第10話 衣装買い

 ルーとケイという2人の奴隷を買い取ることにしたレオン。代金を支払い、奴隷を扱う為に知っておかないといけない色々な知識について、ヨハンからしっかりと説明を受けた。

 その後にはレオンの現在の職業や、住んでいる場所についての聞き込みをされて、様々な手続きを行ってから、奴隷を選んでいた時間と同じぐらいかかってようやく解放された。奴隷を1人買うのにも、レオンが予想していた以上に色々な手続きが必要で時間が掛かったのだった。

 奴隷商の建物から出てきたレオンは、1人で入った時とは状況が変わって3人組となっていた。

 レオンと、奴隷のルー、そしてもう1人の奴隷であるケイの3人である。冒険者になるための試験を受けた時にも予定が崩れたと思ったように、事前に予定していた、仲間を1人増やすという計画は予定通りとはならず、結果的に2人増えるという事になっていた。

 レオンはしみじみと、計画は思い通りにならないという事実を実感していた。だがしかし、計画が崩れたと言っても大きな問題では無い。仲間を1人増やすつもりが2人増えたという程度の変更なら、対処出来るぐらいだと思い直すレオンだった。

「今から、服を買いに行こうか」

 奴隷商から出される時に奴隷の2人は、服装を着替えをさせられていた。今の彼女達は、白い布を全身に巻いただけの素肌を晒さないで隠す目的だけを果たす、というような簡易な格好であった。

 応接室で見せられた時に彼女たちが着ていた服は、お客に見せる時用に着替える衣装だったらしい。その衣装を買い取ることもレオンには出来たけれども、かなり高額で普段用に着ることも難しいから、服は買って用意することにした。レオン達が今から向かうのは、街の中にある古着屋だ。

「わかりました。よろしくおねがいします、レオン様」
「えっとその、よろしくおねがいします。レオン様」

 キッチリと教育を施されていたルーは軽く頭を下げ感謝の意を示して、丁寧な口調でレオンに優しく声で返事をした。その後に続いて、たどたどしくルーの動きを真似して応えるケイ。

 様付で呼ばれることをむず痒く感じたレオンは、ルーの丁寧な口調を改めるようにお願いしようとも考えたけれども、奴隷として教育されてきた事だろうから彼女にも慣れがあるだろう、と思い直す。

 それを無理に変えさせてしまうとルーの負担になってしまうかもしれないから、今はとりあえずそのまま流すことにした。

 どう呼んでもらうのか、様付かさん付けか、それとも呼び捨てか。それは追々という事で、ルーと仲良くなってから呼び方については話し合って決めればいい、と問題を先送りにするレオン。

 とりあえず今は服を買い揃えるために古着屋に向かうべきだと考え、レオンは2人の奴隷を引き連れて街の中を歩いていく。


***


 古着屋にやって来たレオン達。そこで、買い取った奴隷であるルーとケイ、2人のこれから生活に必要となる服装を揃える為だ。

 その古着屋には貴族が着ていた服装のお下がりが流れてきた物や、布だけ再利用して仕立て直した様な、今すぐに着られる各種様々な服が売られていた。

 仕立て屋に行って彼女たちの服装を用意するのもレオンには可能であったけれど、今すぐ服を手に入れたいという事で、出来上がるまでに時間の掛かる仕立て屋の服は今回スルー。そして、古着屋で彼女たちに合いそうなものを探すことにする。

「ルーは、家事をしてもらうから汚れても大丈夫な仕事着を。それから、日常生活を送る時に着る服と下着を何着か、寝間着も買っておこう」
「ありがとうございます」

 まだまだルーは固い反応を返してくるので、彼女から壁を感じているレオン。今日出会ったばかりで、先程奴隷商から買い取ったばかりなので仕方ないことだが、これから徐々に改善していきたいとレオンは考えていた。もっと彼女とは、仲良くしていきたいと。

「それからケイは……、男の子に変装しているようだが、君はどちらの服装が必要だ?」
「気づいてたの!?」

 ケイは、自分の正体をレオンに知られていた事に驚いた。奴隷商人に対しても隠し通していてた性別を、まさか出会ったばかりの彼に見抜かれているとは思っていなかったから。

「それで、どうする?」
「可能ならば、男物の服をお願いします」

 レオンはケイの事情を気にかけて、必要な服の希望を聞いていた。奴隷商の店主であるヨハンの目を欺いていた事から分かるように、彼女は何故か男の子に変装しているらしかった。

 だがしかし、レオンの目には明らかにケイが女の子にしか見えないので、今から変装をしたとしても意味はないのだが。

 多分、自分以外の他の人間に向けて男の子と認識されるように変装をするのだろう、とレオンは予測して彼女の事情に合わせた。

 何着か彼女たちの服を選んで、レオンは支払いを済ませると買った商品を受け取って古着屋から出てくる。

「レオン様、服を買っていただき、ありがとうございました」
「ありがとうございます」
 
 買ったばかりの服である、王都に住んでいる庶民に溶け込む様な大衆的な服に身を纏っているルーは頭を下げてレオンに感謝した。

 その程度の事でも、しっかりとお礼を言ってくれるルーに対して好感を持つレオン。お礼を言うのは奴隷として教育された反応なのかもしれないが、感謝されるのは嬉しく思っていた。

「お荷物、お持ちします」

 ルーがレオンに向けて手を伸ばし、彼が今持っている荷物は奴隷である自分が持つべきだと主張する。

「荷物は僕が持つよ」
「いえ、私が持ちます」
「大丈夫、ちょっと見てて」
「……はい」

 何とか奴隷として初めての仕事をしようと主張を続けるルーを制して、レオンは何かしようと彼女へ見ているように指示を出す。

 荷物を持った手を目の前に伸ばして、何かを始めたレオン。すると、彼の目の前に真っ暗闇な空間が現れた。そして、その中にスルスルと消えてしまった手荷物の数々。そして後は、暗闇の空間が消えてレオンの持っていた荷物も消えて、空中には何も無くなってしまった。

 レオンに買ってもらったばかりの服が消えてしまった光景を目にしたルーは、思わず叫び声を上げていた。

「レオン様、服が!」
「落ち着いてルー、大丈夫。ちょっと異空間に保管しているだけだから。宿に戻ったら、取り出して使えるようにしよう」

 レオンはチート能力の1つであるアイテムボックスを駆使して、買ったばかりの服を手に持って歩かないで済むように、異空間の中に保管することにしたのだった。

 荷物は異空間に保管していると言われたルーは、よく原理が分からず疑問の表情を浮かべた。そして再度、レオンに確認する。

「えっと、服は無事なのでしょうか?」
「大丈夫、問題はないよ」

 レオンとルーのやり取りを、黙ったまま側でじっと観察を続けていたケイ。レオンに鋭い視線を向けて今すぐに問い質したいという様子だったけれど、その場で彼女は特に何も聞くことはなく口は閉ざしたままだった。

「それじゃあ、今日はもう暗くなったし宿に戻ろうか。今日から、君たちの住まいになる場所だ」
「はい、わかりましたレオン様」
「ついていきます」

 その一日でレオンは冒険者になり、奴隷を買い取って、服を買って、と様々な予定を消化した。そして今は、もう太陽が沈み辺りが暗くなってきている。急ぎレオンは泊まっている宿に3人で向かった。