第04話 無敵

 数時間ぐらい前は死にかけていたと思ったら、一回の食事で急速に体の状態は回復していった。これもスキルの効果だろうか。同じく数時間ぐらい前には保有していなかった見知らぬスキル。回復したキッカケは、この新たに発現したスキルぐらいしか思い当たらなかった。

 勇者のスキルというのは、身体能力を底上げしてくれるという物のようだ。発現してから体の調子が以前と比べてすこぶる良くなっているように思う。劣悪な環境で生活していたせいか、いつも感じていた倦怠感が嘘のように消えていた。

 そして大食いというスキルについては、その名の通り物を多く食べられるというスキルのようだった。このスキルのおかげなのか、アディの手によって用意され大量に食わされた肉は全て食べきることが出来た。

 更には長年まともな食事もせず餓死寸前だった筈の胃でも、食べたモノを戻すこと無く胃に収めて今も具合が悪くなっていない。

 どちらのスキルについても、今分かる情報はそれぐらい。

 身に付けたスキルと能力の内容については感覚である程度は分かるけれど、もっと詳しくスキルの内容を知るためには、調べるための道具が必要だった。

 早く走れるというのは何となく自覚して分かるけれど、詳細に何メートルを何秒で走れるのかを調べる為には長さと時間を測るための計量器が必要だというようなものだと思う。

 そして分からない正体不明のが魔物寄せというスキル。どの程度の効果があって、範囲はどれくらいなのか。知っていないと、とても困るスキルだと思うけれど。でも今は詳しく調べることは出来ない。

 だがしかし、その魔物寄せというスキルは正常にと言うべきか、今は正しく効果を発揮しているようだった。というのも。

「アハハハハッ! ノアと一緒に居ると、どんどん魔物が寄ってくるねっ!」

 先程出会ったばかりのアデラヴィという名の女性。彼女が、森の中らかワラワラと集まってきている魔物を嬉々として打ち倒していっている。

 先ほど見せられたアディの装備している大剣は、実は刃がボロボロになっていて本来の切るという機能を果たせていない。そんな欠陥武器を鈍器のように扱って、切るんじゃなくて殴って魔物を絶命に追いやっている。

 大剣を振り続けて1時間以上も止まらずに、彼女は魔物との対決を楽しんでいる。化け物のような体力だ。後ろで守られて付いていくのがやっとな僕の方が、体力を消耗して疲れ切っているぐらい。

 アディの話によれば、彼女の仲間が近くに居るらしくて合流するために目的地を目指して進んでいるらしいが、僕のスキルのせいで魔物が寄ってきている。まるで森のなかに住んでいる魔物が全部、僕のいる場所に向かって来ているのではと思えるぐらいの大群が。

 でも、進んでいかないと魔物に取り囲まれてしまうかも知れない。だから、火を熾していた場所から離れてアディの目指す場所に到着する必要があった。

 アディと僕の二人が進む道に沿って、魔物の死体が積み重なって轍のように通った跡が残っていく。

 幸いなのは、アディの使っている武器が刃で切るのではなくて鈍器として殴っているので、魔物の死体には殴打した跡だけだった事。血が流れ出るのを見ずに済むので助かった。こんなに大量の魔物の死体から流れ出る血の量を想像すれば、見た目はもちろん匂いもヒドイことになりそうだったから。

「ほら、後ろにしっかりと付いてきて」
「うわっ」

 どの方向にも目があるかと思えるように、前後左右上下どの向きから襲ってくる魔物でも瞬時に察知して対応するアディ。今も僕の後ろに潜んでいたらしい魔物をアディが見つけて殴りつけたらしくて、次の瞬間には地面に転がる死体になっていた。

「んむっ! だ、大丈夫です。気をつけますから離して下さい!」

 しかも、僕を守ってくれる為なのか恥ずかしがる様子もなく彼女は僕の頭を抱えて胸に抱き込む。頭から、彼女の胸の感触が分かるぐらいの重量感。抱き込まれて息が出来なくなる。

 彼女の服装は、今も薄く頼りない布切れのような物を体に巻いただけの格好だ。抱き寄せられたら肌が直接触れてしまって、肌の触感から体温まで感じ取れるぐらいに近い。その状況に僕の方が恥ずかしくなって身体を離すように訴えると、素直に開放される。

「危ないから! 気をつけないと」

 本気で心配してくれているのか、離れたがった僕の顔を覗き込んできて確認するアディ。背の低い僕が見上げて、背の高い彼女が見下ろす。身長の差が普通の男女に比べると逆転していた。

 監禁生活で栄養もまともに摂れずに成長障害が原因で身長が低くなったのだろう、僕は背が低いのは仕方がない。それを考慮しても、男の僕よりも遥かに身長が高い彼女。目算で180センチを超えているだろうと、男性の平均も大きく上回る背の高さが有るアディ。

 偶然の出会いだったが、アディに出会えたことは人生で一番の幸運だったと思う。今は彼女がそれ程までに頼もしく思える存在だった。