第11話 部屋割り

 レオンが2人を引き連れて宿に戻ってくると、建物の中で女主人が待ち構えていた。朝目覚めて階段を下りてきた時にレオンが、彼女と顔を合わせた時と同じように。

「おかえりなさい、ところで後ろの女の子と男の子は?」

 帰ってきたレオンを目にして、女主人が声を掛ける。そして、後ろに引き連れて歩いている美しい獣人の少女と、まだ幼い男の子が彼女の目に留まって誰だろうと尋ねていた。

「奴隷です。買ってきました」
「そ、そうなの」

 さらっと答えるレオン。そんな彼の答えを聞いて、女主人は少し引いていた。

 奴隷を引き連れている事について、ではなく奴隷を2人も買ってきたのに当たり前という感じで接している、レオンの答え方に関してだった。

 買ってきた、とあっさり言いきれるような程に奴隷は安いシロモノではない。しかも2人引き連れている事から、2人分の買取価格を支払っているはず。

 決して安い買い物ではなく、もっと大きな反応をレオンは返すべきだと女主人には思われたけれど、彼の態度は変わらず普通だった。

 それはつまり、彼がそれぐらいの金額では慌てないほど大金を扱うのに慣れている、という証拠だろうと女主人は考えた。

 大金を持っている人物といえば、と思い浮かべようとすれば女主人の頭の中で真っ先にイメージされたのは貴族という地位にいる者達だった。

 昨日、レオンが宿を訪ねてきた時から見た目が貴族っぽい整った顔をしている、と思っていた女主人だけれど、冒険者になる事を目指して地方から王都にやって来たと彼の身の上話を聞いていて、庶民なんだと思っていた。

 だがしかし、それは間違いだったのかもしれないと女主人は思い悩む。もしかしたら、どこか貴族の子息が身分を隠して冒険者を目指しているのかも。下手をしたら、王族の嫡子である可能性もある。

 レオンの立場を推理して、内心で慌てふためいている女主人の気持ちなどつゆ知らず、何時も通り接するようにレオンは彼女に尋ねた。

「彼女たちの部屋を用意してもらいたいんですが、可能ですか?」
「え!? えーっと、そうね。一応、部屋の空きはあるわ」

 ルーとケイの2人は女の子であるから、男であるレオンは部屋を別にしたほうが良いだろうという判断で、宿には新しく部屋を借りるつもりであった。

 そして部屋が空いているかどうか女主人に確認してみれば、空いているという答えが返ってきた。けれども、女主人の返事は歯切れが悪い。部屋を新しく借りるのに何か問題があるのだろうかとレオンが思っていると、女主人は空室について教えてくれる時に躊躇した原因を教えてくれた。

「部屋は空いているけど、女の子と子供の2人だけに部屋を借りるのはオススメしないわ。この宿には冒険者が多く泊まっていて、中には荒くれ者もいるから時々問題を起こしてしまう人も居るの。私達スタッフも一応注意はしているけれど、万が一のために自衛してね」

 冒険者御用達の宿として、泊まっている客は冒険者として魔物との戦いを経験している戦士ばかり。だから、腕っぷしも強いので女性や子供では太刀打ちできない。

「つまり、一緒の部屋で固まっていた方が良い、ってことですか?」
「えぇ、そうね。特に彼女は注意したほうがいいかも」

 そう言って女主人は、美人であるルーを指して注意を促す。王都だと、宿で泊まるのにもそんな危険があるのかとレオンは驚いていた。

 故郷では、そんな事は聞いたこともないので思いもしなかった危険だ。確かに考えてみれば、部屋を別々にするという事は危機だろうと感じるレオンだった。

 けれでも彼女たちの性別は女性だし、レオンとは同い年、年頃の女の子でもある。一緒の部屋に自分が居ても大丈夫かどうか、と彼は心配していた。

「レオン様。私は部屋が一緒でも大丈夫です。奴隷の私達に、あまり気遣いすぎるのもよろしくありません。必要なら、そういう行為の教育も受けているので大丈夫です」
「僕も大丈夫」

「わかった。それじゃあ、皆で一緒の部屋で」

 ルーもケイも、特に嫌がる素振りは見せずに一緒の部屋でも大丈夫と答えてくた。彼女達の厚意に甘えさせてもらって、同じ部屋にすることを決めたレオン。

「レオンくんの今借りている部屋に、3人が入るとなると狭くなっちゃう。今なら3人で過ごせる部屋が空いていているから、そっちの部屋に移ったらどうかしら?」
「じゃあ、それでお願いします」

 女主人に勧められるまま、借りている今の部屋から別の部屋へと移る事に決める。王都に住む場所を見つけるまで、借りの住まいとして宿を借りて生活するつもりだったけれど、もう少し滞在する期間が長引きそうかも、とレオンは感じていた。

 新しい部屋に案内してもらうと、確かに3人でも全然大丈夫な広さの有る部屋だった。価格は一人部屋に比べるとちょうど三倍近く値段は高くなったけれど、部屋を借りて移ってきたのが正解だと思えるぐらいに良い部屋だった。

 その後、レオン達は軽く夕食を済ませると、色々な出来事があって疲れていた彼らはその日の夜すぐに寝付いた。

 レオン、ルー、ケイはそれぞれのベッドに別れて眠る。そうして、レオン達の一日が終わった。


***


 しかし夜が明ける前の、深夜になって目を覚ますレオン。奴隷のケイが、起き出してベッドから移動を始めたのに気が付いたから。

 何をするのか寝たフリをして彼女の観察を続けていると、ケイはレオンの眠っているベッドに侵入してきた。そして、彼女は小さな声で寝たフリを続けているレオンに声を掛ける。

「ねぇ起きて」
「どうした?」

 レオンがいま目を覚ましたという風に演技をして応えると、ケイはシーッと口の前に指を立てて静かにするように指示する。そうしてから彼女は突きつけるようにして、こんな言葉をレオンに発した。

「あなた、転生者なんでしょう?」