第11話 日常の構築

 奴隷商人から病気持ちの少女を一人引取って、魔物の森へと戻ってきたヴェルナー。腕の中に引き取った少女を抱えて来たのだが、彼女はぐったりとした意識のない状態であった。

 彼女の患う呼吸器の病気のせいで呼吸がままならず、額からは汗をダラダラと流して、体調は命にかかわるほど悪くなっていた。

 今まで我慢して立つだけでもやっとだったコレットだが、街を出た頃に一気に症状が悪化して、意識を朦朧とさせてゴホゴホと激しい咳を繰り返していた。そんな状態なので、自力で歩くのも困難であり、ヴェルナーが彼女を腕に抱えて急ぎ魔物の森へと戻ってきたのだった。

 ヴェルナーは鬱蒼とした森林である魔物の森の中を人間を一人腕に抱えて、ズンズンと迷いもなく突き進んでいく。彼が目的にして向かっていたのは、魔物の手によって廃村となった場所だった。その場所は今、誰もが寄り付かず既に何年も人目につかない状態で維持されていた。その場所ならば、他人には気づかれず姿を隠せて、拠点にするのに最適だと考えたので、コレットを引き連れて戻ってきたのだった。

 数時間か歩いて、ヴェルナーが到着した場所は殆どが森に侵食された廃村だった。かろうじて、半壊した家屋が建ち並んでいるのが見て分かる程度で、そのままではとても住めるような状態ではない。
 しかし、ヴェルナーは半壊している一つの家に目をつけて中に入り、乱雑になっていた室内を、ものの一分ほどの時間で片付けるとコレットが横になって休める場所を確保していた。

 それから、一旦コレット作ったばかりの寝台に乗せて、安静にした後にヴェルナーが一人で森の中へと戻って行った。

 その付近の森から木材を調達してくると、半壊していた家を修繕して、瞬く間に人間が住むのに問題の無い程度、むしろ快適と言えるような状態へと手直ししてしまった。

「ハァ、ハァ、コホッ……あれ、ここは? あの人は、何を……?」

 コレットは、具合の悪さで朦朧とする意識の中でヴェルナーの様子を薄っすらと伺っていた。

 そして、ヴェルナーの人間離れした動きや、あまりの手際のよさ、次々に変わっていく景色を目の当たりにしていたが、自身の目で見ているものが信じられないぐらいで、夢を見ているのではないかと疑ったほどだった。

 コレットが安静にして寝て過ごせる環境を瞬時に整えると、ヴェルナーはすぐさまコレットの病気を治すための手術を行う準備へと移った。

「君の体調の悪化は、呼吸器と内臓が悪くなっているために起こっている症状なんだ」
「ゴホッ、ゴホッ、ふうっ。私は、治るのですか?」
「君の病気を治すことは、とせも簡単だ」

 ヴェルナーは、診断した病気の内容と現在の身体の状態をコレットに噛み砕いて説明して、これから行う治療法の概要、それから手術の目的及び方法についてを細かく情報を伝えた上で、本人に手術を行うかをどうかの許可を得ようとしていた。

 ヴェルナーを作った人間たちが住んでいる世界、帝国領では当たり前に行っていた手術の事前告知について律儀にルールを守って、ヴェルナーはこの世界に住むコレットにも同じように対応して、手術に挑もうとしていたのだった。

 手術の説明を聞いていたコレットは、その内容のほとんど理解することは出来なかった。だがしかし、自身の状態が非常に悪いこと、そして治療を施さないと間もなく死んでしまうという事だけは正しく理解できていた。だから、納得した上でヴェルナーの手術を受けることを了承した。

「手術、よろしくお願いします」
「それじゃあ、今から手術をして君の身体を治す。質問はないですか?」
「はい、質問はないです」

 ヴェルナーに対して、出会った当初は不信感を抱いていて警戒していたが、今もよく分からない存在では有るけれど、悪い人ではないとコレットは理解していた。そして、今も身を任せることに不安はあまり感じていなかった。

 道具も施設も不足した状態で行われたコレットの手術は、通常の医師ならば成功率50%ぐらいの失敗してもおかしくないオペだった。

 けれど、非常に優秀な軍事用ロボットであるヴェルナーには戦闘兵士の治療を行うための医療用プログラムが搭載されており、最新のロボットハードウェアで人間では不可能な動きなども制御して動作しているために、手術の成功率は90%以上にまで高められていた。その結果、コレットの手術は無事に成功していた。後遺症も今のところ見られず、徐々に快復へと向かっていった。

 実のところ、コレットの掛かっていた病気はこの世界の人間では今のところ絶対に治せない、不治の病と知られている病気であり、治療方法も確立していないモノだった。つまりは、コレットはヴェルナーに出会うことがなければ、彼女は間もなく死ぬ運命の人物でもあった。

 それが、ヴェルナーと出会ったことでコレットは生きながられることが出来たのだった。

 

***

 

 コレットの治療は無事に完了して、後は安静にして快復するのを待つだけだった。だが、コレットは完治するまで安静にしていないといけない状況だった為、数日間はヴェルナーのみが作業をして、コレットはベッドの上でじっとしている毎日だった。

「私も、奴隷として働きます!」
「傷が治るまで、休んでいなさい」

 廃村となっていた場所を折角だからと修築しながら、コレットの食事を用意しようと食材を魔物の森の奥から収穫して来て、そして彼女の世話をした。

 ヴェルナーに治療してもらった恩を感じて、奴隷として働こうと決意した彼女は役に立とうと動き出したが、ヴェルナーが制して動けずにいた。

 そうこうしているうちに、森で覆われた廃村だった筈の村が住むのに問題のない程度に開けて、以前に比べると住みやすい場所に変貌していた。

 実は、ヴェルナーは修築した村の直ぐ側に宇宙船を作るのに適した素材が採掘できる鉱山を発見したために、村を拠点にしてしばらく素材集めをしようと考えていたのだ。それに合わせて、コレットという獣人について身体調査を進めようと考えて、付き合わせる彼女がせめて快適に過ごせるための場所づくりを作った結果だった。

「身体も、無事に治りました。動くのに問題は無いです。だから、私にも何か仕事をさせてください。ヴェルナーさんにとっては足手まといになって、何の役にも立たないかもしれませんが。何でもやります! だから、何か奴隷として仕事をさせてください」
 
 少しでも恩を返すためにと何でもやる覚悟でヴェルナーに訴えた。

「なら、少し手伝って欲しいことがある」
「何でしょう?」

 ようやく、ヴェルナーから仕事を与えられることに喜びながら指示を待つコレット。そんな彼女の目の前に取り出されたのが、ヴェルナーが街で密かに集めていた魔法に関する資料だった。

「実は今、魔法について調べているんだが私は魔法が使えない。もしかしたら、君なら使えるかもしれないから試してくれ」
「魔法なら、私にも少しだけ出来ますよ! 少しなら、私にも魔法を使えることが出来るんです!」

 そして、コレットは何かを呟き手を目の前に掲げた。その指先に、小さな炎の魔法が発現した事を目の当たりにしたヴェルナー。

「なるほど、それなら私の役にすごく立ってくれますよ」
「本当ですか!? 頑張ります」

 こうして、ヴェルナーは目的であった魔法の調査を進めながら、コレットという獣人について調べて、更には帝国領へと帰還するための宇宙船制作に取り掛かるなど、いろいろな作業を同時に進行させていった。

 

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