第09話 門前戦

 門の開かれた先に居た武器を手に持った数十人の市民。豪華絢爛な格好をする貴族にも戦闘服を着込んで戦いに備える兵士にも見えない、泥や炭で汚れている簡素な恰好から市民だと分かる、彼らが手に武器を持って武装しているという様子に驚いて僕は呆然としてた。

「ノア。危ないから、こっち」
「え? あ、うん。ってうわッ!?」

 そんな中でアディは、何事もないかのように誰よりも早く反応して動き出す。危ないからと言って僕を腕に抱えると、少し離れた場所にジャンプで移動した。突然抱えられ飛び上がられた僕は、武装市民の登場に続いて驚き声を上げてしまう。

 アディの動きに怯んだように見えた市民たちは、しかし武器を構え直して僕たちに目標を定めた。叫び声を上げて威嚇してくる市民に、アディは平然と立ち向かっていく。

「ちょっと待ってください皆さん、落ち着いて!」

 聖女様が声を張り上げて止めようとしているみたいだったが、誰も聞きはしないで街の門が開かれた前で戦いは始まった。

 僕も護身のためにと近くに転がっている鎧を着込んだ死体から剣を拾い取って、構えてみる。生まれてこの方、剣なんて持ったことも握ったことも構えたことも無いけれど、思ったよりも軽い。これなら適当な姿勢でも牽制にはなるだろう、という気持ちで備えた。

「本気か?」
「聖女様を守らないと、やられるわ!?」
「ぐっ、やるしか無いのか」

 聖女様が制止する声を聞き入れず、市民は襲ってくる。戦士と魔法近い、鎧の男の三人が馬車の前に降りて、守るように立ちふさがる。その後に続いて馬車から降りようとしている聖女様を、引き止めている僧侶の女性。

「待って、戦うつもりはッ!」
「危ない、馬車から降りちゃ駄目です聖女様! ここから逃げなくては」

 そして僕を目掛けてくる市民も居るけれど、アディが虫を追い払うような手軽い感じで、大剣を振るって市民を倒していく。

 すごい勢いで大剣に打たれた市民は地面へと転がり、その一撃で死んだかのように見えるけれど、倒れてから呻いているようで生きてはいるようだった。アディの死にそうなほどに強烈な一撃を受けて、とても痛そうではあったけれど。

 僧侶は逃げ出すために馬車を操縦しようとしているが、前方にいる武装市民が邪魔で馬が言うことを聞かなくなって方向転換が出来ない。

 そうこうしている内にドンドンと増えていっている市民の数に、護衛の三人は体力が消耗していって動きが鈍くなっているのが見えた。アディは楽勝そうだったが、コレではいずれ護衛三人がやられてしまう。

 出会ったばかりの人達とはいえ、見捨てることは出来ない。聖女様からは依頼も受けているし、報酬が貰えなくなる。

「アディ! あっちの三人を助けないと」
「ノアは、そのまま動いちゃ駄目」

 相手は武装しただけの市民だ。見た感じでは剣の振り方も慣れているようには見えず、ただの市民が武装しただけならば、同じ素人の僕でもなにか手助けできるかもしれない。そう考えて助けに入ろうかと動こうとした瞬間、アディから子供に言うことを聞かせるような口調で注意が入った。

「チッ!」

 離れた僕の耳にもハッキリと聞こえる舌打ちをしたアディが、嫌そうに護衛三人の助けに入った。

「すまない、アディ」
「助かりました、お姉さま」
「ありがとう、だがまだ敵が来ているぞ」

「……」

 三人の感謝の言葉を聞いても、聞こえないように無視をして大剣を振り続けるアディ。そして、危なかった状況が一転して市民の不利となっていた。これなら、急ぎ馬車を操縦して逃げられるかもしれない。一息つけると思った瞬間だった。

「ウラァアアアアアアッ!!」

 突然聞こえた、甲高く鼓膜が破れるかと思うほどの大きな声に驚かされる。声が聞こえた方を見ると、一人の女性がアディに斬りかかっていた。アディの大剣と、突然現れた女性のロングソードが空気のブンッと切れる音と共に、ガキンとぶつかりあう鉄の音になる。その戦いの音が辺り一面に響き渡る。
 
 突然現れたのは、背の高いアディよりも更に背の高い女性。褐色肌に顔や腕に大きな傷跡が特徴的の、その女性は巨体に見合わない猛スピードでロングソードを振るっている。

「危ないッ!」

 僕は思わず声を上げてしまうほどの動き、アディは頭上ギリギリの所で大剣を構えて敵のロングソードの攻撃を受け止めていた。一瞬静止したと思ったら、再び両者は目にも留まらぬ素早さで動き出す。大剣とロングソードの残像が見えるほどの速さで振るわれていく。

 攻撃力は高そうだがスピードで負けてしまう大剣に対して、攻撃力は並だがスピードが勝っているのだろうロングソード相手では、アディに不利かもしれない。

 アディに匹敵する強者が現れた、これはマズイかもしれない。どうにかして、敵の注意をひきつけてアディを助けないと。

 幸いなのは、その二人の戦いだけ明らかにレベルの違う様子に市民たちも唖然として、動きを止めて突っ立っていた事だろう。

 しかし、アディを助けるためにはどうすればいい? どうすれば……。

「アディ!!」

 再びの危機、ロングソードの刃がアディの右腕ギリギリに迫る。

「って、あんたアディ? なんでそんな恰好してんの?」
「あ、もうバレちゃった」

 先程の耳をつんざく大声を発した女性と同一人物とは思えないような、綺麗に透き通る声が聞こえてきた。というか、アディの知り合いだったらしい。