第05話 アロの決定

 お互いに自己紹介を終えて、さて次はどうしようと迷った時に彼女のお腹がグゥーと大きく鳴った。どうやら、よほどお腹が空いていたようでお腹の鳴る音は非常に大きかった。その音に、アロは恥ずかしそうに俯いてしまった。

「実は、ご飯を用意している途中だったんだ。今から仕上げて持ってくるから一緒に食べよう」
「……はい、お願いします」

 か細い返事だったけれど、しっかり反応してくれたので先ほどまで作っていた料理を取りに食堂へ向かう。作りかけだった料理を温めなおして仕上げて、10分ほど。配膳用のワゴンいっぱいに、大人5人分ぐらいのお皿を載せてアロの休んでいる部屋に向かう。

「あっ」
 ワゴンを押して、部屋に戻ってくるとアロが小さく声を上げる。それから、彼女はワゴンに載せたお皿に視線が釘付けになって離れない。

「待たせてしまって悪いね、さぁ食べよう」
 休憩部屋に備え付けられたテーブルにアロを移動させて、一緒にワゴンからテーブルへお皿を並べて食事の準備をする。アロは素早い動きでお皿を並べ終えると、コレまた素早く椅子に座り期待した顔で俺に視線を向けてきた。彼女の動きにプログラムでは再現できないだろうと思うような人間味を感じて、やはりこの世界は現実なんだと改めて感じつつ、俺も席につく。

「じゃあ、遠慮せずにいっぱい食べてくれ。いただきます」
「あぅ、……えっと、いただきます?」
 アロは俺の動作と言葉を真似て、いただきますと両手を合わせた。そして、俺が食べ始めるのを見てから、アロも料理に手を付けた。

 それからしばらく、会話もなく黙々と俺たちは料理を食べ続けた。


***


 食事は約一時間ほど掛かった。俺が満腹になって食事を終えると、アロも遠慮して食べるのを止めようとしたが、まだステータス情報が空腹状態のままだったので無理していることが分かったために、アロが満足するまで食べて大丈夫と食事を再開させた。
 すると、用意していた食事ではまだまだ足りなかったようで、追加で食事を用意してあげる事態となった。結局、アロは最終的に大人10人分ぐらいの食料を1回で食べきってしまった。

「あの、ごちそうを食べさせてもらって本当にありがとうございました。今までお腹いっぱいになるまで食べたことが無くって、こんなに幸せなのは初めてです」
 先程までのオドオドとした自信無さげな態度も影を潜めて、丁寧なお礼を言われる。時間もなくて、かなり適当に作ったものだから口に合わなかったらどうしようと少しだけ不安だったけれど、喜んでもらったようで良かった。

「満足してもらったようで、俺も嬉しいよ。それじゃあ、話の続きをしよう」
 食事を終えてかなり落ち着いたアロに、何故拠点にある門へとやって来たのか尋ねる。すると、アロは記憶を辿りながら住んでいた村から逃げ出した事について話してくれた。

 彼女の話してくれた内容を整理すると、
 ・アロの両親は、アロが小さい頃に他界していて、今まで村長に育てられていた。
 ・育ててくれている村長に恩返しするために、アロは畑仕事などを積極的に手伝っていた。
 ・ある日の夜、村長と村長の妻がアロを奴隷商人に売るという計画を話し合っている会話を聞いてしまった。
 ・アロは奴隷にされるのが怖くなって逃げてきてしまった。

 そうして、森のなかへ逃げたアロは行く決めず走りだして、気がついた時には森で迷い込んでしまい村に帰れなくなってしまったそうだ。かなりの時間、森のなかをさまよい歩いて拠点クラマの周囲にある壁にたどり着いたそうだ。

 俺はアロの話を聞いて、アロを住んでいた村に帰さないほうが良いのではないかと考えていた。もちろん、俺自身の事情であるメールで送られてきた件もあってアロが拠点に残ってもらった方が都合が良いけれど、アロの話を聞いて幾つか疑問点があった。

 一つは恩返しのために畑仕事を小さな頃から手伝ったという話。
 ゲームの設定で農業系のような後天的に身につける技能を取得するには、かなり長い時間が必要となる。しかし、アロは農業系の技能を持っていた。育成キャラクターを募集した時に、初期能力で農業系の技能を持っているのは20代後半から30代であるのが普通。極稀に、20代前半のキャラクターが持っている事もあるが0.01%ぐらいの確率だろうと言われている。ましてや10代のキャラクターが、この技能を持っていることはおかしいと思う。
 それなのに、15歳の女の子が技能を持っているというのは通常では考えられない。アイティオピアというゲームでは、キャラクターの背景設定もしっかりしていて、キャラクターの持つステータスにも意味があって、矛盾しないように設定されている。
 つまり、アロというキャラクターは本当に小さな時から農業に関する仕事を経験させられて、15歳という若さで技能を取得してしまったのだろう。
 引き取った女の子に対して、小さい頃から恩を返すという理由があるとはいえ、黙って畑仕事をさせていたのだろうか。

 そして、もう一つのおかしいと思う理由はアロの服装について。彼女は門に辿り着いた時に、ボロボロの布切れのような物を身に纏っているだけだった。森をさまよい歩いたとは聞いたけれど、シャツの状態がボロボロになって肌が大きく露出したり、服の色落ち具合を見ると、森に逃げ込んだ後に劣化したのではなくて、経年による劣化が大きいのだとわかる。そんな身形を村長にさせられている状況を考えると、彼女はどうも冷遇されているのではないかと予想してしまう。

 それに、今は彼女が村に帰っても結局は奴隷に落とされるだけだろうと思う。怖がって逃げてきたアロに、村へ帰るように言うのは酷だろう。

 俺は、俺自身の事情をアロに簡単に説明して、食事と寝る場所を提供する代わりにクラマに残って訓練を受けてくれるように説得した。

 アロからの返答は、今まで育ててくれた村長から逃げてしまった事を心苦しく思っていて、今すぐ村に戻って謝りたいと思っているけれど、奴隷商人に売られてしまう恐怖が大きくて村には帰りたくないと言った。
 そこで俺が、さらに説得して奴隷に売られないで済むように、別の方法としてお金を稼ぐ仕事の仕方を身につけられると説明。しばらく悩んだ結果、アロはクラマに滞在してくれることを決めてくれた。

 

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