第02話 ギルド受付での話

 受付の女性が倒れたのを見て、僕は顔が見えないようにフードを被り直した。


 前世からコチラの世界に転生してから既に何十年も経っているが、未だにコチラの世界の常識に慣れていない僕は、男という人種がとんでもなく貴重であり、多くの女性達が男性と接触するという経験が少ない、あるいは未経験という状況。先ほどのように突然男性であることを明かす為に顔を晒すと気絶するぐらいに衝撃を与えるかもしれないという事を忘れていた。


 ダンジョンに入れるかどうかの続きを聞くために気絶した女性を起こしたい。しかし近くに寄って声をかければ、男性慣れしていないみたいな彼女はまたすぐに気絶する可能性がある。ただ、このまま倒れたままにしておくのも可哀想なので、彼女が目を覚ます前に椅子に座り直させてから声をかけられる状態に戻すことに。


 受付の間を挟む机を飛び越えて、女性がいる側に着地する。女性がビックリして気絶した時に一緒に倒れたイスを立て直してから、彼女を抱き上げて立て直したイスの上に座り直させる。そしてまた、受付の机を飛び越えて元の位置に戻る。


「大丈夫ですか? 起きて下さい」
 何事もなかったかのような振る舞いで、受付の女性に少し大きめの声を掛けて起きるように促す。


「え? あれ? 私……」
「大丈夫ですか?」
 僕の存在を認識した彼女はまたびっくりして声を上げそうになる。ただフードをかぶっていたおかげか、今度は気絶する様子はない。どうやら顔を見なければ多少は大丈夫そうだと思いながら僕はそっと落ち着く。そして一応念の為に、少しだけ彼女から離れて距離を取る。


「ご、ごめんなさい。エルフの男性の方とお話するのって、その、初めてで……。顔もなんだか、えっと、すごくって……」
「突然気絶したんでびっくりしましたが、僕は大丈夫ですよ。僕の方こそ、突然フードなんか取ってびっくりさせてしまいましたね」
 何とか穏やかに会話を続ける。彼女が緊張しながらたどたどしく話す様を見て、本当に男性慣れしていないようだと感じたが、受付の仕事は全うしてくれるようだった。
 ただ、このまま話しているだけじゃ時間がかかりそうだったので会話の流れを、少々強引に元に戻す。
「それで、ダンジョンの入場許可をお願い出来ますか?」


 受付の女性にそう聞くと、彼女は眉の間にシワを寄せて困ったような顔になった。どうやら、簡単にはダンジョンに入れないようだ。


「えーっと、ひとつお聞きしたいのですが、ダンジョンへはお一人で行かれる予定ですか?」
「えぇ、そう考えていますが」
 魔法研究でしばらく王都暮らしをしていたが、殆どを研究所の建物内で過ごした僕には研究所以外では知り合いが殆ど居なかった。そして今日研究所を突然追い出されてしまい、何も準備出来ぬままココに来たので、一人だ。


「大変申し訳無いのですが、現在は男性の方がお一人だけでダンジョンに入る事は禁止されていて、許可が出せない事になっているのです」
 本当に申し訳無さそうに彼女が告げる。
「え? そうなんですか?」


 詳しく話を聞いてみると、近年では男性人口が更に減少傾向に加速しているために男性を保護する国が定めた法律が変更されていって、その変わった法律の中には男性が一人でダンジョンへ入ることを禁止する事が追加されたらしい。そのため、先ほど彼女が言ったように僕一人ではダンジョンの入場が許可できないという事らしい。


「あの、女性の方をどなたか一緒に行かれるのならば入場許可を出せますが」
「えーっと、どうしょうか」
 今から、知り合いにあたってダンジョン攻略を一緒にしてくれる人を探すのは難しそうだ。そもそものダンジョンへ行く目的は旅のための資金を稼ぐことだったが、故郷へ帰るのならば今の持ち金でも何とかやって行けるだろう。


 そう結論づけた俺は、ダンジョンへの入場を諦めて帰ろうかと考える。久しぶりに懐かしいと懐かしみながらダンジョンへ行こうと思っていたために多少はガッカリしたが、ダンジョン入場は絶対に果たさなければならないことでもないので諦めようか、と決心しかけたその時。

「なぁ、そのダンジョン私達と一緒に潜らない?」
 受付の女性が座っている方向とは反対側、僕の背後から女性の声が聞こえてきた。

 

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