第02話 救援?

 意識が戻るがまだ完全に覚醒してたわけではなく朦朧としていて、周りの状況もよくわからない状態。そんな中で理解できたのは、自分がまだ死んでいないということ。そして何か、もしくは誰かに身体を持ち上げられて運ばれている途中のようだ、ということだけだった。

 状況をもっと詳しく確認しようとしても身体は変わらず動かないので、周りを見ることは出来できない。一体何に運ばれているのか。もしかしたら魔物か何かなのか、と思ったけれと薄く開けた目に映る肌色から人間のようだと思えた。

 ザッザッザッという一定のリズムで土を踏みしめる音が聞こえて、身体も振動するのが分かった。それから頬にあった土の感触は、今は何故かフニフニとした柔らかな何かが当たっているように感じていたが何かまでは分からない。

 獣のような臭いの中に、何か甘い香りが漂ってくる。その匂いを嗅いでいると、頭がしびれるような、けれど安心した気持ちになる。

 だがしかし、再び意識がぼんやりとしてきて事実を突き止める前に僕は再び意識を失った。


***


 また目を覚ました時、今度は地面の上に仰向けにされて寝かされていた。視線の先に暗くなった空が見えるから、時刻は夜だろうか。さっきの担がれて運ばれているという状況は何だったのか。一瞬、何がどうなっているのか頭が混乱する。

 首を横に倒して見ると、火が熾されているのが見えた。そのため辺りはぼんやりと明るくなっているが、森のずっと奥は暗くて先が見えない。

 その場には俺の他には誰も居ないようだった。何故わざわざ火を熾して、僕は生かされたまま地面に寝転されているのか。死にかけていた状況から多少の変化はあったが、今もなお生き残れるか分からない状態で恐怖を感じていた。

 誰か人に会いたい、と心で思った時に彼女は現れた。

「おや、起きたのかい」

 宝石のように価値がありそうな美しい青い瞳と光を反射して輝いているように見える金髪、活動的な女性なのだろうと分かるような小麦色に焼けた肌。そして何よりも目を引くのは彼女の腹筋だった。

 胸と腰の必要最低限というような部分だけを簡素な布で覆っている、水着のように隠す部分が少ない服装。美しい肢体を惜しげもなく晒した格好で、首や腕は適度に女性らしい肉付きなのに対して腹筋は、腕の感じからは想像できないほどにしっかりとしたシックスパックが出来上がっている。

 今までに女性の肢体をまじまじと見た経験は少ないけれど、あんなに鍛えられた身体の女性を見たことがなく不思議と視線が引き寄せられた。引き締まったお腹にくっきりと浮かび上がる6つに分かれた筋肉。それを見た僕は彼女を美しいと思った。

「どうだ、意識はあるか?」
「あ、う」

 声を出そうとするが、喉から漏れる息を吐くのみ。上手く言葉にできずに、彼女には意思が伝わらない。

「腹が減ってるんだな、ちょっと待ってろ」

 違うそうじゃない、という否定の言葉も伝えられない。先程まで空腹を感じていたのに、今は腹が減っていると感じていなかった。それよりも、何がどうなっているのか状況を確認したかったが声が出ないのではどうしようもない。

 しかし女性は、僕が腹減りなのだと思い込んで食事の準備をしてくれているようだった。見ていると何の肉かも分からないが、赤い血の滴った拳よりも大きな物体を火で炙っていた。

 もしかして、あれを食わされるのだろうか。今までの監禁生活で碌なものを食ってこなくて、直前までは餓死しそうになっていた状態。それはつまり、僕の胃は弱りきっていると思う。そんな状態であんなモノを食わされたら、口に入れても絶対に吐き出してしまうだろうと予想できる。

「さぁ、焼けたぞ。食え」
「うっぐっ」

 拒否する言葉も伝えられず、焼き上がったばかりの肉らしい物体を口に充てがわれる。食えないでいると窒息死してしまう! 必死になって顔を動かそうとするが物体は退かない。仕方なく、歯を立てて噛み切り飲み込もうとする。

「美味しいか? さぁ、どんどん食え」
「ハァハァ、うっ」

 女性の屈託の無い笑顔が悪魔のようだと思った。彼女は僕を助けるつもりはなく、拷問のような方法として肉で窒息死させるのが本当の目的なんじゃないのかと。これでは死んでしまう!

 そう思った時、新たなスキルが発現した事を自覚した。

 ”大食い”というスキルを。

 そのせいかどうか分からないが、肉を食っても大丈夫な気がしてきた。口に充てがわれる肉を噛んで何とか飲み込む。それを繰り返し行った。一体何故、こんな時にという疑問が一瞬頭を過ったが、今は食うことに集中した。

 そんな風に食事をしていると、次第に苦しく感じていた身体が徐々に回復してきたのが分かった。

「どうだ美味いか?」

 そう言えば、女性に「あーん!」と食べさせもらうなんて憧れのシチュエーションだなと考える余裕も出てきた。

 自分の身体に対して不気味に感じるぐらいの早さで回復して、危険な状態から脱した事が理解できた。地面に倒れていた身体を起き上がらせて、その場に座り直す。

 死にかけていた所から安全な場所に運んでもらった。そして、空腹を満たすための食事も用意してくれた。しかし僕には、それをしてくれた目の前の女性に見覚えはなかった。

「貴方は一体誰ですか?」