第03話 彼女の正体

 焚き火を挟んで、僕と彼女が座った状態で向かい合っている状況。

 死ぬだろうと覚悟した瞬間から、今のように回復できるとは思っていなかった。それをしてくれたのは目の前の女性だ。そんな助けてくれた人に対して向ける言葉としては非礼すぎるかもしれなかったと、口に出してしまった後に思う。

 だがしかし、まだ敵か味方かハッキリしていないので警戒もする。5年間の監禁生活というのが僕の性格を歪ませたのか、誰も信じられないという気持ちが強かったから。一体何が目的で僕を助けたのか、真実を聞くまで安心できないでいた。

「あたしの名前はアデラヴィって言うんだ。アディって呼んで」

 ニコニコニコっと表裏を感じさせないような笑顔を浮かべて質問に答えてくれる。僕の失礼だと思えるような聞き方は、気にした様子もない。

 見た目から推測するに多分二十歳を超えた成人女性だと思われるが、答え方や口調には幼さを感じる。しかも、鍛え上げられた身体は一般女性だとは思えないようなスタイルをしていて、そこかしこにチグハグさを感じる。

 今まで見てきた普通な女性とは違うんだと、一瞬見ただけで感じ取った。そんな風に、彼女の観察を続けていると向こうから質問をしてきた。

「あんたの名前は? 何処から来たの? 森のなかで何をやってたの? どうして倒れてたの?」
「ちょ、ちょっと待って」

 答える前に次々と彼女から質問を繰り返される。というか、彼女は僕が何者かを知らずに助けてくれたようだ、ということが分かった。けれど、もしかしたら演技なのかもしれないと疑いもしたけれど、彼女の目を見ても演技をしているとは感じられなかった。

「僕の名前は、ニカノール……。いや、ノアっていうんだ」

 本名を名乗ろうとしてしまったが、よく考えたら貴族を追放処分された僕の名前は抹消された過去だろう。そう思って、別の名を告げる。

「王国から、えっと、ある事情があって森のなかに輸送されてたんだ」
「ふーん」

 自分で語れることは少ない。その中でも何とか説明しようと頭の中で整理してから話そうとしていたのだが、彼女は直ぐに興味を失ったかのように気のない返事をするだけだった。

 興味を失ったのなら、と今度は再び僕から質問。

「それよりも、貴方はなんで僕を助けてくれたんだ? 貴方の本当の目的は何?」
「え? 目的って言われても……。何となく?」

 彼女は顎に手を当て一瞬だけ考えたのか、けれど出てきたのは釈然としない答えだった。何となくで助けられた? 彼女の考えが理解できなかった。

「そんな、何となく……。でも、ありがとうございました」
「いいよ気にしないで。あたしの気まぐれだから」

 釈然とはしないけれど、助けてもらったのは事実だった。だから助けてくれたことに関してお礼を言うと、彼女は本当に気にしていない様子であっけらかんとしていた。

 だからこそ、僕は思った。彼女を巻き込んではいけないと。

 僕は今、魔物寄せという得体のよく知れないスキルを持っている。正直なところ、このスキルがどの程度効果を発揮して魔物という危険を呼び寄せるのかは理解していない。

 王国に魔物を呼び寄せているのは、この僕の持つ魔物寄せというスキルが原因だと思われていた。けれど、それは本当に僕のせいなのか。公爵家嫡男として気軽に処分できないという理由から監禁された生活を過ごすことになったので地下に籠もっていたけれど、その時もずっと魔物と遭遇することはなかった。だから、スキルが発揮されているのか自覚がなく効果の範囲も判明していない。

 ただ、このスキルが本当に魔物を寄せるスキルであり、今も呼び寄せているのだとしたら僕の側に居ることは危険だと思う。

「助けてくれたのは、本当に感謝しています。ただ、僕の事は放って置いて下さい」
「なんで?」

 アディと名乗った彼女を巻き込まないよう遠ざかるため立ち上がろうとするが、呼び止められる。わざわざ見知らぬ僕なんかを助けてくれた人だ、詳しく説明しないと離してくれないかもしれない。

「僕の持つ魔物寄せというスキルが危険なんです。僕の近くに居たら魔物が襲ってきて死の危険が」
「あ! あんたが原因だったんだ!」

 理由を説明して納得してもらい離れようと思ったら、何か別のことに思い当たって納得をする彼女。一体何事だろう。

「いやー、勘に頼った通り。やっぱり拾って良かった!」
「は? どうして!? 僕と一緒に居たら魔物が寄ってくるんですよ。危険です」

 何故か喜んでいる彼女。もう一度、僕と一緒に居る危険性を説明しようとする。だが、彼女は喜ぶだけだった。

「とっても良いスキルだね!」
「だから、魔物に」

 何度説明しても危険性を理解してくれない、と焦った僕だったが次の瞬間には何故彼女が余裕そうなのか理解した。

 更に説明をして理解してもらおうとしたその時、僕の目の前に黒い影が飛び出してき。物体のあまりのの早さに、反応するのに遅れる。バゴンと何かがぶつかる音。

「は?」
「ほら」

 いつの間にか、彼女は座ったままの状態で手に持っていた大剣のような武器を天に向けて掲げていた。そして、黒い影に見えていた黒豚のような大きな顔に特徴的な鼻と三角形の耳、丸く太った身体だったそれが地面に倒れていた。絶命した状態で。

「え?」
「今日は大漁だなぁ」

 魔物が襲ってきても簡単に倒せる力を身に着けていたアディ。目の前で見せられた光景から、ようやく彼女の実力を把握することが出来た。とんでもない戦闘力の持ち主だということを。