第08話 街の異変

 道中を進んでいる途中に魔物に襲われながらアディの活躍によって特に問題も起こること無く、ようやく街が見える場所へと到着した。森のちょうど切れ目にあるその街は、数万人の住民がいるらしい、中々に大きな規模の所であるらしい。

 戦士と魔法使いに鎧の三人は、何度も繰り返し起こった戦闘によって疲れ果てて足取りが重そうだった。馬車が通れる道をかなりゆっくりとした速度で進んでいたが、もう少しで街に到着するところで聖女様が待ったをかけた。

「その格好では、検問所で止められるかも知れません」

 確かにアディは胸と腰を隠すだけの際どい格好をしていて、それでも平然としていたので言われるまでは特に気にしていなかったけれど聖女様の言う通り、そのままの格好で街の門を通ろうとしたら何かしら言われるかも知れない。

「貴方ものです、ノア」
「? 僕もですか」

 どうやら、他人事のように思っていたら僕の格好もマズかったらしい。監禁されていた頃からずっと同じ格好をしていたので、自分では気にしていなかった。確かにココに来るまで、例えば逃げ出す時に木の枝などに服を引っ掛けて破れて穴も空いている。アディの恰好に意識が引かれて気にしていなかったけれど、うん、確かにこの格好はマズイかもと改めて自覚する。

「私達の替えのローブがありますので、こちらに着替えて下さい」
「あー、はい。分かりました」

 これに着替えて下さいと侍女僧侶に渡されたのは、彼女たちが身にまとっているローブの予備だった。これなら、頭からスポッと被って今の格好に比べてだいぶマシになるだろう。ただ、着てみると子供のように体の小さい僕にはローブが少し大きくて、身の丈に合っていない。でもアディには違っていたようだ。

「サイズが小さいな」

 僕とは反対に、体の大きいアディにとってはサイズが足りなくて、全身が隠しきれずに足から太もも、その下は完全に見えている状態になっていた。なんだか不格好だ。

「コレで大丈夫でしょう」

 恰好の良し悪しは関係なく、晒された肢体を隠すという目的だけ果たせれば良いのだろう。聖女様は、僕やアディの恰好を特に気にせずに街に向かって再出発した。


***


 街に近づいてみると、何となく異様な雰囲気が漂っているのを感じる。何故、そのように感じたのか理由がハッキリとしないが、近づかないほうが良いんじゃないかと言う気分が湧き上がってくる。でも、目的地はあの街だ。進行をやめる訳にはいかない。

 聖女様も戦士達も皆、その異様な雰囲気を感じ取っているのか口を開かず黙ったまま厳しい表情を浮かべている。しかし、アディだけが平然としているように見えた。そんな中で、最初に口を開いた聖女様。

「街に何か有ったんでしょうか」

 馬車を進めて更に近づいていくと、原因が分かった。街の門付近に人間の死体が転がっているのが見えたから。鎧を着込んで、閉じられた門を囲むように半円形で散らばって数十体の死体が転がっている。あまりの光景に僕は絶句した。

「おい、お前ら! そこで止まれ」

 若い男の声が門の向こう側に居るのだろう、姿は見えないが聞こえてくる。しかも何か焦ったような、慌てたような尋常じゃない様子が声からわかった。

「この街に一体何用だ?」

 若い男の詰問する鋭い声に答えたのは、聖女様。

「私達は、王都に向かう途中の旅人です」
「この街は今危険だ、すまないが街には入らずそのまま先に進んで行ってくれ」

 この街の中に入れたくないのか、何も語らずに先に進めと指示される。だが、こんな光景になっている場所を見過ごせないのだろう、聖女様は手を差し伸べるような言葉を口にする。

「何事ですか? 私達に手助けできることがあるなら手伝います」

 ”私達”というのは誰を含んでいるのだろう。戦士たちは含んでいると思うけれど、もしかして自分とアディも含まれているのだろうか。できれば、報酬を貰ってアディの仲間を探して、さっさとこの場所に関わらず離れられれば一番いいのにと僕は考えていた。

 冷酷なようだが、何が起こっているのか分からないのに手伝いを申し出ていくなんて理解できない。そこの死んでいる人達も、もう死んでいるのだから助かる見込みはない。そもそも彼らはなんで死んでいるのか、死体を放置しているのか。理由を考えても分からないから、素直に言われた通りに街を通り抜けて先に行けばいいのに。

 そう僕が考えている間、門の向こう側に居るだろう若い男の声は黙ったまま聞こえなくなった。いや、かすかに声が聞こえてくる。誰かと言い争っているような声が。

 最初に門の向こうから聞こえてきた若い男の声と、別の誰か、何人か居るようだったが数まではわからない。何人かで言い争っているようだが、内容までは聞こえない。

「聖女様、ここは先程の男性が言ったように先に進んだほうが……」
「いいえ、困っている人が居るのかもしれないのに助けないでどうするのですか」

 侍女僧侶の女性がおずおずと助言するが、聖女様は聞き入れない。まだ街の中で何が起きているのか探るつもりらしい。僕も侍女僧侶の言葉に同意だが、何も言わずに黙っておいた。

 そうしていると、街の門がゆっくりと開いた。開かれた門の先で何人もの市民が武器を構え、僕たちを威嚇するように待ち構えて。