第07話 村から抜けだして -アロ視点-

 小さい頃に両親が死んでから、私は村長に保護されて生活をしていた。

 生活させてくれている村長に少しずつでも恩返しをしたいと思っていた私は、畑を借りて村に居る人達の何倍も身体を動かして農作物を毎年育てていた。女の子だし、身体も小さかったけれど、村に住む男の人達と比べてもなぜか何倍も力が強くて、毎日の農作業は皆が言うほどには苦では無かった。

 ただ、一つだけ困っていたことがあった。それは何かというと、どんなに食べても満腹にはならずに、すぐに空腹になってしまうということ。
 いつもお腹を空かせていた私は、生きてきて今まで一度も満腹になったことは無かった。けれど、食事の量を抑えたとしても最低でも大人3人分程を食べてしまうためにこれ以上は住まわせてもらっている手前限りある食料をおかわりをして食べ続けることなんて出来なかった、出来なかった。

 そんな訳で、何時もギリギリで我慢しながら空腹による身体の怠さと目眩に耐えながら生きていた。
 辛いこともあるけれど、なんとか生きていける。そんな日々がずっと続くと思っていたある日の夜のこと。

 急に夜中に目を覚ましてしまって、辺りがまだ真っ暗なことに気づいた私はもう一度寝ようと目を閉じた。けれど一度覚醒してしまった私は、目がはっきりと冴えてしまい眠れなくなってしまった。

 夜空を見て眠気が戻ってくるまでボーっとしようと考えて、外に出ようと家を出ようとした時の事だった。

 既に就寝していると思っていた村長と村長の奥様が何時も食事をしている部屋で明かりをつけて話し合っている声が漏れ聞こえてきた。

 私は村長さんが起きているならと、一応夜空の観察をするために外に出て良いか伺おうと、二人が話し合っている部屋に入ろうとした時、奥様がいきなり叫ぶような大きな声を出したために扉を開けようとした私はビクッと驚いて身体が硬直してしまった。

 そして部屋に入れないまま扉の前で佇む私、そんな私に気づかず大声を出した奥様を落ち着かせるように村長がなだめだした。
「仕方ないんだ。アロを養っていく余裕はもうこの家には無いんだ」

 村長の言葉から、私の名前が出て思わず私は耳をそばだてる。
「では、なぜアロを引き取ったのですか!? あなたが無計画に、アロの為のお金を勝手に使ってしまったから! あなたが悪いのに! そんなことで、奴隷商に売ってしまうなんて、彼女は物ではなく人間なのですよ!」
 奥様が激昂して言葉を続けているのが聞こえた。話題は私の事についてらしい。そして、奥様の言葉に私の血の気が引いていた。

 奴隷商。確かにそういうのを私は聞いた。その一言で察してしまった。村長の手によって私は奴隷商に幾ばくかの金銭と引き換えに売られてしまい、これから奴隷として生きていくのだと。

 気づいた時には、家から飛び出て村を抜けて森へ向かって私の足は勝手に走りだしていた。怖くなって逃げ出してしまった。

 奴隷。村の人達から聞いた話では、詳しくは分からないけれど本当に酷い扱いを受けて生きているような存在であるらしい。そして、生死さえも所有者の権利となって勝手に死ぬことさえ許されない。私はそんな存在にはなりたくなかった。

 頭でぐるぐると考え続けながら走っていると、森の何処かで動物の吠える声が聞こえて私は我に返った。逃げ出してしまって、この先一体どうする気なのかと。

 今までお世話になっていた村長達から逃げ出してしまった。今日まで住む場所と食事を用意してくれて、なんとか私は生きてきた。それがいつまでも続くと思っていたのが間違いだったんだ。
 村長達に私は多くの負担をかけていたのだろう。だから負担をなくすため私は奴隷として売られそうになってしまった。だけど、私は奴隷になんてなりたくないという事を彼らに伝えて他に方法が無いか探るべきだった。このまま逃げ出すなんて一番ダメ。

 今すぐにでも村に戻って、村長と一緒に他に方法が無いか模索するべきだと気づいた。けれど……。

「一体ココは何処?」
 立ち止まって周りを見回すが、背の高い木に囲まれた森の中。全然見覚えのない場所だった。奥の方に視線を向けて目を凝らしても真っ暗で先が見えない。村なんて何処にも見えず、私は何処から来たんだろうと考えるけれど分からない。何処へ向かえば良いのだろう……。

 私は見知らぬ森のなかで迷子になって村へ戻れなくなってしまった。

 来た道を夢中で走ってきた時のおぼろげな記憶を頼りに戻っていく。全然辿りつけないうちに、辺りが先程よりも暗くなってきて空腹で体調がひどい状態になって来ていた。目眩がして、森のなかに太陽の光が届かないから暗いのか、目がチカチカして見えなくなっているから暗いのか、どちらか判断できなくなるぐらいに私の意識は朦朧としてフラフラになっていた。

 このままでは見知らぬ森の中で倒れてしまう。倒れる前に木の影に腰を下ろして一旦休もうかと考えたけれど、こんな森のなかで休んでしまったら、もしも森の何処かに潜んでいるモンスターに見つかってしまったら喰い殺されてしまうだろう。一箇所に留まること無く動き続けなければ、そして村へ戻らなければ。そんな思いだけを一心に足を動かし続けていた。

 どれくらい歩いたのかわからないぐらい。もう歩けないと限界で腰を下ろしてしまいそうになった時、遠くの方で小さいけれど赤い色の明かりが見えた気がした。
 私は、最後の賭けに小さな明かりに向かって一直線に歩き始めた。朝も夜も分からず、村から飛び出して何日も歩いていたような気分。だけど、明かりがあるならば誰か人が居るのではないかと思った瞬間に、疲れがぶり返してきて一気に身体が重く感じるようになった。だけど、疲れを無理やり意識しないように明かりに向かって歩き続けた。

「……なんだろう、コレ?」
 明かりが見えた方向に歩いて行くと、森のなかに大きな壁があるのが見つかった。首を大きく上に向けて、太陽を見上げる時と同じぐらいな角度にした時にやっと壁のてっぺんが見えるようとても高い壁だった。壁の近くだけ木が無くて、空が見える。壁を見上げたそのまま視線を横にずらしたら月が見えた。
 
 首を下ろして左右を見回しても、月明かりに壁が照らされて見えるだけでさっきまで頼りにして歩いてきた赤い明かりは見当たらない。

 私は壁に手を付けて、そのまま壁にそって歩き出した。壁の向こう側に行けるような扉や門が無いか探すことに。
 だけど、歩いているうちにとうとう限界が来て目が霞んで先が全然見えなくなった。

 足を止めちゃダメだと思いつつ、力尽きて地面に膝をついてしまう。こんな所で気絶してしまったら危ない。モンスターの恐怖で、早く歩かなければと考えても力が入らずに立てなくなった。そして、視界が黒に染まっていく。

 心のなかで「ダメっ!」と思った瞬間には、膝立ちだった私は地面に頭から倒れてしまい、とうとう全身が動かなくなってしまった。そして、視界は真っ暗闇の中。 

 

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