第17話 追われていた少女

 レオンは、魔物に追われている少女に凄い速さで走り寄りながら、彼女だけではなく別の方向にもキョロキョロと視線を向けて、もう一度辺りを観察していた。

 彼女は1人きりなのか、他に誰か仲間は居ないだろうか。彼女はなぜ魔物に追われて逃げているのか、魔物に奇襲されて逃げ出してきたのか、それとも先に手を出して戦っている最中に敵わないと察して逃げてきたのか。

 少女の姿を見れば、僧侶のような聖職者が着ている服なのだろうとレオンは気が付いた。ただ宗教を信仰しておらず、興味も持っていなかったレオンには彼女の属しているであろう宗教についての知識は無かった。

 そして、そんな彼女の表情を伺うと必死に前を向いて逃げることに集中して戦う気力は無いように見えるし、手にも武器を持っているように見えない。つまりは、追手への対抗手段が無いということ。

 彼女の背中を追っている魔物は、レオンが今朝の冒険者ギルドで受付嬢に注意を受けていた記憶の新しいアサシンウルフだった。

 それが5匹も群れになって、少女を狙って後ろを追いかけている。よく彼女が今も生きて、逃げ出せてこれたものだとレオンは感心する。

 それと同時に今も噛み付こうとするアサシンウルフの攻撃を避けている所を見れば、追いかけられている少女にもある程度、戦闘の心得が有るんだと察せられた。もしかしたら、彼女も冒険者なのかもしれないとレオンは考える。

 それから辺りの地形にも、くまなく視線を向けていた。丘から走り下りてきたレオンの向かう先には、森が生い茂っている。

 彼女とアサシンウルフの群れは、あそこから逃げ出してきたのをレオンは目撃している。レオンが聞いた話によれば、アサシンウルフはもっと森の奥深くに生息しているはずで、森の入口付近では遭遇するような魔物ではないはず。一体、彼女はどこから、どれ位の長さを逃げ出してきたのだろうか想像がつかない。

 レオンは、そんな色々な事を観察して思考しながら走り寄って、もう彼女に声が届くだろうと思える距離まで近づいた所で声を上げた。

「助けは必要か?」

 声を掛けたのは、念の為。あきらかに少女が魔物に追われて逃げているように見えても、しっかりと事前確認をしてから助けに入らないと、もしかしたら面倒事になるかも知れないと思って、十分に配慮して行動に移す。

 もしも、少女がアサシンウルフの攻撃によって殺されそうな一歩手前の状況だったならば、レオンは問答無用で助けに入るつもりでいたが、その必要が無いほどに彼女は逃げ切れている。と言っても、逃げられているだけで、反撃には出れないようだったが。

 そして辺りに響き渡るような大声を聞いて、少女がビクリと反応して視線を声を掛けたレオンへと注目していた。

「ッ! はいッ! た、助けて下さい!」
「分かった」

 まだ彼女には、逃げている最中でも返事をする程度には余裕が有ったようだった。そして、少女の返事を聞いてから助けに入るレオン。

 ということで、少女からも助けに入っても大丈夫という許可が下りたので、レオンが一気に間に入って片を付ける。

 まずは、名も知らぬ少女のそばに一足飛びで近づき、その飛び近づいた勢いのまま一番近くに居たアサシンウルフを片付ける。

 いきなり割り入ってきたレオンを先に片付けてやるというように、アサシンウルフは目標を少女からチェンジする。そして、レオンに向かって大きく口を開いて噛み付こうと飛び込んでくる。

 アサシンウルフの口からチラリと見える牙は鋭く、噛みつかれてしまえば大怪我を負ってしまう事は明らかだった。だがしかし、迫力ある魔物の攻撃にレオンは少しも臆さず、逆に開いた口に合わせて長剣を斬り入れる。

 噛み付こうとしたら逆に顎から上の頭が斬り飛ばされて、断末魔を上げる間もなく一瞬で絶命したアサシンウルフは、レオンに噛み付こうと突撃した勢いで地面に激突した。

 レオンに頭を切り飛ばされた後のアサシンウルフは、当然まったく動かなくなった。

「ひっ!?」

 助けてを求めたら、いきなり近くに寄ってきたレオンの思わぬスピードに驚いて、姿勢を崩し転んでしまった少女。さらには、自分のそば近くに斬り飛ばされ飛んできたアサシンウルフの頭に、びっくりして小さく悲鳴を上げた。

「すまない、驚かせた。すぐにケリをつけるから、待っていてくれ」

 転んだ少女にも気を配って、声をかけるレオン。余裕綽々という様子だった。その間に、走り近づいてきていた2匹のアサシンウルフが両サイドからレオンを挟み込むように飛びかかってきていた。

 一匹はレオンの右腕手首に目掛けて、もう一匹はレオンの左足首へと飛びつく。上下二箇所に意識を分散させるのを狙った、アサシンウルフの連携プレー。

 だがしかし、レオンはどちらの攻撃もお見通しで長剣を一回だけ振るって、その場でクルリと一回転してみれば、それだけで2匹のアサシンウルフはどちらも胴体から真っ二つになって絶命していた。

 姿を現して、ものの数秒でアサシンウルフの死体が3つ。

 レオンの圧倒的な戦闘力を見ていた少し離れた場所で様子を伺っていた残り二匹は、敵わないと悟ったのかクルリと反転して逃げ出そうとしている。

 そんな2匹の背中に向かって、アイテムボックスから取り出した投げナイフを2本、逃しはしないとレオンが左右の手から同時に投擲する。

 投げられたナイフはものすごい速さで、背中を見せて走り去ろうとしたアサシンウルフの心臓に見事命中。音もなく地面に2匹が倒れると、もうそれで敵は全滅して危機が去った。

 少女を標的にして追いかけていた筈のアサシンウルフ5匹が、今は死体となって地面に転がっていた。

 レオンは全てを片付けるのに10秒も経たない内に、アサシンウルフ5匹を仕留めてしまった。あまりの早業で、助けてもらった少女は地面に尻餅をつきながら目を白黒させて、視線をウロウロと助けてもらったレオンや絶命したアサシンウルフ5匹に向けていた。

「大丈夫か?」
「あ、えっ? はい。助けて頂いて、その、あ、ありがとうございます」

 いきなり現れた美形の戦士レオンに助けられたけれど、その圧倒的な力に呆然として返事もヘロヘロと力が入っていない感じ。だけど、呼びかけられた言葉になんとか答える少女。

「で、でもあんなに早くアサシンウルフを仕留めてしまうなんて……、す、凄いです」
「うん、ありがとう。でも、居場所がわかってるアサシンウルフだったからね」

 名前の通り暗殺者のように姿を潜めて、一撃で獲物を仕留めようとするのが特徴のアサシンウルフ。

 姿を隠す能力が優れていて、スピードも機敏ではあるけれど、それ以外の能力はそんなに高いわけじゃない。だから、居場所が目に見えて分かってさえいれば倒すのには苦労しない魔物ではある。

 むしろ、最初の攻撃から生き残って5匹のアサシンウルフに追いかけられて逃げ切ったという、彼女の方が凄いんじゃないかと思ったレオン。

「僕の名はレオン。冒険者をしている」
「あ、はい。初めまして。私も冒険者をしている、サナと申します。本当に助けていただいて、ありがとうございました」

 魔物から追われていたサナは無事に助かったと安堵して、助けてくれたレオンに自己紹介の握手をしながら、もう一度お礼を言った。