった。

「ご、ごめんなさい。思わず隠れてしまって……、レオンさんの仲間、ですよね」

 親しげなレオン達3人の雰囲気に気が付いて、サナは彼らが仲間だとすぐに理解した。しかも、優しく心配する声を掛けくれたルーとケイ2人の厚意に対して、自分の振る舞いの失礼さに気が付くとパッとレオンの背中から離れて、ルーとケイの2人に謝る。

「さっきまで魔物に追われてたんでしょ、気にしないで」
「私も気にしていません。大丈夫です」

 2人は心配していたのに、危ないと認識されて姿を隠された。そして疑いの気持ちを向けられたけれども、ついさっきまで魔物に追われて助かったとはいえ今も続けて警戒しているのは当然だと、サナの行為に理解を示した。

 そして大丈夫だ、気にしていないと警戒心を抱いて取ったサナの行動についても許したルーとケイの2人。

「大丈夫、2人は気にしてないそうだ。それより、君は1人なのか? 君の仲間は?」
「えっと、……今は、その、仲間は居ません」

 仲間と合流したレオンは、サナには仲間が居ないかどうかを問いかけた。1人で逃げてきたから、もしかしたら既にやられてしまったのか、それとも逃げている途中で離れてしまったのか。どちらにしても彼女には仲間が居るはずだと、確信してレオンは聞いている。

 だがしかしレオンの考えとは違って、彼女はか細い声で返事をして”今は”居ないと答えた。

 そんなサナの答えを聞いて、レオンは何か事情が有るのだろうと察して、もう少し彼女から話を聞いてみることを決めていた。

「ルー、ケイ。さっき休んだばかりだけど、もう一度ここで休憩していこう。彼女に事情を聞きたい」
「オッケー、わかった」
「大丈夫です」

 レオンはルーとケイの2人に顔を近づけてから、サナには聞こえない程度の小声で2人に内緒話として、そう伝えた。彼女の件にちょっと首を突っ込んでみようと考えている、と。

 すると、お気楽な返事をするケイと対称的にしっかりとした返事のルー。2人ともレオンの行動に異議なしという答えを出してくれたので、まずレオンはその場で休めるぐらいの簡易な拠点を作り始めた。

 拠点を作る為の道具を、レオンは自身の能力であるアイテムボックスから次々に取り出していく。

 焚き火に、テント。そして魔物が近寄ってくるのを避けてくれるアイテム、更には魔物が拠点の近くに寄って来たら知らせてくれるという、魔法的な警戒アイテムも拠点の四方に設置する。

 全ての準備が整って拠点として完成すれば、そのまま1日就寝することも出来るぐらいの、安全でありながら快適でもある場所をレオンは数分で作り上げてしまった。

「昼食、食べるかい? 遠慮はいらないよ」
「でも」

 次にレオンは昼食にするため、料理を始める。そして、その場に居るサナにも一緒になって食べないかと誘う声を掛ける。

 魔物に追われていた所を助けて貰って、更に食べ物まで恵んでもらうなんて迷惑になりすぎると思ったサナは、レオンからの昼食の誘いを断ろうとした。

 けれども、レオンは彼女からの返事を聞く前にはもう料理の準備をし始めていた。結果、断るタイミングを逸してしまったサナ。

「お手伝いします」
「あぁ、ありがとうルー」

 ルーも手伝いに入って、肉を焼き、スープを作る。新鮮な野菜もアイテムボックスから取り出してきて、手際よく料理を盛り付ける。次々と、すごい速さで出来上がっていく食事。

 拠点設営に、食事の用意と手際よく行っていったレオン。その姿を目にして、自分よりも若く見えるのに経験豊富で旅にも慣れているのだろうと、逞しさを感じていたサナ。

 彼女がレオンを見て年下と思った、その考えは正しい。サナは19歳、そしてレオンは16歳だったから。10代での3歳違うという年の差は、本人たちにとって大きな違いである。

 そして、漂ってきた料理のニオイに「美味しそう」だと、無意識に呟いているのには気付かないサナ。しかしレオンは、彼女の小さな呟きを耳で捉えて昼食の準備をしたのは正解だったと確信したいた。

「あっ」

 サナは続いて、漂ってくる料理のニオイにつられて小さくお腹を鳴らしていた。どう考えても、腹ペコだと分かる状態だった。

「お腹も減っているみたいだからほら、遠慮せずに食べて。ルーとケイの分はコッチ。そして僕のはコレ」

 拠点用として簡易的に作ったテーブルの上に、これまたレオンとルーが準備して作った料理を並べていく。街の外、魔物が生息しているすぐ側だという危険を感じる場所で用意された食事だとは思えない豪華さだった。

 腹が減っているだろうとサナの目の前にも、どうぞ食べてくれという風に料理を準備する。そしてルーとケイ、2人の目の前にも同じ様に料理を置いていく。

 そしてレオンの目の前には、ルー達の物と比べて5倍ぐらいは量がありそうな、大量に料理が載った皿を置いていた。そしてレオンは、いただきます、と手を合わせてから食べ始める。

 サナからの信頼を得る事を目的として、まずは食事を一緒にして空腹を満たそうという考えから彼女を昼食に誘ったレオン。そして、もう一つの大きな理由として単純にレオンもお腹が減っていたから。

 いいタイミングだったからと、自分の空腹を満たすために昼食の時間にしたかったという理由もあった。

 レオンから迎えられて、こんなに良くしてもらって大丈夫だろうかと、不安になりつつも恐る恐るという感じで食事を始めるサナ。

 一口食べると、その料理の旨さが分かって手が止まらなくなった。サナは久しぶりに美味しいと思えるような食事にありついて、一心不乱になって食べ始めていた。そして、あっという間に食べ終わってしまう。

 レオンは黙々と料理を口に運び5倍の量を平らげてしまう。そして、ルーとケイも用意された食事を美味しく食べて、昼食はすぐに終わった。

「お食事、ありがとうございました。美味しかったです」
「それは良かった」

 食べてもらおうと準備をしたので、サナの良い食べっぷりを見せられたら作った甲斐があったと、報われた気持ちになるレオン。

「それじゃあ、そろそろ何でアサシンウルフに追われていたか教えてもらっても良いかな」
「はい、もちろんです」

 食事が終わって、皆が落ち着いた時間。レオンがサナに向かって詳しい事情を説明してくれとお願いすると、彼女は「もちろん」と言って事情について隠すこと無く話してくれた。