第03話 様付けで呼ぶのをやめて

 慰めてくれるティナに、色々と不満をぶちまけた後。ある程度、話をして気力が回復してきた僕は、本日も仕事を開始した。

「ギル様、本日のクランに届けられた依頼はコチラです」
「ありがとう、クラリス」

 戦乙女クランから脱退するのを諦めた訳ではないが、仕事をしない訳にもいかず今日も働きに出る。戦乙女に届けられた依頼を処理しようと、先ずはどんな問題があるのか確認しにやって来た。

 すると、待ち受けていたのはクラリスという名前の女性。

「緊急度順に並べ替えておきました。最初の方にある依頼を、先に処理するようにお願いします」
「ありがとう、わかったよ」

 メガネを掛けた見た目からも分かる、真面目な性格であるクラシス。彼女は細かな所にまで気を配ってくれて、いつも仕事をしやすく整えてくれている。戦いに出ることも出来るが、事務的な仕事に才能がある女性であった。

「ところで、ギル様」
「んー、その前にちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」

 依頼を確認している僕に呼びかけて、何か問いかけようとしてきたクラリス。そんな彼女を制して、先に僕の方から気になる事を指摘した。

「その、様付けで呼ぶのをやめてくれないかな? 普通に、名前を呼び捨てにして呼んでくれないか」

 クラリスとは、戦乙女のクラン立ち上げ当初から今まで長い間を一緒に過ごしてきた仲間である。そんな彼女から、名前に様を付けて呼ばれるのは距離を感じてしまう。それに、クランマスターであり威厳たっぷりなレオノールと違って、僕には様という敬称での呼ばれ方は似合わない。

 だから何度か、その呼び方は変えてくれないかとお願いをしていた。けれども彼女の返事は、決まってこうだった。

「それは出来ません、ギル様。あなたは戦乙女というクランのNo.2に位置するお方ですから。それに何より私はギル様を敬愛しています。そんなお方を、ちゃん付けでは呼べません」

 いや、ちゃん付けで呼ぶ必要はなくて呼び捨てで良いんだけれど……。

 それから序列で言えば、クラリスもクランメンバーの中では上位と言える位置に立っているから、本来なら呼び捨てでも構わない。実際に他のメンバーからも、名前を呼び捨てにされている。

「ティナから僕は、何の敬称も付けずに呼ばれているけど」
「あの子は、ただ単に無遠慮なだけです。今度出会ったら、私がしっかりと相応しい態度をするように、教育しておきます」
「いや、違うんだ。ごめん。様付けで問題ないから、ティナは勘弁してあげて」

 ティナにまで影響が出そうだったので、僕は急いで引き下がって様付でも問題ないからとクラリスに許可を出す。

 クランを脱退したいという望みと同じ様に、クラリスの様付けを無くして呼んで欲しいという僕の願いは、やはり聞き入れてもらえなかった。