第08話 滞在中

 冒険者ギルドでの用事を終えて、建物から出てきた一行は路地に立ち止まって、先程のギルド内で起こった出来事の話について、それから今後のヴェルナーの予定についての話し合いを始めた。

「すみません、ヴェルナーさん。こちらから冒険者に成るようにと誘っておきながら、ギルドへの加入を拒否されるとは……」
「いえ、大丈夫です」

 基本的には、ギルドに加入しなくても冒険者と名乗って活動する事はできる。

 しかし、冒険者のギルドに加入できないということは、ギルドの発行する依頼を受けることが出来ない。つまりは、冒険者として活動する場合の大部分の収入源であるギルドからの依頼が活用できないので、そうすると冒険者と名乗って活動する意味が殆ど無い。

 旅の道中でペスカの剣のパーティー達と会話を交えたことで、大分言葉を学習して流暢になってきたヴェルナーが、アルノルドの謝罪に柔らかく答えた。

 ヴェルナーにとっては、ギルドに入ろうが入らまいが本当にどうでも良かった。情報収集には活用できそうだとは思っていたけれど、加入できないのなら仕方がない、と割り切っていたのだった。

 それよりも、自分に魔力が無いという情報を手に入れられたことが大きい、と感じていた。その魔力について、詳細を調べて帝国に情報を持ち帰ることができれば、今後は帝国でも新しい技術として活用できるのではなかろうか、と彼は考えていた。

 ヴェルナーの膨大な記録媒体には魔法についての知識はおとぎ話でしかなく、おそらく帝国にも情報が存在していないだろう未知の技術だ。この地に来た理由が出来て、大きな目標としてあった帝国領への帰還に加えて、魔力の情報を収集するというモノがヴェルナーの予定に追加されるのだった。

「それで、ヴェルナーさん。貴方はこれからどうする予定です?」
「今から宿屋を探して、街の市場を見て回ってから、その他にも色々とやろうと考えている事があります。なので、しばらくはディフェシュタットに滞在して過ごすつもりです」

 ヴェルナーの予定は、まず人になりきって正体を隠しながら街で暫く過ごし、この辺りの建物や街の周辺地域について、市場の様子を調べるつもりだった。そこで集めた情報をまとめて、この土地に住む人民について知ろうと考えがあった。
 そんなヴェルナーの予定を聞いたアルノルドは、その考えに待ったをかけた。

「それなら、パーティーで使っている住処に一緒に来ませんか? 我々は君を歓迎しますよ」
 ペスカの剣の一行がディフェシュタットを拠点としているのに使っている、一軒家にヴェルナーを誘う。ギルドへの加入を断られてしまったけれど、ここで別れてしまってヴェルナーとの縁を切りたくない、と思ったアルノルドの提案だった。

 それにまだ、アルノルドは冒険者としては活動する様子の無くなったヴェルナーを、ギルドへ加入させる事で冒険者にしようという考えを諦めてはいなかった。だからこそ、知らない間に何処かへ行ってしまわないように自分の側に置いておき、その間にギルドとの交渉を続けるつもりでいたのだ。

「わかりました。よろしく頼みます」

 アルノルドの話を聞いたヴェルナーは、彼が何かしらの思惑で誘ったことに気づいていたが特に気にせず、すぐにアルノルドの提案を受け入れていた。

 こうして旅を一旦終えたヴェルナーは、もうしばらくペスカの剣のパーティー達とディフェシュタットの街で過ごすことを決めたのだった。

 

***

 

 ヴェルナーが、ディフェシュタットの街にやって来て、既に一週間ほど経っていた。その間、ペスカの剣が使用している住処の一部屋を借りてヴェルナーは寝泊まりしていたのだ。

 しかし彼は、ただ泊まらせてもらっているだけでは悪いからという理由で、朝と晩のペスカの剣のパーティー達の食事の用意を担当していた。そして、一週間続けて振る舞われた彼の料理は、その一日目からパーティー皆を虜にしていた。

 今までペスカの剣のメンバー達は、適当に市場で買ってきた食材を焼くぐらいの調理で済ませて、それを食べていた。

 しかし、ヴェルナーはプログラムされている料理の技術をふんだんに使って、丁寧に食事の準備したのだ。市場での買い物で食材の良し悪しの見極めから、豊富に記憶されたレシピの中からチョイスして作り、調味料を使って味を深めて、料理の皿の盛り付けまで気を使った。

 結果、今までに食べていた食事の味を遥かに超える料理の品々によって、彼らの毎日の楽しみを増やす程度にまでヴェルナーは活躍していた。

「あぁ、今朝の料理も美味しそう!」
 モレナが、出来上がった料理に気づき一番にダイニングルームへとやって来て声を上げる。
 
 今までは、男パーティーのがさつな料理に辟易していた唯一の女パーティーであり、普段から街の食堂に通って食事を済ませることの多かった彼女は、ヴェルナーの料理をパーティーメンバーの中では一番に気に入っていた。だから、ヴェルナーの料理が出来るのを一番早くに察知して、部屋から降りてくるのが早いのがモレナだった。そして、他のメンバーがやって来るのを待たずして、食事を始める。

「モレナさん、今日も早いですね。それに、ヴェルナーさんの料理は今日も良さそうですね」
 そう言ってバルナバが、飾りのない黒い衣装で整えた姿に、片手には杖を持った状態でやって来た。彼は、食事の時も杖を手放さずに過ごしていたのだった。そして、信仰する神に対して食事前の祈りを済ませて、静かに食べ始める。

「ヴェルナーさん、今日も食事の準備ありがとうございます。早速いただきますね」
「……」
 恐縮した様子のアルノルドと、無口のガイウスもやって来てペスカの剣のパーティー達がテーブルに揃い座る。

「どうぞ、皆さん召し上がれ」
 そんなペスカの剣の中にヴェルナーも混じって、いい具合な雰囲気で馴染んでいた。この一週間でパーティーメンバーとの関係を更に深めて、違和感なくメンバーの一人として溶け込んでいたのだ。

 だがしかし、ヴェルナーはディフェシュタットの街の調査を終えたら、魔物の森へと戻るつもりで居たので、こんな風に過ごすのは後しばらくだろうとも考えているのだった。

 

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