第01話 辞めたいです

 ここは男子禁制の冒険者クラン『戦乙女』が所有している、クランメンバーの女性だけが入ることの許された建物の中。しかも、そこはクランマスターが利用している執務室であった。つまりは、入室を許可されるのは限られた人間だけ。

 そんな場所に、何故か男である僕は立っている。そして、何故か男であるはずの僕は戦乙女クランのメンバーでもあった。

 部屋には女性がもう一人、椅子に座って僕の方をじっと見つめていた。あの、見つめられると緊張してしまうドラゴンのような眼で。

 僕はお腹にグッと力を込めて、いくぞ! と自分を勢いづけてから言葉を口にした。

「クランを辞めさせて下さい」
「ダメだ」

 これで何回目の訴えだろうか。クランから脱退したいという僕のお願いは、数も分からなくなるほど繰り返されたやり取り。そして、何度も行ったが全て訴えを聞き入れてもらえていない、というのが現状だった。

「何故です! 男である僕が、男子禁制であるはずのクランメンバーになっているは間違っているでしょうよ。問題が明るみに出る前、今のうちに辞めさせて下さい!」

 僕が訴えている相手は、戦乙女クランのマスターであるレオノールという名前の女性だった。クランメンバーからは絶大な人気を誇る、他のクランからも一目置かれるような存在感を醸し出す美人で強い人だった。そして、僕の性別が男であることを知っている人物でもある。

 そんな彼女は、またか、という風な表情を浮かべて眉をひそめると、面倒くさそうにする。それから、もう一度同じ言葉を僕に向けて口にした。

「ダ・メ・だ」
「そんなにハッキリと否定しないで下さい。それよりも今日という今日は、本当に辞めさせてもらいますよ!」

 僕が不退転の意志を示すように、ぐっと体に力を入れて立つ。辞めさせてもらうまではココを動かないという決意を見せつける。すると、彼女は座っていた椅子から立ち上がり僕の背中に回って抱きついてきた。

「ちょ」
「なぁ、ギル。あの頃、私と約束してくれた事を忘れてしまったのか。もう私が夢を叶えるのを、手伝ってくれないのか」
「あ、いや、ちが」

 耳元に口を近づけ、囁くような声がゾワゾワとした感触でこそばゆい。女のような見た目をしている僕でも、中身は男だから好みとなる相手は当然女性である。そして、レオノールは僕の初恋相手であり、今でも恋心を抱いているような女性だった。そんな人から、接近されて、こんな行為をされてしまえば、僕はもう何も訴えられなくなる。

 おどおどと慌てている僕を見て、レオノールはニヤリと笑った。そして肌が触れ合いそうになる近さにまで接近させていた顔を離すと、彼女は僕の背中を叩きながらこう言った。

「それに、クランの実力者No.2が突然辞めることなんて出来ないでしょう。さぁ、馬鹿なことを言ってないで、仕事をしてきて」

 そう締めくくったレオノール。僕は、反論を許されずに部屋から追い出された。何度目か分からないくらいに訴えた、クランを辞めさせてくれ、という僕の望みは今日も聞き届けてはくれないようだった。