第08話 定めの出会い -アロ視点-

 目が覚めると、見知らぬ場所で眠っていた。その場所は、四方を真っ白な壁に囲まれた見覚えのない部屋の一室だった。床にはじゅうたんが敷かれて、窓も透明なガラスが使われていて外から入ってくる光がとても綺麗だった。部屋の中は清潔に保たれていて、私が今まで住んでいた家とは比べ物にならないぐらい過ごしやすい部屋だった。

 今の状況を確かめるために、自分がなぜこんな場所居るのか記憶を辿る。けれど思い出せるのは、森の中で迷子になっていた事、歩く先の方に何かの光が見えて向かってみた事、辿り着いた所には大きな壁があった。そして、大きな壁沿いに歩いて行くと木でできた門扉を見つけたんだった。そして、最後は疲れで身体が全然動かなくなってしまって、地面に倒れこんで気を失ったのだろう。それから先の記憶は無く、今に至る。

 先程まで横になっていたベッドを改めて見てみると、生まれてから今までの人生の中で見たことの無いくらいに真っ白なシーツ、そして身体を包み込むようにフカフカな寝台。改めて気づいてしまったベッドの綺麗さに、これは汚してはいけない事に気づきベッドの上から出なければ、と立ち上がろうとした時に新たなことに気づく。身に着けていたハズの汚い服から、全く別の綺麗な服に変わっている。
 今まで着ていた服は村長の奥様から譲ってもらった茶色くなったシャツとズボンの古着で、何度も農作業の時に汚してしまい、何度も洗濯しては破れた部分を修繕したもので、見た目がとっても悪い服装だった。そして、着心地もゴワゴワとした肌触りの質の良くない物だったはず。
 それなのに、今着ているシャツとズボンはどちらも白く綺麗で、恐ろしいぐらいに肌触りが良い布が使われていて、着心地がすごく良い。

 眠らされていたベッド、清潔に保たれた部屋、そして質の良い服装。ますます意味がわからなくて、あの後にどうなったのか思い出そうと何度も繰り返して頭を探っていると、ドアが開かれる音がして、誰かが部屋に入ってきた。

 音がした方へ視線を向けると、見知らぬ男性が扉を開いて立っていた。私は咄嗟に男性に向かって声を出して尋ねていた。

「あ、あの! ココ、何処ですか? 私はなんで、えっと……」
「落ち着いて。とりあえずベッドに座って。あとはコレを飲んで、それから話しよう」
 慌ててベッドから立ち上がり、男性へと詰め寄った私を私を落ち着かせようとベッドの縁に座らせてくれた。

 私がベッドに腰を下ろすと、男性が手に何かを握って私に見せてきた。

 突き出された何かへ視線が向く。男性の手の中には、綺麗に透き通った中身の見える円筒状の容器。容器の形から多分コップなのだろうけれど、木や鉄のコップとは違う横から中身の見えるコップだった。
 先ほどの男性の言葉から飲めと言われて向けられたのだろう。だから、素直に受け取って飲むべきなのだろう。見た目も、村から少し離れたところにある澄んだ川の水を手で掬ったときと同じぐらいに透き通っているので、美味しそうに見える。
 けれど、目の前の男性の事を一切知らない私は彼を信じても良いのかどうか判断に迷っていた。

 どうするべきか躊躇する。こんなに綺麗な物を手にとって万が一にも落として壊してしまったらどうしよう、この男性を信じて中身の分からない物を飲んで良いのかどうか、男性の提案を断って彼の気分を害してしまうかもしれない、とか。

 透き通ったコップに向けられていた視線を上にあげて、男性の顔を見ると頷き返された。男性の顔をじっくりと観察してみるが、彼は悪意を感じない表情をしていたので信じて飲んでみることに。

 恐る恐る男性からコップを受け取り、中身を見る。やっぱり濁りのない綺麗な水で、思い切ってコップの縁に口を付けてクイッと傾ける。

 コップに付けた口を開けて流れ込んでくる液体を飲むと、水のようだと分かった。ただ井戸で汲んだ水とは違って、恐ろしいほどに飲みやすい水だった。何時も村で飲んでいるような水とは違って、ジャリジャリとした感じがなく喉にも引っかからず、水がスルスルと流れていく。

 気づけば一気にコップの中にあったもの全てを飲み干していた。

「おかわりは要るかい?」
「えっと……、いえ、お話を聞かせてもらえますか?」
 水を一気に飲み干して、そこで自分が喉が乾いていたことに気づいた。だから、男性からの提案に飲み物のおかわりをしようと一瞬頭をよぎったけれど、自分についての事を知ることのほうが優先すべきだと考えて、おかわりを断る。それから、今の状況についてを話してもらうように要求をした。

 コップを返してから男性の説明は始まった。私が疲労困憊で門の前に倒れていたということ。疲れた状態で全く起きる様子がない私を休めるために、今私が座っているベッドまで男性が運んでくれたこと。そして、より休まるように汚くなっていた服を着替えさせて休ませてもらった事。そして、1日経って目を覚まして今に至るという。

 続けて、男性が自己紹介を始めた。男性の名前はユウさんと言うらしく、ココに一人で暮らしているらしい。気を失う前に見た、大きな壁や門について考えると、今いる建物もとんでもない大きさなのではないかと推察する。
 だいぶ気分が落ち着いてきた私は、アロさんを観察する。目を引くのは、右頬にある大きな切り傷。けれど、傷以外の部分はとても綺麗な格好をしている。真っ黒な髪の毛はサラサラで、顔や髪の部分が土や垢、埃で汚れていない男性を見るのは生まれて初めてかも知れなかった。身に着けている服装も、ベッドのシーツと同じぐらい真っ白なシャツ。生地のしっかりしたズボンで、村の大人たちの草臥れた服とは全く違った。
 身形がしっかりしていて、振る舞いも柔らかで私と違う高貴な生まれだと直感で分かってしまった。私の目の前に居る男性は王族や貴族などのとんでもない人なのかもしれない、と考える。
 
 内心でビクビクしながら、ここに来るまでの経緯をしどろもどろになりながら説明した。ユウさんは、途中で口を挟まずにゆっくり頷きながら私の話を最後まで聞いてくれた。

 両親が小さい頃に死んでしまったことから、村長に育てられていたこと、夜に村長と奥様が話し合っているのを盗み聞きしてしまい奴隷商に売られてしまうかもしれないと知ったこと、怖くなって村から逃げ出して森で迷子になってしまったこと。

 話し終えると、私はユウさんの顔を見上げていた。私のことは全て話した。これからどうするべきだろうと言う気持ちだった。

「選択肢は、今のところ2つある」
 そう言って、ユウさんはこの先どうするべきなのか助言をしてくれた。一つは村に戻って、村長としっかりと話し合いをすること。なぜ村長が私を奴隷商に売り出す必要があったのかしっかり聞いて、奴隷商に売られて金を得る他に解決方法はないのか相談するということ。

 もう一つは、村に帰るのは一旦待って今いる場所でお金を稼ぐ方法を身につけるという事。詳しく聞いてみると、どうやらユウさんが私を冒険者になれるように育ててくれるというらしい。

 村に戻って今までと同じように村長に恩返ししたいという気持ちは消えていないが、戻ると奴隷商に売られてしまうという恐怖がある。そもそも迷子になってしまった時点で村へ戻る道がわからなくなっていた私は、ふたつ目に挙げられた提案を取ることにした。

 その事をユウさんに伝えて、それから何故そんなに私の事を助けてくれるのかを聞いてみたけれど、ユウさんが答えてくれたのは、目的はあるけれど詳しくは教えられないらしい。そして、目的は教えられないけれど金銭や身体を使った支払い要求はしないと約束してくれた。
 なぜ彼が、親身になって助けてくれるのか知ることは出来なかったけれど、私はそれ以上追求しなかった。だけど、ユウさんの約束してくれた事を信じてココに置いてもらうことになった。

 

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