第05話 所有宣言

「本当に目的地はコッチで合ってるんですか?」
「んー、コッチだよ。……多分」

 仲間と合流すると言って先を歩いているアディに確認してみるが、不安な答えが返ってくる。本当に考えて道を進んでいるのだろうか、心配になってくる。けれど、僕には道が一切分からないので後を付いていくしか無い。

 外に出たのが何年ぶりかのことで、その前も生まれ故郷から出たことがない無知の人間である。街の位置はわからないし、森の中で放置されでもしたら少し前にあったように餓死して死ぬか、もしくは魔物に襲われて死んでしまう状況になって、助かる見込みはない。

 だから、必死になって付いていくために朝からずっと歩きっぱなしだ。魔物の露払いはアディが全て行ってくれて、僕は後ろを付いていくだけだった。その魔物も、しばらく前に見なくなった。もしかしたら森に棲む魔物を全て倒してしまったんじゃないのかと思えるくらい、森の中は静かになっていた。

 後を付いて歩くと分かる彼女の背筋。背中に掛かる金髪の間から、チラリと見えるセクシーな筋肉の盛り上がり。本当は彼女のその背中を眺めたくて、後ろを付いて歩いているのかも知れないと馬鹿な考えを頭に思い浮かべる。

「今日は、ココで休もう」
「は?」

 突然立ち止まったアディは、森の何の変哲もない場所で止まるとそう宣言した。ここで休むんだと。

 確かに、気がつけばいつの間にか辺りはオレンジ色の空に徐々に暗くなってきていて、もうすぐ日が沈んで真っ暗闇になるかも知れない。それにしても唐突に過ぎるように思ったが。

「まだ目的地までは遠いんですか?」
「わからん」
「えっ!?」

 近くに落ちていたらしい枯木を拾って、慣れた手付きで火を熾す準備をしていく。アディのサバイバル能力は万全なようだ。けれど、仲間の居場所は覚えてないのか分からなくなったのか、詳細を教えてくれず不安だった。

 でも彼女が、今日はもう動かないと言ってしまったので僕も仕方なく彼女に従って地面に座り込む。というか、戦闘から寝床の準備まで女性である彼女に任せっきりになってしまった。

 本当なら男の僕が率先して彼女の手助けを出来ればいいが、そんな能力は無いことを自覚しているので素直に彼女に頼り切る。

「腹が減っただろう、コレを食え」

 何処に持っていたのか、先程倒した魔物から切り落とした肉を取り出してきたアディ。そのまま火にかけてこんがり焼くと、ホラと僕に向けて差し出してきた。美味そうな匂いが漂ってくるが、魔物だと考えると食べるのに躊躇する。

「どうした? ほら、食べろ」
「えっと、これ魔物のお肉ですよね」
「? 美味しいぞ」
「いや、体に害とか」
「みんな食べてるから大丈夫だ。おまえも食べただろ?」

 知らない内に僕も食べていたらしい。というか、死にそうになりながら食わされた得体の知れない肉は魔物の肉だったのか。そう考えると、食べても大丈夫……なのか?

 急に腹が減ってきたのを感じて、仕方なく肉にかぶりつく。がぶりと一口食べるが、普通のお肉のように思える、問題は無さそうだ。

 味付けも下ごしらえもしていない筈の肉が、食べてみると程よく塩辛くて肉の臭みも感じない。美味しいと感じて、なんだこの肉はと驚愕する。

 というかよく考えれば、僕は今まで食べてきたモノをよく知っている訳ではなかった。いつも出された物を食べていただけで、よくよく考えたら魔物の肉を食べたことがあるかも知れない。こんなに普通に食べられるなら、この世界は魔物の肉なんか常識的に食べられているのかも知れない。

「うん、美味い」

 肉を食べた彼女の感想。僕に食べ物を分け与えてくれた後、アディも一緒に食べていた。僕に先に食べさせたのは毒味か? と一瞬の売りに過ったが。いやいや、彼女にそんな悪気を感じない。普通に善意として、僕を先に食べさせてくれたのだと思う。いやけれど……。

「なんで、こんなに良くしてくれるんですか?」

 とうとう気になって聞いてしまった二度目の質問。何故、自分を助けるのかと。死の淵から助けてくれて、魔物の群れからも守ってくれた。そして今も食事を作ってくれて、食べさせてくれた。

 何となく、と答えてくれたのに更に掘り下げて聞き出そうとする。聞かなくても良いことだったかも知れないが、聞かずにはいられない。すると、アディは答えてくれた。

「ノアはもう私のモノだ。大事にするのは当然!」
「は? ”私のモノ”」

 一体いつの間に、彼女にそんなに気に入られたのか原因を理解できない。一目惚れか何かだろうか。とにかく、好意を持ってくれているのなら大丈夫か、大切にすると言ってくれたと安心しかけたが、そうじゃなかった。

「道具は壊れないように、無くさないように、優しく接してあげるのが大事らしいよ」
「ど、どうぐ……」

 ”私のモノ”という言葉も文字通り、モノと言う意味らしい。男として、人間として見られていないらしかった。

「お腹も一杯になったし、寝よう」
「うわッ」

 またもや、頭をガシッと掴まれて彼女の豊かな胸の中に収められる。子供が大事なぬいぐるみを寝る前に胸に抱きかかえるかのように。そうなのか、道具として、大事に……。

 いや、でも。生きるためにはしょうがない。こんな美人で強くて逞しい人に大事にされるのなら本望だと受け入れるしか無かった。