第07話 加入不可の理由

「そうですか、わかりました」
 受付の女性から冒険者ギルドへの加入を断られたヴェルナーは、表情も変えず平然と応じるのだった。しかし、本人以外は加入出来ないという事実に驚き、言葉を失っていた。

「な、なぜだ? なぜ、彼が駄目なんだ?」
「どうして、なんです?」
「理由を教えてください」

 ペスカの剣のパーティー達は絶句した後、ヴェルナーのギルドへ加入できないと言った受付に抗議していた。その様子を見た受付は、本人がギルドへの加入を希望して来た訳ではなく、周りの人間であるペスカの剣のパーティーに勧められて来たのだろう、と察した。

 そして、そんな状況ならば余計にヴェルナーをギルドへと加入させない方が良いだろう、と判断していた。何故ならば……。

「ギルドが加入できる条件として規定している魔力量に、彼は足りていないからです」
「なんだって……?」

 受付の言葉に、アルノルド達は再び絶句する。

 基本的に戦闘を行う人間は、意識的にせよ無意識的にせよ内包する魔力量によって戦闘能力を高めている。例えば、剣を振るうのには筋力が必要だけれど、その筋力に自身の魔力を操作し加えることで、剣を振るう速さや強さを何倍も早めて高めることが出来る。

 筋力の他にも、視力、聴力、生命力や思考力など戦闘に必要な能力を魔力によって、通常よりも高めていくことが出来るのだ。

 つまりは、魔力量が多ければ多いほど戦闘能力が高く出来ると言える。しかし、ヴェルナーが内包する魔力量を計測する装置である水晶で測ってみれば、一般人にも満たない、子供にさえ負けてしまいそうな程の魔力量しか内包していない、という結果が出たのを受付は目にした。

 魔力は子供の頃には低くて、普通に生活して歳を重ねていけば時に何もしなくても一定までは増加していく。ある程度は魔力量が、自然と増えていくのだ。

 ヴェルナーの見た目からなら、ギルドの規定している魔力量は優に超えているハズ。なのに、未だに規定値を超えていないとなると、才能がないのか、もしかしたら何かしらの障害によるものなのか。受付の女性はそう考えて、詳しい事情は聞かないままヴェルナーのギルド加入を断った。

 一方、ヴェルナーがギルドに加入できないという理由を説明されたアルノルド達は信じられなかった。

 彼らは魔力を作用させて戦闘能力を高める方法はもちろん知っていたし、ヴェルナーが魔物の森で自分たちが助けた時に見せられた戦闘能力の高さも目にしている。だから、ヴェルナーの魔力量がギルドの規定する数値よりも低いとは信じられなかった。

 受付の女性の言葉が真実だとしたら、魔物の森で見せられたアレは魔力を使わない身体能力だけを駆使した戦闘だったという事になる。

 しかし、そんなことが可能なのだろうか……。アルノルドは、そう思わずには居られなかった。

 アルノルド自身は、魔力が無ければ全身に鎧を身に纏った今の状態では、鎧の重さに耐えられず満足に動くことすら出来ないぐらいだった。それほどまでに魔力に頼った状態だったからこそ、ヴェルナーの魔力量が少ないことを信じられずに居た。

 他の、ペスカの剣のパーティーであるメンバーも同様。ガイウスは、魔力がなければ大盾を持ち運ぶことが出来なくなるし、モレナは魔法が使えなくなれば魔物を倒すことは不可能、バルナバは回復魔法が使えなくなる。

「その水晶の測定器、間違っているんじゃないのか?」
 アルノルドは、ヴェルナーの魔力が少ないという理由を信じられずに測定器を疑い始める。

 受付は、仕方なく言われた疑問を解消するべくヴェルナーに三度、測定のやり直しを行った。だが数値に大きな変化はなく、相変わらず規定値を下回った状態だった。

 試しに、受付自身が測ってみたり、アルノルド達が測ってみたりしたけれど問題はなく規定値を上回る数値を叩き出して、確実に魔力を測ることが出来ていた。

「そんなバカな……、いやしかし……」
 そこまでされると、流石にアルノルドも測定器の故障を疑うことはできなかった。だがしかし、ヴェルナーという優れた人材がギルドに加入できないという事実には、まだまだ納得できていなかった。

「彼は、魔力量が少ないかもしれないが、問題なく魔物を倒すことが出来る。それも、魔力がある自分たちよりも簡単に、多数の魔物を屠っていったのを目にしている。そんな彼が、ギルドに加入できないのか?」
「申し訳ございませんが、魔力がギルドの規定値を上回る数値じゃないと加入できない、そういう規則になっています。これは、冒険者ギルドが設立されて以来ずっと守られてきたルールです」

 熱く訴えるアルノルドの言葉を、冷静に受け答えする受付の女性。彼女の一存では、ヴェルナーをギルドに加入させるという判断は絶対にできない、と理解したアルノルドは引き下がるしか方法はなかった。

「そうか……、すまない。決まりというのなら、仕方がないか。ただ、彼の戦闘能力の高さは本当だ。出来ることなら、特例として認められるようにギルドマスターに話を通しておいてくれないか?」
「アルノルドさんがそこまで言うのでしたら、報告だけはしておきます。でも、多分特例なんて認められないと思いますよ」

 ようやく引き下がったアルノルドに、ホッとする受付。そして、そこまで勧めてくるヴェルナーという人物については、上へ報告しておくことを約束した。

 その後、受付の女性はアルノルドと約束した通りに、ディフェシュタットの街のギルドマスターに報告を行った。けれど、今は魔物の森の異変の問題で頭を悩ませていたギルドマスターは、特に気にも留めること無くヴェルナーをギルドに加入させる事を却下した。なので、結局はヴェルナーが冒険者のギルドに加入することは出来なかった。

 後になって、ヴェルナーが冒険者ギルドに加入していないという事実がある騒動を引き起こす事になるのだが、この時は誰もが特に気に留めるような出来事では無かった。

 

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