第10話 村への帰還

 商人と奴隷の取引を行い、商談をまとめた後。

 猫耳族の幼女、名前をコレットという彼女を引き連れて、ヴェルナーはペスカの剣の拠点へと戻っていった。その道中では、コレットはヴェルナーに対しての警戒心をむき出しにして一言も口を利かず、ヴェルナーも黙々と歩いていた。そして、互いによく知り合いもしないままペスカの剣の拠点へと戻ってきた二人。

「おや、ヴェルナー。買い物から戻ってきたんだね……それで、後ろの子は一体誰です?」

 ヴェルナーが見知らぬ子供の女の子を引き連れて帰ってくるのを見つけたアルノルドは、一体その少女は誰かと尋ねた。

「この子は、市場で買った奴隷です」

 ヴェルナーは、包み隠さずに平然と奴隷を手に入れてきた事をアルノルドに告げた。しかし、それを聞いたアルノルドの方は驚いた表情でコレットを見つめて、一瞬ヴェルナーの言っている言葉を理解できなかったが、次の瞬間には顔を歪め嫌悪感の表情でヴェルナーに視線を戻していた。

「ど、奴隷、ですか?」
「はい、奴隷です」

 見た目が幼すぎるが、女の子の奴隷。冒険者が異性の奴隷を引き取る状況というのは、主に性的な衝動を満足させるという用途が多い。だから、ヴェルナーもそうなのだろうと判断したアルノルドは、まさかと思いつつヴェルナーという人柄を誤解した。しかも、コレットの見た目は、誰が判断しても子供だと言うだろう容姿。

 もちろん、機械であるヴェルナーには性欲というモノは無く、つまりは性的衝動を満足させるという目的も無くて、ただ情報収集の一環として引き取った人材でしか無い。けれど、その事を詳しく説明しないままヴェルナーは会話を終えてしまった。

 アルノルドは瞬間的に嫌悪の表情を浮かべたが、次の瞬間には表情を元に戻して話を続けた。彼は、死にかけていた魔物の森で自分の命とパーティー達を助けられた、という恩だ。ストレートに軽蔑するような眼差しを向けるのが、アルノルドには躊躇われたからだった。けれど、表情は穏やかにしたものの、内心では複雑な感情で一杯になっていた。

「それから、ペスカの剣の皆さんにこれ以上お世話になるのも悪いので、そろそろ自分は村に帰ろうかと思います」

 そして、間の悪いことにヴェルナーは以前から考えていた、自分の家に戻るという予定を今のタイミングで伝えるのだった。アルノルドは、ヴェルナーが幼女を連れて村に帰ると聞いて落胆と、安堵の感情を心に浮かべていた。

「そ、そうか……。うん、それが良いかもしれない、な」

 ギクシャクしながら、ヴェルナーの元居た村への帰還を受け入れるアルノルド。実はヴェルナーがとんでもない性癖を抱えていると勘違いして、彼を特に引き止める事も無く、賛成するのだった。

 そんな会話をヴェルナーとアルノルドの二人がしている最中に、ペスカの剣のパーティーの皆が集まってきて、情報が共有されていった。

 ヴェルナーが奴隷を買い取って来たこと、それから魔物の森にある村へと帰ること。話を聞いていたモレナは、アルノルドと同じようにヴェルナーがコレットを性的な目的で引き取ったと勘違いして、刺すように鋭い視線を向ける。その他2人も、複雑そうな表情を浮かべてヴェルナーを見るのだっだ。

 しかし、そんな事は気にした様子もなく、ヴェルナーは話を続けた。

 そんな話し合いが行われた結果、その日のうちに荷物をまとめてヴェルナーはペスカの剣の拠点から出ていくことが決まった。

 ペスカの剣の一行は、ヴェルナーの人柄を勘違いして一刻も早く拠点から出ていって欲しいと願い、ヴェルナーもなるべく早くコレットを連れて街を離れたいと考えていたので両者ともに都合がいいと、すぐさま話がまとまり実行されることになった。

 

***

 

「あの、これから一体どこに?」

 夕方になっているのに、ディフェシュタットの街を軽装のまま出ていこうとするヴェルナーに不安を感じて、今まで黙っていた奴隷であるコレットが口を開いた。

「これから、俺の住んでいた村に向かう。なるべく早く向かわないといけない」
「早く、ですか? もう夕方で直に夜になってしまいます、そうなると外を歩くのは危ないのでは無いでしょうか?」

 街の外へ出る準備も特にせず、馬車も無いので歩いていくのかもしれない。しかしコレットはまさに今、立っているだけでも辛く、もうしばらく歩いたら気絶して倒れてしまいそうな程の調子の悪さで、自身の具合の悪さを理解していた。

 そんなコレットは、日が沈んで空が暗くなりつつあるのに街を出て、これから魔物の森のある方角に存在するらしい村に、ヴェルナーの後を付いて歩いていけるかどうか、不安に感じていた。

「うん。なるべく早く村に戻って、君の病気を治さないと死んでしまうから」
「!?」

 コレットは商人の男に口止めされていた病気の件について、自身が話す前に既にヴェルナーに知られていたことに驚愕して、更に病気を治すと言う彼の言葉に唖然としてしまった。

「あのっ、わたし! その事は、隠していろって命令されて、それで、私の意思じゃ無くて、す、捨てないで下さい! っごほっ……っくっ……」
「落ち着いて。君を捨てる気なんて、さらさら無いよ。まずは、病気を治す準備をするために村へ戻るんだ。見たところ、だいぶ具合が悪そうだからこうしよう」
「キャッ!?」

 慌てたコレットがヴェルナーに縋り付き、懇願しながら咳き込んだ。その様子を見て、今後の予定を説明しながら彼女を抱きかかえて、村へと戻る道を歩き始めたヴェルナー。

 そんなヴェルナーの突然の行動に驚きつつも、抵抗できずに抱きかかえられるままとなるコレットだった。 

 

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