第12話 ケイと夜話

 ケイはレオンが眠りについていたベッドに息を潜めて侵入してくると、彼に目を覚ますように声を掛ける。そしてレオンが起きた所で、投げかけられた言葉。

 どうだと言わんばかりに、自信満々に言い切ってみせたレオンが転生者であるというケイの考え。だがしかし、そんな彼女の考えは間違えであった。

 自分は転生者ではない、と訂正するのに申し訳無さを感じながらも言わない訳にはいかず、レオンはケイの考えを否定した。

「いいや、僕は転生者じゃないよ」
「ウソッ!?」

 はいそうです、と肯定の言葉が返ってくるのを予想していたケイだったが、予想とは違う反対の答え。否定するレオンの言葉に、信じられないという気持ちで声を上げていた。

「シーッ。ルーが起きちゃうよ」
「んっ……、ごめんなさい」

 先程ケイはレオンに向けて大きな声を出さないよう口を閉じて、というジェスチャーをしたばかり。その彼女が驚きで声を張り上げていたのでレオンが注意すると、横のベッドで寝ているルーの存在に気が付いて、ケイは謝った。

「それで、本当に転生者じゃないの? 元日本人じゃないの? もしかして転移系?」
「どっちも違うよ」

 今度は、声のボリュームをいっぱいに落として、小声で会話をするケイとレオンの2人。お互いの声が聞こえるようにと、ひとつのベッドの上で布団の中、体を寄せ合うようにしている。

 ケイは事実の究明に夢中になって今の体勢には気を向けては居なかったが、レオンはまるで男女の営みを行っているかのようだと、今のポーズを少し気にしていた。

 ただ相手が性を感じない10歳という子供の体だったので、レオンは特に何も言わないで会話を続ける。

「うそ。じゃあ何でこの世界に無い料理の名前を知ってたの? それに、さっきチート能力で荷物を異空間に放り込んでたでしょ。あれは、神様に転生させられて特典で貰った能力なんじゃないの?」

 レオンを転生者だと思い込んだ理由を並べて、それぞれ指摘していくケイ。けれど、レオンにはどちらの事についても転生者ではない、という事が説明できる。

「カレー、ラーメン、ハンバーグって異世界にある料理の名前を知っていたのは、師匠に教えて貰ったからだよ。チート能力って言うあのアイテムボックスも師匠に譲り受けた能力なんだ」
「はぁ……? 師匠?」

 レオンの説明に出てきた師匠という人物について。一体何者なのだろうかと、ケイは不審に思う。そんな彼女の疑問に答えるように、レオンが説明を加えた。

「僕の師匠は転生者だった。だから、ケイの言う異世界の料理を知っていたんだろう。それから、転生者だったから能力を譲るって事が出来たんだと思う」
「ということは、本当に貴方自身は転生者じゃないって言うの?」

 レオンの言葉を聞いて、まだ半信半疑のケイ。再度、レオンが転生者ではないのかとしつこく確認する。

「僕は君たちの言うところの、現地民って奴だよ」

 ようやく合点がいった、という風にケイは納得した。そして、レオンが転生者だと思い込み勢いに任せて突っ込んでいった自分を恥じた。

 もしかしたら、転生者という仲間と出会えたかもしれない、という出来事に浮かれていたのかも、とケイは自分の感情を分析する。

「ところで、そういう君は転生者なのか?」
「う! えっと、まぁ、その……。転生者です」

 一瞬、転生者である事をレオンに言うべきかどうか、黙っていたほうが良いんじゃないかと考えて迷ったケイだったが、今までの話で彼には明らかだろうからと白状した。

「やっぱり! 師匠以外で、転生者と出会えたのは初めて!」

 2人目の転生者と出会えたことが判明して、レオンのテンションが一気にあがる。自然と声が大きくなっていた。

「シーッ! ルーが起きちゃうでしょ」
「ご、ごめん」

 今度はケイが、大声を出すレオンを注意した。慌てて小声にして謝るレオン。注意する方と注意される方、先程と比べてポジションが逆になった。

「でも良かった。奴隷商でキミを見たとき、師匠に雰囲気が似てるなって思って。元日本人を見つけるのには、あの言葉を呟いて聞かせてみれば分かるからって教えてもらっていたけど、試してみて良かったよ」
「あぁ、うん。あんなのに引っ掛けられたのね」

 レオンが呟いて聞かせた、日本三大国民食と言われている料理名。まさか、そんな言葉に反応してしまったなんて、と恥ずかしがるケイ。

 あの時は、思わぬ所で元の世界にある料理名を聞いた懐かしさで、思い出してイメージしただけでお腹が鳴ってしまう程だったから。恥ずかしくもある。とケイは布団の中で顔を赤くした。

「でも、そっか……。この世界には無いのか。師匠から話に聞いて、食べてみたいって思っていたけれど無理なのか」

 料理名に反応していたケイを見て、もしかしたらと期待していたレオン。だがしかし、彼女の口からはハッキリと、この世界に無い料理、だと言い切られてしまい落ち込む。

「いや、私が知らないだけだし。もしかしたら、どこかで作られてるかもしれないから。そんなに落ち込まないでよ」
「確かに師匠もそう言っていたから、希望は捨てないで探してみるよ」

 あまりにも落ち込んでしまったレオンを、ケイは慌てて励ます。もしかしたら、と希望をもたせるような事を言って。

 世界は広い。もしかしたら、異世界の料理でも何処かで作られているか、もしくは似たような物があるかもしれないと、存在する事を信じて異世界の料理を見つけ出すという目標を新たに立てるレオンだった。 

「それにしても。うん、そうか。なるほどね。貴方の師匠が転生者だってことは分かった。そして、その人から色々と教えてもらってたのね」
「うん、本当に色々と教えてもらったよ」

 過去にあった師匠との数々の出来事を思い出しながら、懐かしむような表情を浮かべるレオン。

「それで、その貴方の師匠って人は今、どこに居るの?」
「うん。実は僕の師匠はもう亡くなっていて、この世には居ないんだ」