第01話 目覚めの朝

 宿屋の一室で、その青年は目を覚ました。窓から入ってくる陽の光を身体に受けて目を覚ました彼は、ベッドの上で大きく背伸びをする。すると、何かに気が付きハッと目を見開くと、天井を見つめた。

「知らない天井だ、っとコレで良いのかな」

 その青年の名はレオン。そして彼がいま口にした言葉というのは、師匠から教えて貰った台詞だった。

 見知らぬ場所で目を覚ました時には、最初にこう言うべきと決まっているんだ! と師匠から熱心に教えられた言葉であった。

 なぜ、そんな台詞を言うべだと決まっているのかレオンには理解できなかったけれど、師匠から教えてもらった事だったので律儀に守り、目を覚ました今が言うべきタイミングだと思い口に出した。

 彼は一人旅で王都へとやって来て、もちろん今は誰も見てはいない状況だったけれど、レオンにとっては師匠の教えを守って生きる事が重要だった。

「ふわぁー、いい天気だな」

 ベッドから降りて口に手を当て大きなあくびをしつつ、そのまま窓際へと歩き移動。両開きの窓を開け放つ。そして、外の景色を眺めた。

 宿屋の二階から見える王都の景色はレオンには見慣れないモノだったので、その風景を見て彼はテンションが上っているのを感じていた。これから、新しい生活が始まるんだと期待に胸を膨らませる。

 寝癖の付いた金髪を手でモシャモシャと梳かし、寝間着から服を着替える。ごくごく一般的な市民が着るようなありふれた服装だったが、レオンが着てみると清潔感が有るような印象。そしてベッドの側に立てかけて置いてあったロングソードを手に取ると、腰から下げて武装する。

 起きてからすぐに、ある程度はしっかりとした見てくれが良い格好に準備を整える。師匠から託されたハーレムを築くという夢を実現するために、レオンは朝の目覚めた直後であっても普段から気を使った格好で生活するようにしていた。

 朝の支度が終わって、泊まっている部屋から出る。朝食が階下にあった食堂で食べられる筈だと、二階から降りて一階に向かった。

 すると階段を下りてすぐ側には、40歳を過ぎたぐらいの女性が朝早くから既に働いていたのか、レオンを待ち構えていた。

「おはよう。今すぐ朝食を用意するかい?」

 この宿屋の女主人である彼女は、上から降りてきたレオンの姿を確認して朝食の準備が必要かどうかを問いかけた。声を掛けられたレオンは、笑顔を浮かべて答える。

「えぇ、お願いします。宿屋のお姉さん」
「いやね、おばさんをからかって。朝食は今すぐに用意してくるから、待ってなさい」

 女将はレオンの返事を聞いて朝食を準備しに行った。彼の紳士的な態度がとても気に入ったからか、嬉しそうな笑みを浮かべて。

 この宿屋は冒険者向けのお店なのだが、常連客はむさ苦しい者たちばかり。レオンのような美青年が泊まる事は、まず無かった。

 しかも、容姿が優れいてるというのに傲慢さや自惚れた様子のない素直な可愛い子であると、レオンを高く評価していた女主人。レオンに対して、特別にサービスしたくなるぐらいの良い客だと思っていた。

 そんな彼は、師匠から女性に対しては真摯に対応するべきと教えてもらっていた事、そして宿屋の人とは出来るだけ仲良くするように、という教えを守るために実践していただけだった。

 大人の女性に対しては馴れ馴れしく近づかないように気をつけながら、一定の距離を開けつつも親しみを持って。

 そして、どんなに年を食った人に対しても呼び方はお姉さんに統一するようにと。そういう教育を師匠から受けてきたレオンは、今もお姉さんと呼ぶには少々年のいった女主人に対してもお姉さんと呼び、彼女の気分を良くさせた。

 レオンは朝食の準備に向かった女主人を見送り、宿屋受付の他に食堂にもなっている一階に並べられたテーブルに座って、注文した朝食が来るのを静かに待ちながら今日の予定を確認することにした。

 師匠から託された夢である有名冒険者になる為には、まず冒険者ギルドに試験を受けに行かなければならない。そして、今日は冒険者試験が実施される日だった。というか、この試験を受ける為に、レオンは故郷から旅立ち王都へとやって来たのだった。

 いよいよ、師匠に託された夢を果たすための第一歩が踏み出せる。その事が、レオンの心をウキウキと弾ませていた。

 冒険者になるのには、なによりもまず試験を合格する必要があるのだが彼は試験に落ちる心配を一切していなかった。

 というのも自分は今まで鍛えてきた修行の成果と、師匠から託されたチート能力があるので、試験に落ちるはずが無いという自信がレオンにはあったから。

「はい、お待たせ」
「あれ? これ、一皿間違ってますよ」

 女主人がテーブルに運んできてくれた料理を目にしたレオンは、自分が注文したメニューと比べて一皿多くテーブルに運ばれてきた事に気がついて、それを指摘した。

 すると女主人はニッコリと笑って「サービスよ」と答える。なるほど、とレオンは理解してから「ありがとうございます」とお礼を言って素直にサービスを受けることにした。内心で、ラッキー得をした! とレオンは喜んでいるが、表情には微笑を浮かべるだけ。

 そして、料理をテーブルに運び終えて去っていく女主人の背中を見送ってから料理に手を付け始める。その前に。

「いただきます」

 料理を食べる前に両手を目の前で合わせて、そう言うレオン。それも師匠に教えてもらった、食事の前に行う儀式だった。

 この動作をお教えてもらってから、今まで欠かさず食事の前には毎回「いただきます」と言っているレオン。今日も変わらず、朝食に手を付ける前にしっかりと行ってから食べ始めた。

 180センチという長身で、見た目には太った感じはなくスラッとスリムであるレオン。しかし実は、こう見えてけっこうな大食いである。女主人がサービスして一品付けてくれた料理も、ぺろりと一気に平らげて更におかわりをお願いする程だった。

「えぇ!? あの量を、もう食べちゃったの?」
「とっても美味しかったんで、まだ食べますよ」

 冒険者向けと言うだけあってこの宿の食事は、戦う男のために用意された料理。その一品一品が、大盛りで出されている。それを平らげて、更にはおかわりを要求するまで食べてしまったレオンの食欲に驚く女主人。

 しかも、美味しいと言ってくれたお世辞ではないと感じる彼の言葉に、女主人は喜びながら追加注文された、料理のおかわりを用意をした。


***


 そして結局、レオンは朝から三人前のメニューを食べきってしまった。朝から大量の朝食を食べ終わり、ごちそうさままでキッチリと言って、支払いを済ませると食堂から出ていく。

 朝から美味しいものをたらふく食って、レオンは準備も万端。宿屋から出た彼は、そのまま冒険者ギルドがある建物へと向かって歩き出していた。そこで今日、いよいよ冒険者になる為の試験を受ける。

「ふぅ、ちょっと朝から食べすぎたか。でも、その分は試験で頑張れば良いや」

 食べ過ぎだと自分で言いつつも、本当は腹八分目ぐらいには抑えてはいるレオン。一応試験前に念のためにということで、自重はしていた。

 そして、食べ過ぎた分は動いて消化すれば良いかと結論を出す。レオンは今から試験を受けるんだという緊張は無く、余裕綽々だった。

 そんな彼がこの王都に到着したのは昨日のことだったが、昨日のうちにある程度は街の中を見て回り、重要な建物の場所は既に確認済みだった。だから、もちろん冒険者ギルドがある建物の場所も把握していたので、宿屋から冒険者ギルドまで最短のルートで歩いて向かう。

 空には雲ひとつ見当たらない良い天気であり、自然の風景を眺めながらボーッと気を抜きつつ歩く。休みたいなぁという衝動に駆られるレオンだったが、その欲求を跳ね除けて冒険者ギルドへと向かう。

 今の彼が目標として達成を目指すのは、S級の冒険者になり世界で名の知らない人は居ない程に有名となること。そしてハーレムを築くこと、という師匠から託された夢を果たすソレだけだったから。