第12話 魔法実践

 ヴェルナーと彼の奴隷となったコレットの二人は、廃村となっていた場所に住み着いて暮らしていた。彼らがこんな人が寄り付かない寂れた場所を住処とした理由は、大病を患っていたコレットの治療のためだった。手術中には誰にも邪魔されない広い場所、そして長期間に渡って人目のつかないようコレットが安静に過ごせる場所を考えたヴェルナーが、思い至った場所がココだった。

 弱りきったコレットを腕に抱えてヴェルナーは廃村へと彼女を運び込み、半日も掛けず簡易的な生活拠点を作り上げて、それから手術に取り掛かった。

 人間業とは思えないヴェルナーの働きぶりに、不審に思いつつもコレットは何も問いかけることはせずに彼に身を任した。そもそも、考える余裕すら無いぐらいに弱っていたという理由も有るが。

 そして今ではすっかり回復したコレット。立って歩くことも出来ず、呼吸するのも苦痛となっていた危ない状況からの快復だった。

 本当なら不治の病と言われている治るはずのない病気なのだが、違う場所からやって来たヴェルナーには幸いにも対処方法がプログラミングされていたので、無事に手術をすることで彼女の病を治すことが出来たのだった。

 ヴェルナーがコレットの病を治して助けたのには理由があった。それは、魔法について調べるための人材を確保するという目的。ヴェルナーの知っている魔法は空想の物であり、今まで存在することを知られていなかった。だがしかし、偶然にもやって来た場所には幻想ではない魔法が現実に存在していた。という事で、魔法について調べ上げてデータを記録した後に彼の所属している帝国領へと情報を持ち帰る。ヴェルナーはそんな計画を立てて、実行に移そうとしていた。

「早速だが、魔法を実践して見せてくれるか?」
「わかりました。ではもう一度見せますね、私が得意な魔法を」

 そう言って、コレットが手のひらを前に掲げた。その指先にどんぐりの実程の小さな炎の玉が一つ発現した。その現れた炎をじっと見て考えに耽る様子のヴェルナー。

「え、えっと本来はこの炎は魔獣などの敵にぶつけて攻撃として使うんです」

 コレットはヴェルナーの穴が開きそうなほどの真剣な眼差しに戸惑いながら、魔法を実行してみせようとする。

 コレットは魔法の説明をしながら、発現させた炎を近くの朽ちた家屋に向けて発射した。すると、廃屋は炎が着弾して爆発が起こった。

 一瞬、二人の目の前に光がパッと広がり爆炎が舞う。次に木が砕け散る音と黒煙がモウモウと立ち上って、肌をチリチリと焼くような熱さ、耳がおかしくなるぐらいに大音量の爆発音が発生した。ヴェルナーは、人工肌と各種センサーで今しがた起こった出来事を感知していた。

「ふむ」
「え? キャッ!?」

 そして、コレットは自分で起こした出来事が想像を遥かに超えた結果となった事に驚いて声を上げていた。さり気なく、ヴェルナーは立ち位置を変えてコレットの目の前に立ちはだかり、爆風から彼女をかばうように盾になる。

 音が止むとまだ消えない黒煙に、黒焦げで粉々になった木材と抉れた地面や砕け散って小石となった石材などが廃屋の立っていた周辺に散らばっていた。まるでダイナマイトで爆破されたかのような家が、二人の目の前に存在していた。

 コレットの何気なく発した魔法には、それほどまでの大威力があった。

「思ってい以上に、魔法というのは危険かもしれない」
「あ、あのっ! これ、私の魔法の使い方が失敗したからだと思います。というか私の今までの実力じゃあ、こんな事にはならなかったんです。多分、身体が治ったおかげで今まで以上に魔法がスムーズに使えたからだと……」

 魔法を発現させた瞬間にコレットは違和感を感じていた。今まで炎を手元に出すだけで胸の辺りが締め付けられるように苦しかった魔法が、息を吐くように簡単に使うことが出来たこと。

 苦しみを感じなかったのは身体を治してもらったおかげだと思っていたコレットだったが、魔法を攻撃に使ってみれば更に大きな変化が見られる事を実践して思い知った。
 以前に比べて明らかに使う魔法の威力が上がっている。

 ヴェルナーは魔法を間近で観察して、様々な結果を探知していた。コレットが何気なく出現させた炎は、表面こそ1000℃程度の温度しか無かったが内部には6000℃以上もある太陽表面温度に匹敵する熱が発生していた。しかも、熱が外へと拡散しないためなのか炎は圧縮されるように内側へとエネルギーが働いていた。コレットが手のひらを火傷しない理由だった。

 それを当てれば、今見せられたように爆発を起こして廃屋を壊すのは簡単だっただろう。予想できる結果だった。

 けれど、ヴェルナーはコレットの使う魔法の威力が非常に大きなパワーを持っていた事を不可解だと感じていた。

 ペスカの剣に同行して彼らを横目で観察していた時、パーティーメンバーであった魔法使いを名乗るモレナという女性が使っていた魔法に比べると、コレットが今使って見せてくれた物の方が威力が高かった。

「コレットの魔法使いとしての実力は、どの程度なんだ?」
「しっかり学んだわけではないので、私が魔法について知っている知識は殆どありません。それに私の知っている魔法使い達に比べると、あまり得意とは言えないです」

 冒険者という最前線で戦っていたモレナ、一方でコレットが今使って見せてくれた魔法を比べて見るとコレットの方に魔法使いとしての軍配が上がるように思える。
 モレナは警戒して能力を十全に発揮せず実力を隠していたのか、コレットが謙遜して言っているだけなのか、それとも他の要因があるのか。

 悩むヴェルナーは、他の魔法使いについて考えるにはまだまだ情報が足りないという結論に達して、一旦思考を止めて引き続きコレットの使う魔法について調べることにした。

「他に使える魔法はあるか?」
「炎とは別で、私の使える魔法は」

 ヴェルナーに指示されて、コレットは覚えている魔法を隠すこと無く実践して見せた。今度は氷を発現させて一面を氷漬けにしてみたり、雷を発生させて晴天のもとに落雷を起こしてみたり、土という自然を操作して地面に落とし穴を開けさせてみたり。

 人間一人で発生させられる力で、これだけの結果を起こせるのならば調べる理由は大いにあると再認識したヴェルナーは、コレットの協力の下で魔法に関する調査の重要度を高めた。

 

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